ヒトラー政権を継承するゲッペルス -植草一秀
メディアゴン / 2020年9月28日 10時5分
植草一秀[経済評論家]
***
安倍内閣が長期化した三つの理由を挙げてきた。
1.刑事司法の不正支配
2.マスメディアの不正支配
3.国民のゆるさ
だ。三つ目の「国民のゆるさ」が本質的な問題だが、「国民のゆるさ」を生み出す背景になったのが、1の刑事司法不正支配と2のマスメディア不正支配である。そして、この1と2の背景を生み出す原動力となったのが菅義偉氏であると言える。安倍内閣が関与した不祥事は多数にのぼる。
下村博文氏事案、甘利明氏事案はいずれも刑事事件として立件するべきものであった。安倍首相が深く関与した森友、加計、桜の三つの疑惑も刑事事件として立件するべき事案である。秋元司、河井克行、河井案里各氏の3名については逮捕、勾留、起訴されている。河井克行・案里両氏の事案では公選法違反事案の資金拠出源が明らかにされる必要がある。
2019年の参院選において河井案里氏を当選させ、溝手顕正氏を落選させることが,どのような意味を持つのかを明確に認識する必要がある。溝手氏は岸田派の重鎮議員である。溝手氏が当選した場合、溝手氏は次期参院議長の最有力候補に浮上するはずだった。溝手氏が落選することは派閥領袖である岸田文雄氏に与えるダメージが極めて大きい。溝手氏を落選させることは、次期首相を狙う菅義偉氏にとって極めてメリットの大きい事象だった。
河井陣営に流れた1億5000万円の資金が官房機密費からのものであったとするなら、極めて重大である。安倍内閣は河井克行・案里氏事件の捜査を早期に終結させる意向を有していたと見られる。そのために、菅義偉氏と深い関係にある黒川弘務氏の検事総長就任を安倍内閣が切望したと見られている。
河井氏事件捜査は広島地検、広島高検を舞台に展開された。黒川弘務氏は東京高検検事長の職にあり、広島高検管内の事件捜査には影響力を行使し得なかった。検察が安倍内閣による検察支配に示した懸命の抵抗だった。
結局、黒川氏のチョンボによって黒川氏の検事総長就任は挫折した。その結果として、河合氏夫妻逮捕が実現した。さらに、捜査を進行させるかどうか。官邸と検察の神経戦が続いている。
検察は林真琴氏の検事総長就任を獲得したため、官邸と手打ちをしたとの見方もあるが、菅義偉首相は林検事総長を牽制するために上川陽子氏を法相に就任させたと見られている。
いずれにせよ、安倍内閣による刑事司法不正支配の中核を担ったのが菅義偉氏であることは間違いない。準強姦容疑で山口敬之氏に対して発付された逮捕状は警視庁刑事部長の中村格氏によって握り潰された。中村格氏は菅義偉官房長官の秘書官を務めていた人物である。
文部科学省事務次官であった前川喜平氏に対する攻撃は内閣調査室が収集した情報に基づく可能性が高い。安倍内閣の大きな特徴は警察出身者を内閣の中枢に配置したことである。杉田和博官房副長官、北村滋国家安全保障局長、中村格警察庁次長などの警察官僚が内閣の用心棒として秘密警察国家の骨格をなしている。
この秘密警察国家機構と密接に関わってきたのが菅義偉氏である。他方、安倍内閣のメディア締め付けを実践した中核人物が菅義偉氏なのだ。安倍首相記者会見は官僚が用意した台本を読むだけのショーと化した。質疑応答の質問は事前に提出させられ、その回答を官僚が台本にして用意する。質問は予定した者にしか当てない。
記者クラブ制度をフル活用して台本に基づく三文芝居が演じられてきた。この「台本営」制度を構築したのも菅義偉氏であると見られる。テレビ報道番組で内閣に不都合な放送があれば、直ちに直接クレームを突き付ける。悪質な情報統制が繰り広げられてきた。
安倍内閣の裏側でこの活動を指揮した人物が表に出ることになった。陰湿で暗い政権運営が展開されることは間違いない。
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