松本人志主宰『キングオブコントの会』世帯視聴率6.8%の素晴らしさ
メディアゴン / 2021年7月7日 7時40分
高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]
***
浜田雅功がいない。6月12日(土)放送のTBS『キングオブコントの会である。コント日本一を決める『キングオブコント』のチャンピオン、優秀者が集まって、新しいコントを作ろうという意欲的な番組である。そこに、本体番組の司会者である浜田雅功が出演していない。
おそらく、浜田はコントを作ることに意欲がないのだろう(若い頃からその傾向があったと思われる)。年を経て(浜田58歳)コントに必要な瞬発力もなくなっていることを自覚しているのだろう。
かつて筆者は小林信彦さん(名書『日本の喜劇人』著者)に会って、デビューしたばかりのダウンタウンの未来について予想を聞いたことがある。小林さんはこうおっしゃった。「片方は役者として残るんじゃないの?」浜田のことである。
「コントは凝縮された劇である」。だが、これは大阪では、特に吉本系では通用しない。「コントは変なことをやるもの」と言う理解のされ方が多い。奇抜なことをやればやるほど笑いが取れる。赤褌で走りまわれば良い、変な顔をすれば良い。という理解のされ方である。これでは、役者を目指したい人がコントをやろうとは思わない。芝居のできない芸人だげが量産される。
もちろん例外はいる。芝居も大阪の笑いも、凝縮された劇であるコントの中で、演技で笑いを取れる天才は存在する。明石家さんま。浜田はそれほど器用ではなかったということだ。だからコントをやらない。松本も『笑ってはいけない』のなかの「捕まってはいけない」では参加せず休んでいるからおあいこ。2人の目指す方向が違ってきたのだろう。無理もない。
さて、松本は『キングオブコントの会』の視聴率が不満だったようである。
「世帯視聴率は6.8%。だがいまテレビ局が大事にしているのは世帯視聴率でなく、コアターゲットと呼ばれる若い世代の視聴率だ」
これが彼の発言の大意だろう。しかし、コアターゲットの視聴率は、テレビ局の内部資料で、世の中に発表されないから、6.8%より高かったかどうかはわからない。
各局が最重視する視聴ターゲットは以下である。
【日テレ】13~49歳「コアターゲット」
【フジ】13~49歳「キー特性」
【TBS】13~59歳「ファミリーコア」(49歳に引き下げるということも)
【テレ朝】従来の「世帯視聴率」のまま。
年寄は宣伝してもモノを買わないから、重視しない。それがターゲット変更の理由である。『視聴率の情報を外部に漏らさないように』いうことは各局の基本方針である。
さて、世帯視聴率にしろ「コアターゲット」視聴率にしろ調査発表しているのは日本でただ一社、ビデオリサーチ社である。このビデオリサーチの株主構成には驚かざるを得ない。以下にすべて挙げる。
株式会社TBSテレビ / 日本テレビ放送網株式会社 / 株式会社フジ・メディア・ホールディングス / 株式会社テレビ朝日ホールディングス / 株式会社テレビ東京 / 株式会社MBSメディアホールディングス / 朝日放送グループホールディングス株式会社 / 讀賣テレビ放送株式会社 / 関西テレビ放送株式会社 / 中部日本放送株式会社 / 東海テレビ放送株式会社 / 名古屋テレビ放送株式会社 / 中京テレビ放送株式会社 / 株式会社RKB毎日ホールディングス / 九州朝日放送株式会社 / 株式会社テレビ西日本 / 株式会社福岡放送 / 北海道放送株式会社 / 札幌テレビ放送株式会社 / 北海道テレビ放送株式会社 / 北海道文化放送株式会社 / 東北放送株式会社 / 株式会社中国放送 /東芝デジタルソリューションズ株式会社 / 株式会社電通 / 株式会社博報堂 / 株式会社博報堂DYメディアパートナーズ / 株式会社大広
見てすぐわかるように、テレビ局と広告代理店が自分たちのために自分たちで視聴率を調査している株式会社である、株式会社が株主の利益を最大化するのが目的だとすれば、発表される数字はいささか割り引いて考えなければならないと思うのが普通だろう。
そこでの「世帯視聴率6.8%」は良かったのか、ダメだったのか。筆者的には妥当だと思われる。冒頭のいくつかのコントは、奇抜なことが面白いを主眼としたコントで、これは年寄りには忌避されるだろう。でも視聴率は保ったと判断しよう。
[参考]日本テレビ・ドラマ『コントが始まる』の劇中コントはどうなるのが良いか考える。
優れたコントが3つあった。
『浜田雅功の楽屋』
掃除人のロバート秋山が浜田の楽屋に捨てられた浜田の進行表を拾ってくる。そこにはびっしりと書き込みがしてある。浜田は綿密な計画のもとに司会をしていたのだ。「結果発表」のセリフに音符が振ってある。「結♫ファ果♫ファ発♫ファ表♫ソ」。♫ファ♫ファ♫ファ♫ソだったのか。これは笑った。単ギャグの見本。
『お昼の生放送』
曜日ごとのレギュラーが3人ずつ全員集まってのスペシャル番組の設定。フロアディレクターは生放送を進めたいのだが、大物司会者のロバート秋山が内輪ネタだけしゃべって進ませてくれない、その内輪ネタがあなたは何曜日向きだというどうでもいいもので、盛り上がっているが見ている方にはわからない。後期の『笑っていいとも』を馬鹿にしているのか。面白い。ジャングルポケットの斉藤と東京03の飯塚がこの多人数に入ってもきちんと目立つ良い芝居。フロアディレクター役はステージに登ってもよいが映らないように努力している姿勢を崩してはいけない。
『管理人』
マンションの管理人(バイきんぐ小峠英二)が、一人暮らしの女性(松本)のもとに、ふるさと土産の明太子を持ってくるが、異様に警戒心の強い松本は、いくら言ってもドアチェーンをはずさない。その天丼。(天丼は同じことを少しずつエスカレートしながら繰り返して笑いを取る手法)小峠の管理人がこれ以上ないはまり役、すこし注文をつけるならば、小峠は強いツッコミと弱いツッコミの2種類しか披露しない。中間のツッコミを身につければ最強。松本の女形は汚いので、冒頭、警戒心が強いというのがすぐ理解できないが、ま、これはいいか。結局ドアチェーンは閉まったまま。その間にシーンは部屋の中に変わり、松本がなぜ警戒心が強いかが、文芸ドラマ、小説のような手法で明かされる。そこはきちんと芝居になっていて、たまらなくおかしい。
ついでにいうと、コントの間の演者のトークは必要か。コント制作裏話は僕のような裏方には興味深いが、コアターゲットは見たいのか。ずっとコントが続くと見ている方が疲れるからということか。ドラマの中に俳優女優のトークがはいれば視聴率は上がるのか。
最後に。
構成の作家が、おそらく10人以上表示されるが、この大量の作家は番組のために何をしたのか。たくさんのコントを書いたが、演者に気に入られずに没になったのだとしたら、存在意義は大いにある。だが、アイディアを出さない作家ならいらない。
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