追悼・志村けん『となりのシムラ』が笑える理由
メディアゴン / 2020年5月9日 7時30分
![追悼・志村けん『となりのシムラ』が笑える理由](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/mediagong/mediagong_30179_0-small.jpg)
高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]
***
志村けんさんが、不慮の病で亡くなって故人を偲んで再放送された『となりのシムラ』を見ました。NHKの公式放送記録には次のように記されています。
お笑いの神髄を追求してきた志村けん、NHK初のコント番組。志村が演じるのは、どこにでもいそうな普通のおじさん。しかし、ちょっとした日常の“ずれ”が笑いを生んでいく。誰もが共感できる“あるあるネタ”を基本にリアリティーあふれる演技でつづる、志村けんと実力派俳優たちが競演する大人のコメディー。
ということで、志村けん(当時66歳)は、持ち味である突拍子のない扮装はしない。実年齢相応のサラリーマン役である。相手役も原日出子、小林聡美、野間口徹、富田靖子、長谷川京子、波瑠、浜野謙太、萩原聖人、と言った役者陣。コメディアンは居ない。
演技も出来る志村さんは、おそらく笑いの量を減らすだろうからとおもい、リアルタイムで見るのは敬遠していた。もう6回もやっていたのか。
「このオレに/あたたかいのは/便座だけ」2007年のサラリーマン川柳が原作のコント。
確かに笑いの量は減っていた。しかも、志村さんが、ここはもっと笑いを足せるに、と言う表情で、「足したいが足してはいけない」と、グッと我慢している様子が見えて実に興味深かった。志村さんが、最後のセリフを言ってカメラが止まれば少なくとも相手役の女優さんは吹き出していたはずだ。これまでならカメラを止めずに、そこまで全部使ったはずだ。しかし、あくまでも志村さんは禁欲的だった。
筆者の好きな笑いはどういうものか。
まず、動きのある笑いである。動きは飛び上がるほど大きくても、顔の筋肉を動かすほどの小さなモノでもよい。セリフだけで、持っていくのはあまり好みではない。そういう意味では「志村さん好み」である。
ふつうのセリフで笑えるのが良い。たとえば「今日は寒い」と言う誰でも言う普通のセリフがある。このセリフには、おもしろい要素は少しも入っていない。だがこの「今日は寒い」と言うセリフが爆笑になることがある。設定がはまったときだ。そういうのが好きだ。あまりやらなかったが志村さんもそういうのが好きだったのではないか。
[参考]たけしさん、それはカッコ悪いんじゃないですか?
どうだ、笑えるだろうと、わざとらしい大げさな芝居をするのは大嫌いである。おもしろい顔とか、おもしろい恰好とか、大きな声とか、ワザのない人がそれで終わるのは嫌いである。「おもしろそう」と「おもしろい」は違う。おそらく、志村さんも同意してくれるのではないか。
「何かが、起こりそうなコントが好きだ」みんな「何かが起こっているコントばかりやっている」志村さんはどう思っていたのだろうか。
設定一発。あとは、その設定に沿って演者が必然的に動く笑い。これを志村さんはあまりやらなかった。志村さんのコントは台本主義だった。
みんな、笑いを離れて重厚な芝居、演技者の方向に行ってしまう。
森繁久弥『夫婦善哉』
伴淳三郎『飢餓海峡』
フランキー堺『私は貝になりたい』
岡村隆史『麒麟がくる』
身体が動かなくなるんだろうなあ。
日本ではいまや『コメディ』というジャンルが成立していないからだろう。それを志村さんは作り上げようとしていたに違いない。2019年明治座公演松竹新喜劇 藤山寛美の『 一姫二太郎三かぼちゃ』(茂林寺 文福/曾我廼家 十吾・作、ラサール石井・演出)で主人公を演じる志村さんを見た。圧巻であった。
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