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蓮池透氏コメントを脇に追いやる御用メディア -植草一秀

メディアゴン / 2020年6月11日 13時39分

植草一秀[経済評論家]

***

横田滋さんが亡くなられた。心からご冥福をお祈りしたい。

メディアが大きく報じるが、拉致被害者の家族である蓮池透さんのコメントを紹介する記事は脇に追いやられている。蓮池透さんのコメントを報じた日刊スポーツ紙報道は次のもの。

「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会元副代表で、拉致被害者の蓮池薫氏の兄、蓮池透氏(65)が、拉致被害者横田めぐみさん(55)の父、横田滋さんの訃報に触れ『安倍首相責任を取ってください!』と、訴えた。横田さんが老衰のため亡くなった5日、蓮池氏はツイッターを更新。『いつか、この日が来るのは分かっていたし、怖かった。滋さんは、公には政治家に対しても、右派的思想家に対しても決して異論を唱えることのないジェントルな人だった』としのび、『世の中はコロナ禍で拉致問題どころではない状況。収束まで動かないのか?滋さんの心中も不安で一杯だったはず。言うまでもなく、その前に動いておくべきだった。『40年以上救出を先導』とか『再会の願い叶わず』とか言っている場合ではないのだ』と続けた。『また『断腸の思い』と繰り返した安倍首相。『申し訳ない』は付け足したが。自分たちの無為無策を棚に上げて、拉致問題が進展しないのは国民の関心が薄れているせいだ、と平気で言う政府』と批判。『みなさん、いい加減気付いてください。安倍首相は拉致被害者を救出するなどという気はさらさらないのです。この期に及んで早期救出とか言っているではありませんか。今こそ、安倍首相責任を取ってください!と叫ばなくてはなりません』と持論を述べた。『そうでなくては、滋さんのご冥福を祈ることはできません。それができるのは、拉致のおかげで二回も総理になった安倍氏が恩返しをして、めぐみさんの問題が解決したときです。合掌』とした。」

記事には「蓮池透氏が持論「安倍首相責任を…と叫ばなくては」のタイトルが付せられた。蓮池透氏のコメントを掲載したことは評価できるが、「持論」との表現には「特殊な意見」との意味が込められている。メディア情報を支配しているのは、安倍首相の「断腸の思い」、「申し訳ない思い」などの言葉。

タレントの「安倍さんは、全力は尽くしているでしょうけど、何の答えが出てこないことが残念です」などの言葉が報じられる。客観的な事実として、蓮池氏のコメントが正鵠を射ている。口先だけで「断腸の思い」や「申し訳ない思い」などと発言しても何の意味もない。不祥事で閣僚が次々に辞任しても「任命責任は私にある」とだけ発言して、何の責任も取らない。「断腸の思い」も「申し訳ない思い」もまったく感じられない。おそらく、そのような思いを持っていないのだろう。

記者会見にしても、自分の言葉で話をしない。自分の言葉で話すことができないのだと感じられる。官僚が用意した原稿を読むだけ。国会の質疑でも、官僚が用意した原稿を読み上げるだけ。記者会見で原稿を読まずに自分の言葉で話すと、しどろもどろで十分に話すことができない。

政治家にとって大事なのは言葉だ。言葉の重みをどれほど重要に感じているのか。言葉の重みによって話し手の思いが聞き手に伝わる。2012年12月に「私の政権で拉致問題を解決する」と豪語したのは誰だったか。これから7年半の時間が経過した。

米ロ中韓日の五ヵ国トップで北朝鮮の金正恩委員長と直接会話の機会を持つことができずにいるのは安倍首相ただ一人である。この状況で拉致問題を解決できるわけがない。メディアは御用報道をやめて、現実を直視する報道を行うべきだ。

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