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可能性のあるコントに期待『東京BABYBOYS9』

メディアゴン / 2020年10月12日 7時30分

高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]

***

まだ、小さく燃え始めたに過ぎない映像メディアにおけるコントの火を、巨大なキャップファイアくらいにして欲しい。その可能性を感じるのがテレビ朝日『東京BABYBOYS9』に出演しているコメディアンの9人である。

だから、今回も<上から目線の辛口批評>を書く。さて、番組を見て彼らに送る一番目の言葉はつぎのことである。

「おもしろそう」と「おもしろい」は違う。

彼らコント第7世代のゾフィー(上田航平、サイトウナオキ)ハナコ(菊田竜大、秋山寛貴、岡部大)かが屋(賀屋壮也)ザ・マミィ(林田洋平、酒井尚)の9人が演じたコントはすべてが「おもしろそうなコント」であって、「おもしろいコント」ではなかった。

「おもしろそう」と「おもしろい」は似ているようで、全く似ていない。むしろ正反対の事象とも言える。やっている方は「おもしろい」と思っているが、見ている方は「おもしろくない」。それを「おもしろそう」と表現する。素人で「僕はおもしろい」と思っている人、それが即ち「おもしろそう」である。

だが、プロである彼ら(9人)の「おもしろそう」は、ちょっとの工夫で「おもしろい」に変わる。可能性に満ちあふれた「おもしろそう」なのである。

〈クイズタイムショックのコント〉これは繰り返しだから、どれだけ秀逸なギャグが考えられるかにかかっている。まず、このギャグを100以上考えただろうか。僕は、101個目から面白いギャグが出るのだ、と言われ続けた。

〈全部間違える〉では、間違えて答えてしまう誤答例に工夫がない。

〈問題が出ない〉では、岡部大はああいう芝居になるだろうか。台本で、あらかじめ問題が出ないのを知っている時は、3分の1の力で芝居をすることだ。

〈すぐスピンする〉想像がついてしまう落ち。〈すぐスピンする〉を越えるならイスを支えているポールが折れるくらいはしないとダメだが、それは、予算上無理だろう。その場合をもたくさん考えることが必要だ。

演出家は、司会者の前振りを編集して、テンポを上げてあげて欲しかった。フリは切ってはいけないが、繰り返しは切っていい。つまり2度目以降は「タイムショック!」からでいいのだ。

さて今回、スタッフロールに構成として演者の名前(上田航平、サイトウナオキ)(菊田竜大、秋山寛貴、岡部大)(賀屋壮也)(林田洋平、酒井尚)がクレジットされる。自らがコントを作ったと言うことだろう。これは、構成ではなく、作、あるいは、脚本である。さらに名前がクレジットされると言うことはどういうことだろう。これは番組の責任は私たちが持っています。と言う宣言である。

〈喫茶店のコント「モーニングセットのゆで卵が割れない」〉

客はゆで卵の殻が割れないので、周りの雑音に紛らせて目立たないように割ろうとするのだが、なぜ、そんなことをするのだろう。なぜ、店の人に取り替えて下さいと言わないのだろう。フリが必要だ。フリはつまり設定のことだ。たとえば、先に来ていた労務者の客が「最近、店にやたらと文句付けるクレイマーがいてヤダねえ」と言うと、店の人もそれに同意するので、気の弱い客は卵が割れないと言えなくなってしまうとか、である。落ちなどどうでも良い、設定を考えることが必要だ。

〈喫茶店のコント「1万人目の客に酔っ払いのおっさんがきてしまって」〉

1万人目の客が酔っ払いのおっさんではいやなので、なんとか帰そうとするコントにするのなら、追い返し方の工夫で笑いをとるべきだ。

〈喫茶店のコント「結婚式の花嫁を奪って、連れてきた男と新婦」〉

ここまでの設定を作ったなら、色々考えられそうだ。「女の子は熱しやすく冷めすい」ので、奪ってきた男が冷めてしまった花嫁を何とかまた、暖めようとするコントになっていたが、それは、あまりない視点でおもしろい。岡部大がどうやって花嫁の熱を取り戻すか。演出側も、ピンスポにするとか照明や音楽で盛り上げるとか演者に工夫で助けを出してあげるべきだ。

〈喫茶店のコント「ゾンビの客来る」〉

ゾンビはフリが大きすぎるので、落ちに期待してしまう。落ちに期待させるときは、すっきり落ちるショートギャグにすべきだ。長くやってはいけない。

〈悪漢に拳銃にオドされている人質が逃げようとするが〉

これもフリをキチンとすべきだ。まず、この悪漢はどういう理由で、人質に拳銃を向けているのだろう。別の部屋で、金をトランクにつめているので、その間、見張っているというこが分かればずいぶん状況が変わる。

悪漢「逃げようとしたら撃つからな」(と向こうの部屋を見る)

悪漢「撃つぞ」(と拳銃を向ける)

人質「今だ!」(人質逃げる)

悪漢「まてまて、『今だ!』って言うタイミングが違うだろ」

これであとは、必ず、サッシ窓の留め金を開ける役をやる奴がいるとか、細かいことでも笑いは取れる。

〈ドラマ中、ずっと、犯人というスーパーが出ていて、最初からバレているミステリ〉

これはいい設定だという予感がするが、何をやったよいか、僕にはあまり思いつかない。若い頃の大変切れる筒井康隆なら、どんなギャグを考えるだろう、などと思い至って、一晩中眠れなくなってしまうパタンに陥ってしまうかも知れない。

とにかく、若い人のコントは良い。ずっと見ています。

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