<産婦人科医がコロナ分析?>医師タレント濫用の問題点
メディアゴン / 2021年7月16日 7時30分
![<産婦人科医がコロナ分析?>医師タレント濫用の問題点](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/mediagong/mediagong_32350_0-small.jpg)
藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]
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コロナ禍が始まって以来、テレビの情報番組やワイドショーのコメンテーターに医者や医療関係者が出演することが急増した。最近では内容と関係なくとも「出演者に1人は医者がいる」という雰囲気すらある。
収束の気配もなく、東京五輪を控えつつも4回目の緊急事態宣言の発動という状況に、ワイドショーの出演者たちは、たとえお笑い芸人であっても、誤った情報や誤解を受けるような発言を控えるように、慎重な言葉選びをしている場面をよく目にする。これは正しい姿勢だ。
一方で、感染症の学者や医師たちなどは、専門的な知見から、踏み込んだ意見や、時に誤解を恐れない物言いから突っ込んだ議論するケースもある。素人にはできない踏み込んだ議論は勇気がいるとは思うが、そういうこともメディアの重要な役割なのだから、ぜひ恐れずにやって欲しいと切に思う。
しかしながら、そういった流れとは少々異なり、妙な違和感を感じる時が稀にある。例えば、先日、お昼のワイドショーを見ていた時のことだ。「医師」と称する女性コメンテーターが、コロナについてあれこれと分析じみた解説をしていた。
それだけ見ればごくありふれた光景なのだが、その「医師でコメンテーターの女性」が気になり調べたところ、産婦人科専門医であるという。学生時代にミス日本に出場経験もあるようで、モデル業もしているそうだ。ようは「医者免許を持ったタレント」なのであった。
しかし、彼女のその時の肩書きは「医師」である。司会者も「先生」と呼びかけており、それに対して科学的なキーワードなどもチラつかせながら、コロナについて持論を述べ、分析し、時に政府のコロナ政策の是非にまで踏み込んだ発言をしていた。
一般的な視聴者がその場面だけ見れば、その女性は感染症の専門家のようにも見えてしまう。しかし、あくまでも医師免許をもった女性タレントであり、医師としても産婦人科医である。経歴にも「学士」とあるので、博士号をもった医学者としての研究歴があるわけではなく、単に「医学部を出て、産婦人科医になっただけの人」でしかない。もちろん、常識的に考えて、感染医療やコロナ政策にまで踏み込んだ発言ができるほどの感染症の専門的な知見があるはずもない。
[参考]<止まない炎上>小室禍と東京五輪エンブレム騒動の類似点
今日の科学の世界は細分化と専門化が進んでおり、近しい分野でも、実際は全く異分野・専門外であるケースは多い。医学などはその最たるものだ。飛行機の中で怪我人がでた時、乗客の中に医師がいたので、治療を依頼したら「精神科医」で治療ができなかった・・・といった笑い話もある。
筆者の専門とする情報科学やメディアの分野を見てもそうだ。情報やメディアといっても全ての研究者がインターネットや情報セキュリティ、人工知能(AI)に精通しているわけではない。江戸時代の飛脚の研究や、噂話や口コミの研究、DNA研究だって情報分野に入る。厳密にはそれぞれまったくの異分野と言っても良いだろう。国防システムやセキュリティ問題の解説を、「情報学者」という肩書きで「江戸時代の飛脚文化」の研究者がすることなどできないのだ。
同様に、産婦人科と感染症医学はまったく異なる分野だろう。番組を作っている側からすれば「普通のタレントよりは、医師免許を持っている人の方がマシだろう」という程度の感覚なのだろうが、産婦人科医が語るコロナと、お笑い芸人が語るコロナは、その内容の信憑性やクオリティに大差はない。
しかしながら、一般視聴者が「医師」と標榜された人がテレビでコロナの分析や解説をしている場面を見れば、感染症やコロナの専門性をもった医者・学者であると勘違いしてしまうだろう。場合によってはそれによって間違った情報の流布や風評、都市伝説、民間療法、世論形成がなされる可能性すらあるのだから危険だ。医師の肩書を全面に出した人の発言の影響力や危険性は、「視聴者(素人)の代弁者」的な立ち位置でタレントがコロナ問題の持論を語るのこととは大きく異なる。
「普通の産婦人科医」が、コロナ問題を「専門家と誤解を受けそうな立ち位置」で語っても良いのだろうか。こういった危険な行為に法的な規制、医師会の内規などはないのだろうか、と疑問さえ覚える。逆に考えれば、産婦人科や出産に関する専門的な問題を、感染症の研究者がテレビで解説していたら、件のミス日本コメンテーターは何も感じないのだろうか?
コロナ禍により日々の生活が逼迫し、誰もがコロナ情報に敏感になっている今日、その情報のあり方は我が国の世論形成や今後のライフスタイルにも大きな影響を及ぼすだろう。そんな中、感染症に関しては「ただの人」でしかないタレントさんが、医師免許を持っているというだけで、コロナ(やその政策)を語る/語らせることに強い違和感を覚える。
ネットメディアですら、コロナ関連の情報には厳密性が求められ、不正確な情報や誤解を与えるような情報への規制は厳しい。メディアを介してしか私たちはコロナ関連の情報を得る手段はないのだから当然だ。テレビのような影響力の高いメディアであればなおさらの厳密性が求められる。
メディアの役割が厳しく問われるようになっている今日、そういった人材の濫用についても、ぜひ考えて欲しいものだ。
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