<いじめ五輪は国辱>りんたろー氏の小山田圭吾擁護に疑問
メディアゴン / 2021年7月18日 7時30分
藤本貴之[東洋大学 教授・博士(学術)/メディア学者]
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東京五輪の人事はなぜ、ことごとく問題が起きるのか。エンブレム盗作騒動の佐野研二郎に始まり、新国立競技場のゴタゴタから失言で組織委員会会長を辞任した森喜朗、開閉会式演出担当者の渡辺直美氏侮辱による辞任、果ては日本人を中国人と言い間違える「ぼったくり男爵」ことIOCバッハ会長に至るまで、ありとあらゆる登場人物たちが1つ以上の大きな炎上ネタを必ずといっていいほど投下する。人事の契約条件に「炎上させること」という項目でもあるのではないかと邪推してしまう。
さて、オリンピック開催まで一週間に迫った時期に、今度は、開会式の音楽担当として発表された小山田圭吾(コーネリアス)がこの上なく炎上している。障がいをもった同級生への凄惨な肉体的・性的・精神的・暴力的ないじめの加害者であったことを、サブカルチャー雑誌に語っていたことが注目され、「オリンピック・パラリンピックの開会式音楽担当者」としては不適当ではないか、と問題になっているのだ。
小山田がどのような凄惨ないじめに加担していたのかは、インターネット上に多くのまとめサイトが存在するので、そちらを参考にしてほしいが、読むに耐えない内容である。このレベルのいじめは犯罪であろうし、自死事件にも発展しかねないケースであるように思う。筆者にも子供がいるが、もし自分の子供が被害者であれば、理性を保つことは困難であろう。
この炎上に対して、小山田はツイッターで「謝罪」を記しつつ、五輪音楽担当は辞退しないという考えを示した。これがまた、炎上や批判を激化させている。組織委員会会長を辞任した森喜朗の失言どころではない残虐な行為(を、自分で雑誌に吹聴している)だけに、「辞任しない」という考えには、人間としてプライドや羞恥心はないのかと理解に苦しむ。
一方で、小山田を擁護する見解もある。もちろんそれらは「昔のことなのだから、反省してるし、責めすぎはよくない」という立ち位置である。例えば、笑いコンビEXITのりんたろー。氏は「じゃあ、清廉潔白な人っていますか?って思っちゃう」という前提から、現在はすでに成長し、反省しているという仮説のもとに、「今を見ずに、過去の彼に対して石を投げるっていうのが正しいのかっていう疑問はありますね」と述べている。
りんたろー。氏の発言は、「新約聖書」の中の有名なエピソードを援用していると思われる。罪を犯した女を石打ちの刑にしようとした人々に対して、イエス・キリストが仲裁に入り、「罪のない人から、石を投げろ」と言ったところ、誰一人石を投げることができなかった、という話だ。人間誰しも罪人であり、人を裁くべきではない、というイエス・キリストの教えの根幹を示している有名なくだりである。
確かに、人間は誰しも罪があるわけで、それを差し置いて他人の断罪などすべきではないというのは正しい姿勢だ。むしろ、悔い改めている現在を評価すべきであろう。その意味において、りんたろー。氏の発言は正論だ。
[参考]<呪われた東京五輪>多すぎるスキャンダルと開催の是非
しかし今回の論点は、りんたろー。氏の正論が、今回の小山田には当てはまるのか? という点にある。「本当に小山田は悔い改めているのか? 単に炎上回避のために謝罪しているだけではないのか?」と思われているからだ。辞任しないという点も謝罪の真意が疑われる要因だ。
筆者は、りんたろー。氏の言わんとすることを理解した上で、「その正論は今回は当てはまらないのではないか?」と言いたい。
まず、今回の問題の悪質性は、小学校から高校時代にいたるまで継続的に犯し続けた「凄惨ないじめ」の事実もさることながら、「大人になった小山田」が、それを面白おかしく暴露して、サブカルチャー雑誌に得意げに語っている、という点にこそある。
当時の「大人になった小山田」は「若気の至り」を反省していないし、それどころか、大人の立場で、さらに面白おかしく語っている。この部分が幼い頃の「若気の至り」以上に、大きな問題である。そして、「大人になった小山田(当時)」が「さらに大人になった小山田(現在)」になったところで、意識にそれほど大きな変化があるとは筆者には思えない。今でも同じような意識で生きているのではないかと疑う人も少なくないはずだ。
子供が成長してゆく過程で、子供の頃の悪事や幼さを反省することはありうるが、「成人した大人」が「さらに歳をとって高齢化」したところで、どの程度、人格に変化があるだろうか。個人的には「ほとんどない」と考える。(もちろん、逮捕されて収監されたり、身内が自死したり、あるいはそれに匹敵するような大きなインパクトが自分の身の回りで発生して、ショック療法的に人生観に変化が起きることはあるだろうが、これは例外だろう)
しかも小山田は、芸能界で音楽活動だけをやってきて、一般社会で発生するような問題に苛まれることもなく、いわば「自分の好きなことに打ち込めてきた大人の人生」であり、著しく人格に変化が起きるチャンスも少ないのではないか。
「人の気持ちなんぞ、お前にはわかるまい」と言われればそれまでのなので、これはあくまでも筆者個人の感覚である。それを承知の上で、あえて言いたい。「成人した大人」が「さらに歳をとって中高年」になっても、人格も意識もたいして変わらない。むしろ狡猾になるだけだ。
もちろん、小山田としては、こういった問題が起きるたびに「マズいこと言っちゃったな〜。黒歴史だな〜」と反省はしているだろうが、それは自分にとってマイナスとなる発言が記録されていることへの「後悔」であって、「凄惨ないじめに加担したことへの悔い改め」ではないように思う。
事実が明らかになり、問題化している以上、五輪開会式音楽という東京大会を象徴するような場面の担当者としては不適当であることは明白だ。そもそも、五輪憲章にも反するという人事ということも理解しなければならない。そこは組織委員会も真摯に受け止めなければ、東京大会は「凄惨ないじめ加害者が開会式音楽を担当した」という負のレガシーが語り継がれることになるだろう。これはもはや国辱だ。
小山田はツイッター謝罪という中途半端ことで誤魔化すのではなく、記者会見等の公の場面で謝罪と説明をした上で、五輪担当を辞任し、いじめ問撲滅運動への寄付をするなど、目に見える「反省」を示してみてはどうだろうか。それで許される問題ではないが、小山田氏のギャラも税金なのだから義務はある。それこそが、自分自身が犯した罪の深さを改めて、そして本当に知る最後のチャンスなのだから。
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