<上から目線の辛口批評>テレビ朝日の『お助け!コントット』
メディアゴン / 2020年10月11日 7時30分
高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]
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ダウンタウンの呪縛から逃れ、明石家さんまの文法の外に飛び出す漫才師が増えてきた。大阪マンザイに限っての話である。ただし関西勢は東京の芸能も席巻しているので全国的な現象とも言える。代表はEXITや霜降り明星である。彼らは、ダウンタウンのマンザイも見たことがないから、あの、誰にも出来ない松本人志の発想に脅える必要はない。明石家さんまの絶妙なフリには、ぴたりと返さなくてもさんまが拾ってくれる。
一方コントはどうか。コントに関しては、長い間ロールモデルになる人が居なかった。大阪では藤山寛美を失った松竹新喜劇や花紀京や岡八郎が去った吉本新喜劇は漫才ブームの陰で旧態依然とした笑劇(筆者はコントと同じと判断する)を上演し続け衰退の道を進む。
関東はどうか。関東には古くからエノケン・ロッパのアチャラカ(アメリカ映画のもじり)があり、浅草のストリップ劇場では軽演劇が栄えていた。軽演劇はハダカの幕間に演じられるコントで、演者には渥美清、池信一、石田英二、三木のり平、由利徹、八波むと志、堺駿二、東八郎、山茶花究、佐山俊二、清水金一、杉兵助、由利徹など錚々たるたるメンバーがいた。
彼らは当時ナンバーワンメディアになりつつあったテレビへの進出を虎視眈々と狙っていた。
その中で、あっという間に頭角を現したのが、萩本欽一、坂上二郎の「コント55号」である。踊り子さんの準備ができあがるまでつなぐのがコントだから、時間の長短も自由自在、生放送のテレビにピッタリであった。新宿ムーラン・ルージュで活躍していた三波伸介、戸塚睦夫、伊東四朗、のてんぷくトリオには座付きとしてあの劇作家・井上ひさしがついていた。
しかし、「コント55号」が『なんでそうなるの』(日本テレビ)などの、純粋コントをやらなくなり、ザ・ドリフターズの『8時だよ!全員集合』1985年(昭和60年)に終わり、浅草の軽演劇には間に合っていないビートたけしと明石家さんまの『オレたちひょうきん族』が1989年(昭和64年)に終わると、コントの火は消えて行ったように思う。
大分前置きが長くなった。つまり、平成から数えて、20年以上いわゆるコントの第七世代は目指すべき先輩コメディアンを持たなかったのである。ロールモデルを持たない第七世代のゾフィー(上田航平、サイトウナオキ)ハナコ(菊田竜大、秋山寛貴、岡部大)かが屋(賀屋壮也)ザ・マミィ(林田洋平、酒井尚)の9人はどんなコントを見せてくれるのか。その楽しみが詰まっているのが『お助け!コントット』(テレビ朝日)である。
筆者はコント作家のひとりとしてコント業界の隆盛を願っている。それに資するようにあえて、上から目線の辛口批評を試みよう。見ていくポイントは「演者の演技」「演出」「台本」の重要3ポイントである。
恐らく台本はあると思われるが、台本で最も大切なのは演者が動きやすい「設定」が書いてあるかである。落ちなどどうでもいい。「設定」である。理想はその「設定」さえあれば演者が自然に動きだしてしまうことである。それから、もうひとつ大事なことは「台本は台本そのままを演じても面白くない」ということである。そこに、演出と演技とそれぞれの独自の工夫が乗っかってはじめてコントになる。
[参考]韓流BTS「パクリ疑惑」はフランスの写真家だけではない
『お助け!コントット』の番組設定は『視聴者のお悩みをコントにして笑い飛ばす』である。残念ながらこの設定自体がコントの邪魔をしてしまっている。先にコントが出来ていて、それにあわせるために後から、悩みを考えている、あるいは、悩みを書き換えているのが見え見え見えである。大抵の当たる番組はほとんどが引き算でつくられる。尺が足りないと思ってはじめに用意した余計な企画や、余計な段取りが見事に整理された(引き算された)ときに、番組は当たっている。
演者の演技は、ハナコの岡部大を除いて、立ち姿がふらついている。ステージ上にただ立ったときの安定感がないと、演技の後もどるべき姿を見失ってしまう。まだまだフラフラへなへなの演技になっている人が大多数である。スポーツで体力をつくるとか、日舞を習うとか、そういう努力もコントには必要である。
仕事の居酒屋の癖が、他の居酒屋に飲みに行ったときも出てしまうというコント。設定はよいが、ただ、訪れた居酒屋の言葉を繰り返してしまうだけではダメだ。コントの物語が先に進まず、同じ所をぐるぐる回っている。片付けをはじめたり、電話に出てしまったり余計なことをする演技が流れるように組み立てられていれば見事だったと思う。まだそこまで至っていないのは稽古不足である。
「自分の握った寿司が大好きな寿司屋の大将」と、いう設定はすばらしい。筆者は新しいコントを思いついた。客が飯台に出した寿司を食べようとすると、大将「あっ、食べるんですね(寿司に)さよなら、好きだったよ」というのはどうか。
「プロポーズに失敗して嘆いている男がいるレストランに、新たにプロポーズしようとする男と女がやって来て・・・」と言う設定のコント。せっかくいい設定なのに「プロポーズする予定なのですが正直自信がありません」という前振りの悩みが邪魔しているとは思いませんか。この悩みは本当でなければちっとも面白くないが、コントにすることが分かっていてマジな悩みを寄せてくる人も居ないであろう。プロポーズに失敗したのになぜ残っているのかをきちんと描いているのは偉いが、どこでそれを明かすかには工夫が必要だった。
「お父さんとお母さんどっちが好きかという質問にいつも困っています」この小学生でも言わない凡庸で、ありきたりな悩みがあるがために「家族のセンター争奪総選挙」のコント設定がすぐれて面白いのにプカプカ浮いてしまう。総選挙で一位に選ばれたのは飼い犬のランディだったが、かつてチャップリンは抜群に面白い演技をした犬をフィルムから切った。自分より面白い奴が同じ画面に映るのは許せなかったからである。そこまで言うのは厳しすぎだろうか。
週刊文春で戸田学氏も書いていたが、皆、上手な女装をしていることには大変好感が持てる。尊敬するある女姓プロデューサーはかつて筆者にこういった。
「あんた、汚いのはダメよ、汚いのは」
肝に銘じている。女の言うことの大半は聞いた方がよい。
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