「コロナ後の絆」の美名で東京五輪・パラリンピック強行?
メディアゴン / 2020年6月6日 7時30分
物部尚[エッセイスト]
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2021年夏に予定されている東京五輪・パラリンピックの中止を、東京、日本、IOCは早々に決定し、発表すべきである。2021年夏頃の日本が、資金・技術・人的資源を投入すべきは自国の新型コロナへの対処である。そして、アジア、アフリカ、南米のコロナ対策への協力だ。アスリートファーストなどではない。「ヒトファースト」であることは容易に想像が出来るだろう。そもそも開催は不可能だと思われる。
ましてや、この大会が「新型コロナ後の絆」などと美辞麗句で飾り立て、強行された場合には、強欲な利権まみれの五輪・パラリンピックとして、歴史に刻まれてしまうだろう。
日本では事あるたびに「絆・きずな」という文字が躍る。絆という字、もともとの中国語では、「馬の足をつなぎとめるための縄」という意味で、転じて人の心や行動の自由を縛るもの。自由をさまたげるもの。手かせや足かせなどマイナスイメージの強い文字である。中国で行われた世界規模のスポーツ大会に、東京のあるテレビ局が『絆』と刻印したピンバッジを大量に持っていき、配ろうとしたところ、もとの意味が分かって慌てて回収したという話を聞いたことがある。
だから「新型コロナ後の絆」と言えば「新型コロナ後の手汗足かせ」という、非常に不適切な標語になってしまう。東京五輪・パラリンピックが「新型コロナ後の手汗足かせ」になってはいけないから「止めます」と言う意味でならおおいに使うべきだと考える。
話は飛ぶが、現在の時代状況は奈良時代、聖武天皇の時代(724~749)に似ている。聖武天皇は奈良時代を通して25年という最も在位期間が長い天皇であった。なぜ長かったのか。軽い神輿として藤原氏に担がれたからだと筆者は思う。妻の光明皇后は、時の大実力者・藤原不比等の娘である。
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その後、不比等の子、武智麻呂、房前、宇合、麻呂の4兄弟が世襲で実権を握るが、737年に猛威を振るった天然痘で全滅してしまう。日本の人口の3割以上が失われたとも言われる天然痘は、交易のあった九州から入ってきたという。当時の都・平城京は国際都市であり、ペルシア人・インド人・中国人・朝鮮人など、外国人のほうが多くらいの都市であったという。長屋王の変、藤原広嗣の変などの戦乱を光明皇后は力で抑えるが、地震や飢饉も重なり、人民は窮乏する。
以下に、万葉集に所載された山上憶良の「貧窮問答歌」の現代語訳(一部略)。
「風交じりの雨が降る夜の雨交じりの雪が降る夜はどうしようもなく寒いので、塩をなめながら糟湯酒(かすゆざけ)をすすり、咳をしながら鼻をすする。寒くて仕方ないので、麻のふとんをひっかぶり、麻衣を重ね着しても寒い夜だ。私よりも貧しい人の父母は腹をすかせてこごえ、妻子は泣いているだろうに。太陽や月は明るいというけれど、私のためには照らしてはくれないものだ。他の人もみなそうなんだろうか。私だけなのだろうか。人として生まれ、人並みに働いているのに、綿も入っていない海藻のようにぼろぼろになった衣を肩にかけて、つぶれかかった家、曲がった家の中には、地面にわらをしいて、父母は枕の方に、妻子は足の方に、私を囲むようにして嘆き悲しんでいる。かまどには火のけがなく、米を煮る器にはクモの巣がはってしまい、飯を炊くことも忘れてしまったようだ。鞭を持った里長の声が寝床にまで聞こえる。この世の中はつらく、身もやせるように耐えられないと思うけれど、鳥ではないから、飛んで行ってしまうこともできない」
そこに襲った天然痘のパンデミック。対処するには祈るしかない。東大寺・毘盧遮那仏、いわゆる東大寺大仏の建立だ。
当時の知識人は漢文の素養があったから「疫病後の絆のため」とは言わなかったとは思うが、このような大規模な建設工事は国費を浪費させ、日本の財政事情を悪化させ、聖武天皇の思惑とは程遠い結果を突き付けることになった。実際に、貴族や寺院が富み栄える一方、農民層の負担が激増し、平城京内では浮浪者や餓死者が溢れた。
東京五輪・パラリンピックの開催と東大寺大仏の建立は同じような愚策だと、筆者には思える。
もとは東北大震災、津波、福島第一原発事故からの『復興五輪』だったことからも分かるように、原発事故後の終息はまだまだ先だ。それらもやりながら、新型コロナにも最大限に対処しながら、東京五輪・パラリンピックを開催する意味がどこにあるのか。それが「新型コロナ後の絆」なら、なおさらである。
ヒトファースト、エッセンシャル(必要不可欠な)ワーカーファーストなら、オリ・パラは不要だ。原発労働者、医療従事者、電力や鉄道、ごみ収集者エネルギー、通信、農業、食品などの分野。この人達に資源を集中するためにも、東京五輪・パラリンピックの中止を決断すべきだ。
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