<特高警察復活?>日本学術会議・新たな任命拒否理由が怖い
メディアゴン / 2020年11月15日 23時52分
両角敏明[元テレビプロデューサー]
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11月8日(月)共同通信などが4つ目となる新たな任命拒否理由を報じました。
「学術会議会員候補6人が安全保障政策などを巡る政府方針への反対運動を先導する事態を懸念し、任命を見送る判断をしていたことが7日、分かった。」「複数の政府関係者が明らかにした」と共同配信にありますから、いい加減な記事ではありますまい。テレビはこれをほぼ無視したため、ネットニュースで知った筆者は全身に悪寒が走りました。とうとう日本は戦前の暗黒時代へ戻ったのかと。
憲法第14条「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」
もし菅政権が「政府方針への反対運動を先導する事態を懸念し任命を見送る判断」をしたなら、これは憲法14条で禁じられた「差別」としか筆者には考えられません。
この記事にある「先導」という言葉も奇妙です。おそらくこれは「政府関係者」が使った言葉で、記者なら「扇動(煽動)」と書くはずですが、煽り立てなくても「先導」、すなわち言論により方向性を示すだけでも駄目で、学術会議会員にはいっさいの政府批判を認めないというきわめて怖ろしい言論統制です。
菅政権は6名を選別して任命を拒否したのですから、選ぶにあたっては学術会議が推薦した学者105名全員について、「政府方針への反対運動を先導する懸念」を含む身辺調査をしたことになります。これでは現代日本に秘密警察が存在するようですが、実は直近で、こうした身辺調査の有無にかかわる発言が続いていました。
11月6日(金)TBS「ニュース23」に出演した「週刊文春」元編集長で現編集局長、文春砲の生みの親と言われる新谷学氏が明快に語っています。新谷氏は、今回のキーマン杉田和博官房副長官について、
「ものすごくオールドスタイルの元公安警察官で、公安警察というのは危険な思想を持っているとか、そういった人たちをあぶりだして事件を起こす前に取り締まってゆくというのが仕事なので、実は今回の6人についてもある情報機関がいわゆる身体検査のようなことをやって、たとえば共産党との関係とか中国との関係とかを調査をしていると、そういう報告をあげているという情報もあって、それが直接的に今回の任命拒否につながるのかどうかさらに深く掘り下げて取材をする必要があると思います。思想信条みたいな、危険思想をもっていないか、公安警察的な観点からすればですねそれはやはり要注意、中国シンパであるとか要注意人物というふうにみられるのかなと思いますね。法案(に反対した)だけというよりはもうちょっと深く調べているのではないかな思っていて、ただこれは絶対に口が裂けてもこ言えないですよね。」(筆者文責で発言趣旨のとおりに編集)
新谷氏は、ある情報機関が学術会議推薦者の思想信条を含めて身辺調査をやったという情報がある、と言うのです。
[参考]<公開処刑された学者6名は生け贄か>中曽根元総理にも無礼!6学者に即刻謝罪を
もうひとり、別の観点から語っている方がいます。11月8日(日)BS朝日「激論!クロスファイヤー」に出演した斎藤健元農林大臣です。自民石破派ではっきり持論を言うタイプの政治家です。
「今回任命された(99)人の中にも安倍政権にたてついた人はたくさんいます。皆さんは6人とおっしゃいますが、私は自分で人事をやっていた人間として、これは6人じゃないんです、ひとりひとりなんです。それぞれに表に出来ない何らかの理由があってね、スキャンダルがあるかもしれないとかね、人事というのはそこをチェックしなけりゃいけない。最後に任命するときにはやっぱりあるわけですよ、ひとりひとりの事情がね。(説明)できないものがあったのかなと推測するだけです。」(筆者文責で趣旨を損ねない範囲で発言を編集)
斎藤氏は自らが人事をやった経験から、学術会議に対しても個人のプライバシーにまで踏み込んだ身辺調査があり、思想信条と言うよりも6名に任命に不適な個人的な事情があって、法に定められた正当な判断基準によらずに、個人的事情により任命不適とされた可能性を推測しています。6名の方には耐えがたいほどの非礼な発言のように聞こえます。
いずれにせよ共同配信、新谷発言、斎藤発言に共通するのは、国の情報機関が学術会議会員推薦者の身辺調査を行ったという指摘です。知らぬ間に犯罪者でもない国民の行動、思想信条、プライバシーが国家によって調べられる。その調査結果が国家権力の意に沿わなければ理由も告げられず問答無用で不利益を被る、たとえば学術会議会員任命拒否のような形で。スターリンをもじってスガーリンと揶揄する方がいますが、このジョーク、笑えません。
2016年12月、当時文科事務次官だった前川喜平氏は杉田和博官房副長官に呼び出され、新宿の風俗店通いを注意されます。翌2017年5月、安倍政権が加計学園問題で連日追及を受ける中で唐突に読売新聞が前川氏のこの風俗店通いを社会面で大きく報じます。しかし記事はいかにも取材不足、前川氏自身に取材してもおらず、天下の読売が記事にするような内容ではありませんでした。事実、前川氏は女性の貧困という社会的関心から店へかよっていたもので、読売の記事から臭ったいかがわしい行動などその後指摘される事はまったくありませんでした。
あのころ文科省と安倍政権は微妙な関係でもあり、当時の菅官房長官が「怪文書のようなもの」と切って捨てた文書が実は文科省の文書だった事で菅官房長官が非難を浴びるという経緯もありました。そうした中で政権にとって目障りな前川喜平氏の身辺情報を杉田官房副長官が握り、これをコネクティングルームでおなじみの和泉洋人総理秘書官を通じて読売に書かせたと前川氏は考えています。もしそうならまさに戦前の秘密警察を彷彿とさせる手口です。
これと同様に、今回の学術会議任命拒否問題は、身辺調査による裏情報により政権の意志を問答無用で強制しようとした疑いが拭えません。
菅総理がしきりにくり返すのは、選挙で選ばれ正当な手続で総理となった最高権力者に官僚は従うべきだと、という意味の発言です。学術会議会員は公務員なのだからと「人事は伝家の宝刀」を振り回したのが今回の任命拒否騒動でしょう。そこには学問の自由の尊重、碩学へのリスペクト、正当な手続、情報公開、正直な説明、のいずれも欠けています。もっとも批難すべきは、憲法14条、学術会議法、国家公務員法、過去の国会議論の積み重ねなどを無視し続ける無法者のごとき強権姿勢です。
さらに安倍政権時代には最高裁判事の人事にまで介入をしているという報道もあります。そう言えば本会議の場で衆院議長に注文を付けるなど、菅総理には三権分立のわきまえもないようです。
もしかしたら「たたき上げの独裁強権政権」というモンスターが出現してしまったのかもしれません。数の力を持つこのモンスターに議会が対抗できないとき、残る頼みはメディアで、いまやメディアがどう対峙するのかが日本の命運を握っているのではないかと思いつつ、総理に「更問い」ひとつできない弱腰を見るにつけ、憂いは深まるばかりです。
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