<ブラタモリ>網走編のできが非常に良かった理由
メディアゴン / 2020年11月2日 7時0分
高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]
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10月31日放送の『ブラタモリ』「網走〜『最果ての地』網走は『理想の地』!?〜」は、前回の「伊豆大島編」に比べて、非常にできが良かった。その理由は綿密な下調べの結果を非常に適切にタモリに提示した成果であると思われる。
タモリはテレビタレントとして大変希有な資質を持つタレントである。大抵のテレビタレントは(特に大阪系の芸人は)何が何でも自分に与えられた番組企画を、何とか、面白いものにしようと最大限の努力をするが、それはもちろん、つまらなく仕上がってしまったら自分自身の人気に跳ね返ってくるからである。それがかなわないと判断するとスタッフの「準備が拙い」と怒って帰ってしまう大物然としたタレントさえいる。
ところが、タモリはそのどちらでもない。
自分に与えられた企画や情報がつまらないときは、そのままつまらなくやっても平気だし、面白いときはそのまま面白くしてくれる。そういうタレントである。肩の力が抜けているとも言えるし、所詮テレビなんかと思っているフシも覗える。このやり方はテレビを見る者の感情を邪魔しないし、そこがタモリの魅力だという人も多い。
これを言い換えれば、タモリがやるとテレビの作り手の巧拙が番組にストレートに出てしまうとも言える。網走編はそれがよいほうに出た放送回であった。
[参考]NHK『ブラタモリ』は最初の志を忘れたのか?
まず、網走監獄が『理想の監獄』だった秘密を博物館で探る。刑務所の設計は中央にそびえ立つ看守塔にたいし円形に収容者の個室を配置するパノプティコン形式などがあるが、網走刑務所はアメリカの刑務所設計家ジョン・ハビランドの「ハビランド・システム」を取り入れていることが分かる。監守が立つ監視所を全体の中心に据え、複数の収容棟が放射状に伸びている。これなら、少人数で全体が見渡せる。中央監視所に立ったタモリは見事にこのシステムを見抜く。
また吉村昭の長編小説『破獄』にも描かれた、脱獄王・白鳥由栄が、監獄の鉄の格子を破った方法についてもタモリは見抜く。このあたりのテーマ設定はタモリの興味関心のある分野を見事に捉えていて上手い。
脱獄囚が逃げ切りづらい刑務所の立地の秘密についても話が及ぶ。川、湿地、山岳、ヒグマの話まで出て、北海道に関する地理的な興味をも満足させてくれる。
筆者は、紹介する土地と人との関係が描かれない『ブラタモリ』は、非常に物足りなく思うのだが、それは何も「鶴瓶の家族に乾杯」のように、人と話せということではない。その土地に、なぜ住む人(人類は、とか、人間は、とか言い換えてもよい)が、居着こうと思ったのか、住んでみてその土地の特性から何を考えたのかを、描いて欲しいということなのである。
その点で、縄文文化はちがう「オホーツク文化」理想の地としての網走を描いた部分は今回の白眉であった。オホーツク海沿岸を中心とする北海道北海岸、樺太(サハリン)、南千島の沿海部に栄えた海洋漁猟民族。いわばオホーツク人とも言うべき人々が、南の温暖な地域として、周辺では最大の遺跡・網走の「モヨロ貝塚」に集まったのではないかという話は、古代のロマンを存分に感じさせてくれたのである。
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