<NHK『クローズアップ現代』TBS『あさチャン!』終了>全ての報道情報番組は権力の外に立て
メディアゴン / 2021年4月12日 7時30分
高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]
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2021年4月9日、ネットメディアが2つの番組の終了を報じた。一つはNHKの『クローズアップ現代+』(Webメディア・「インファクト」編集長による)。もう一つはTBSの『あさチャン!』(スポーツ報知による)である。前者は2021年度中に、後者は今秋終了であるという(翌日、NHKは、『クローズアップ現代+』終了報道を否定)
さて、メディアの最大の役目は、ご存知の通り「権力の監視」だ。なぜ、権力の監視をしなければならないか。権力は持った途端に必ずや腐敗するからである。報道を扱っていた2つの番組はその点においてきちんと機能していたのか。
『クローズアップ現代』は、NHKには権力に対し軟弱だと批判される番組もある中、番組終了を明かした報道局員が、(以下「インファクト」より引用)「クローズアップ現代は数年前に週1回に減らすように指示があり、それを現場が押し返した経緯が有る。今回の廃止に政治の圧力が有ったかどうかはわからないが、安倍政権、菅政権がこの番組を潰したがっておりNHKの中でそれに呼応するグループが有るのは事実。これまで抗ってきた現場が力尽きたという感じだ」(以上引用)と述べるように、特に権力監視に対し、真正面から、ぶつかっていったNHKの報道を支えると稀有な存在だった。
キャスターの武田真一アナウンサーの降板・異動に関しても、政府のCOVID-19対策に関し、自民党の二階幹事長に「政府の対策は十分なのか。更に手を打つことがあるとすれば何が必要か」と質問し、不愉快にさせたことによる忖度人事・左遷ではないかという憶測も飛び交っていたほどである。
1993年に始まり、他局の報道局員や新聞記者からも評価されていた番組が、もし『権力の干渉(に忖度して?)』で終わるという話が、ほんとうだとしたら実に惜しい限りだ。
一方のTBS『あさチャン!』はどうか。7年以上の間、キャスターを務めてきた夏目三久アナウンサーに権力監視の意識はあったであろうか。影響力のある情報番組のキャスターのもとには官僚が『ご説明』という形で尋ねてくることがある。例えば、年金問題に鋭く切り込んでいるとすると、厚生官僚が現在の最新情報をお伝えしたいと称して番組を訪れるのである。たいてい何人かのチームである。手練のプロデューサーならその『ご説明』を、緩衝材にして、構わずさらに鋭く切り込む。夏目三久キャスターのもとに『ご説明』はやってきたのだろうか。
[参考]NHK独占!国会中継こそ最高のエンタメ番組だ
民放の情報番組が成功するかどうかは、2つの点にかかっている。一つは、当たり前だがメインキャスターの力量だ。もう一つは記者や、スタジオの解説フリップの制作に当たる番組スタッフの教育育成である。キャスターは最初から力量を持っている人物をキャスティングするのが早道だ。だが、そんな人はなかなかいないし、ギャラも高い。
スタッフ育成には丁寧に時間をかけたい。オン・ザ・ジョブ・トレーニングでしか育たない側面もある。何も知らない新人も配属されるし、そもそも別に報道に関心がない人も配属される。しかも、育てようという意識のない、プロデューサーが就任することさえある。キャスターも育てて、スタッフも育てて、番組を成功させるとなると、最低1年、通常は2年かかるだろう。さらに、視聴習慣という高いハザードがあるから、それを乗り越えて視聴者にチャンネルを変えさせるのは至難の業だ。はじめは当然視聴率も低い。スポンサー、局の上層部からは数字を上げろの大合唱。その盾となってくれるのが、編成局だ。編成局の担当者はキャスターとスタッフを信じて「もう少し待ってください」と言い続けるのが仕事だ。『あさチャン!』は7年以上待ってくれた。しかし、力尽きた。
民放は「民営公共」という矛盾を含んだ存在である。電波は公共財として権力監視の役目も果たさなければならないし、一方で、民営企業として株主のために利潤を最大化しなければならない。公共と民営は相反する目標となることがよくあるのだ。この「民営公共」の矛盾の中で、民放が報道情報番組を続けるのはNHK以上に大変なことであるのも理解できる。
だから、スタッフ側、局側から早々に声をかけて『番組をやめてあげる』という選択も成り立つ。出演者は番組が失敗しても次の番組へ、と思う人もいるかも知れない。だが、ゲストでちょっと出る番組ならまだしも、俳優が本業はこれしかないと思っているドラマで、芸人が主戦場の笑いの番組で、キャスターがメインとなって自在に進行する情報報道番組で失敗するのは致命傷となる。立ち上がれない大きな傷を負い、数字が取れない出演者との烙印を押される。だから、そうなる前に番組を休止してあげる。それが自分が信じた出演者への優しさである。
夏目三久メインキャスターの『あさチャン!』は、どうだったのだろう。
編成局にはマーケティングを修めた統計の専門家もいるはずだ。2年ほどもデータが積み重なれば、今流行りの統計手法を駆使して未来の推測はできたはずである。
いずれにしても後継、もしくは続行の番組には「超然としてすべての権力の外に立って」ほしい。
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