千鳥のクセのあるMCが見えない「クセがスゴいネタGP」
メディアゴン / 2021年2月13日 10時18分
![千鳥のクセのあるMCが見えない「クセがスゴいネタGP」](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/mediagong/mediagong_31555_0-small.jpg)
高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]
***
『千鳥のクセがスゴいネタGP』(2月11日(木)放送フジテレビ)が、面白い。第一に作っているスタッフが笑いを愛していることが画面全体から感じられるからだ。「笑いがそう好きでもないと思われる人」がビジネスライクにつくった番組(例『ボキャブラ天国』CX、『エンタの神様』NTV)は編集に愛がない。客が笑っている処だけを無理矢理集めて編集する。結果、なぜ面白かったのかわからなくなってしまう。
第二に(これを一番に挙げるのが正当だろうが)演者が皆、楽しそうに演じているからだ。ボケてツッコミ、ボケてツッコミ、ボケてツッコミ単発の笑いを繰り返す者や、大声を出すだけの者や、テレビで目立つことだけが目的であざとい演出を厭わない人たちが居る中で、今回の『クセスゴ』の演者は、大半が自分の芸を楽しそうに演じていて、見ていて気持ちが良かった。
番組は千鳥(大悟40歳・ノブ41歳ともに岡山出身)ノブの「クセがすごい」というツッコミ・フリのフレーズを頂いて、普段、正当に笑いをとりに行くコメディアンにも、それを封印して、クセのある笑いを見せてもらおうという趣旨である。
似た番組として『あらびき団』(TBS)が2011年頃まで放送されていたが(因みにこの番組を止めたのはTBSの大きなミスである。『キングオブコント』より大きく笑いに貢献しただろう)この番組はまだ、世の中に出てきていない知られざる奇妙ネタを紹介する番組であったのでその点が違う。
[参考]島田紳助の才能と長谷川公彦の現在
2番組の違いはさらに後述するとして、『クセスゴ』に話を戻す。『クセスゴ』は、出てくる演者の様々なクセスゴネタを見て、これは好き、これは嫌いだなど、視聴者に感想を言ってもらいながら、見てもらう番組であろう。
そういう意味で、筆者は一番好きだったのは空気階段(鈴木もぐら33歳水川かたまり30歳)のネタである。水川の姫が愛する王子が、魔法で犬に変えられてしまった。しかし、姫の愛が通じて犬は人間(鈴木もぐら)に戻る。
このネタを見て、筆者は笑いが止まらなくなったしまった。太っている方の鈴木は落語研究会出身だから、古典落語の「元犬(もといぬ)」を当然知っているだろう。昔、白犬だった男が願いかなって人間になる。だが、なったはいいが、つい犬の習性が出て失敗ばかりするという爆笑系のネタである。つまり、その反対。犬にされていたときの習性が抜けないのがギャグになるわけだが、ワンワンとかは当たり前だから当然やらない。抜けない犬の習性というのが「口の開き方」なのである。人間と犬の口の開き方は当然違うから、言葉を発するとき犬の口の開き方になってしまい、言うことがはっきりしない。この言葉のはっきりしなささが絶妙に上手いのである。僕は笑いには「(展開が)意外」と「(演技が)上手い」の両方が入っていないと絶対にダメだと思っているが、空気階段のネタにはこの「意外」と「上手い」が過不足なく入っていたのである。趣旨通りクセもすごいし脱帽。
さて、『千鳥のクセがスゴいネタGP』と『あらびき団』の比較である。両方ともネタをつなぐMCが居る。前者は東野幸治と藤井隆。後者は千鳥である。違いは千鳥はほとんど喋ら亡いのに対し、東野と藤井のMC部分の量は圧倒的に多い。
その内容も東野と藤井の方が、優れている。奇妙なネタをやる演者の行く末を厳しくも暖かく批評しながら、ネタのアイディアを出し、時にはぶった切る。あのMC部分は番組を見る楽しみのひとつでもあった。ところが、千鳥は喋らない。ワイプの中で2、3ことしか言わないというのがイメージである。ビートたけしでさえネタを見たらもっと話す。喋っているのに、編集されてしまっているという言い分もあるだろう。だが、編集されているのはつまらないから編集されているとも言える。編集はディレクターからの演者へのメッセージ、演出家からのラブレターである。編集後のVTR(つまりテレビで放送されたもの)には収録後の反省会などより、何倍もの有益情報が詰まっている。MC部分を単純につまらないからという理由で単純に編集するのは実は間違いなのだが、もし、つまらないからと言って編集しているのだとしたら、それは演出家が千鳥への愛がない証拠である。(愛があるから編集してあげる、という場合もあるから難しいのだが)
時間が足りないなら『クセがスゴくないネタ』をカットするべきである。たとえばキャイーンは懐かしいキャイーンそのもののマンザイだった。今回大変できの良かったかまいたちのコントは、浅草3大コントのひとつ『天丼』のパタンに見事に当てはまった優れたモノだった。オチも見事だった。かまいたちは出来る。だが、なのである。
千鳥は、魅力の多いコンビだ。スクエアでどこか抜けた親しみを感じるノブ、アウトローの魅力を持ち規格からはみ出た大悟、とり合わせ、座組も最強だ。かつて僕はある週刊誌の取材で千鳥をこれから大きくなる芸人として一番に挙げたことがある。予想が当たったことを自慢したいわけではない、千鳥にはもっともっと大きくなって欲しいのである。
もともとが『千鳥のクセがスゴいネタGP』なのだから、千鳥自身の『クセがスゴいMC』も見せて欲しいのである。このまま『クセのないMC』をささやかにやっていると、それは千鳥の芸人としての致命傷になる。
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