蜷川実花氏「『生理は隠すべきもの』をデザインで変える」という発想こそ隠すべきもの
メディアゴン / 2021年5月25日 7時30分
藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]
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大王製紙が、写真家・映画監督の蜷川実花氏とのコラボにより、「女性が女性であることを肯定できるようにするための、小さなきっかけをつくる」というコンセプトでパッケージデザインされた生理用品が発売した。
ハフポスト日本版による蜷川実花氏へのインタビュー「『生理は隠すべきもの』をデザインで変える(2021年5月17日)」によれば、「仕事でアメリカに行ったときのこと。スーパーマーケットの生理用品売り場へ足を運んだら、日本では見かけないような模様があしらわれた商品、ビビッドな色味の商品がたくさんあって」ということが動機であるという。
確かに、海外には生理用品だけではなく、トイレタリーグッズからセックス関連アイテムまで、非常に可愛らしい、飾っておきたくなるようなユニークな、遊び心がある商品は多い。アメリカ(だけでなく欧米全般)では、あらゆる商品が日本人から見れば、「場違いな可愛らしさ」が強調されている商品は多い。服でも、文房具でも、衛生用品でも、日本人の発想を凌駕した可愛らしさ、ユニークさを持つものは多い。
とんでもなく派手なTシャツや文房具などを持っている人に、「それ、可愛いね〜どこで買ったの?」と聞くと、「アメリカの友人にもらったお土産」みたいな返答が来るのはよくある話だ。筆者もアメリカに渡航した時などは、場違いな可愛らしさが強調されるパッケージの商品をよく買い集めている。
さて、本題だが、このインタビューによれば、日本の生理用品が画一的で魅力がない、そしてそれは何より、「生理は隠さなければいけないものだ」という刷り込みがある、というのである。そして、今回の蜷川デザインは、そういった悪癖に一石を投ずる・・・という願いが籠っているという狙いなのだろう。
[参考]<美術モデル大学提訴に違和感>会田誠セクハラは「切り取り報道」?
「固定したマイナスイメージを払拭したい」という試みは素晴らしいし、それは多くのデザイナーやメディアクリエイターたちが挑戦していることである。しかし、今回の件に関しては、筆者はいささか違和感を感じた。私は妻も娘もいるし、日々多くの女子大生を前に授業やゼミを行なって生活をしている。一般的には、若い女性との接点の多い生活をしている人間である。そんな私から見ても、「生理は隠さなければいけないものだ」などと思っている昭和な女性にはあったことがないからだ。
そもそも、生理用品の交換のためにトイレにゆくとか、生理痛で気分が悪い、といったことは、人前で大々的にアピールするものではない。それは「生理は恥ずかしい」とか「隠したい」とか思っているからではなく、単に「今からトレイに行きます」と大声で宣言しないのと同様に、基本的には通常のトイレと同様、ひっそりと行く、といった類のものであるからだろう。
生理に限らず、男性でも「ひっそりと人知れずトイレに行く」という人は多いはずだが(と、いうか授業中や会議中に止むを得ず中座するような場合以外、トイレ行きを高らかに宣言して行く人はいない)、それを「トイレは隠さなければならない」とか「恥ずかしいもの」などとは誰でも思っていない。単にエチケットの問題なのだ。
そう考えると、「日本の生理用品のパッケージデザインは地味で魅力がない」ということの理由として、「生理は隠すべきものであるいう刷り込みがある」という展開には飛躍があるように感じる。
インタヴューでは「最近は少しずつ、いろいろなデザインが見られるようにもなってきましたが、主流はやっぱり、淡くておとなしい色使いのもの。そこで表現されている女性像は画一的過ぎると感じていましたね。」と答えているが、デザイン論的には見れば、生理用品が「淡くて大人しい色使い」なのでは、「画一的な女性像の現れ」などではなく、そもそも、日本のトイレタリー商品、衛生用品はほぼ全て、衛生的な印象を与えることができる、という単純な理由でホワイト系を基調とした「淡くて大人しい色使い」を採用しているすぎない。激辛ラーメンのパッケージが赤いのと同じだ。
ようは日本の生理用品のデザインが「淡くておとなしい色使いでつまらない」ことに、衛生的に見えるという以外に理由などないはずなのだ。特に女性像などとは無関係である。そもそも衛生用品は短時間で捨ててしまう消耗品なのだから、過剰なデザインを加えて無駄な経費かけるよりも、よりシンプルに作る方が合理的でもある。
「『生理は隠すべきもの』をデザインで変える」という発想自体に、筆者は非常に昭和的なイデオロギーを感じてしまう。女性の生理現象を無理やりビジネスに繋げているだけのようにすら思うからだ。
女性の生理現象と女性像を接続させることで生み出されるイデオロギーの商品化というステレオタイプな手法は、令和時代のデザインとしても、発想としてもあまりにチープだ。蜷川氏ほど豊かな才能をもったクリエイターであれば、そんなチープなことをせずとも今回の生理用品ディレクションについて、もっと先進的なプロモーションができたはずである。今回はあまりに残念だ。
とにかく「『生理は隠すべきもの』をデザインで変える」という発想の無理やり感はいかにも古い。今の時代、このような発想こそ、隠した方が良いのではないかと思う。まぁこれはビジネスなのだから仕方がないのか。
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