古舘伊知郎『MC論』からの偏愛的「司会者論」(3)ダウンタウン、今田耕司、爆笑問題、加藤浩次、上田晋也、恵俊彰、みのもんた
メディアゴン / 2021年8月30日 7時30分
高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]
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『古舘伊知郎『MC論』からの偏愛的「司会者論」』の第3回である。今回は、ダウンタウン、今田耕司、爆笑問題、加藤浩次、上田晋也、恵俊彰、みのもんたについて述べてみたい。
*ダウンタウン「(古舘本)テレビを玄人のものに引き戻した鬼才」
関西ローカルの番組『4時ですよ〜だ』(毎日放送・吉本興業)で火が着き、大阪で若者の人気沸騰だというダウンタウンを初めて見たのは、『欽ドン!ハッケヨーイ笑った!』でのことだった。吉本の東京進出が始まったばかりの頃で、赤坂の裏通りにある小さな事務所には所長の木村政雄氏と、現・会長の大崎洋氏の2人しかいなかった。
ダウンタウンが出演した企画は人間紙相撲に扮して相撲を取るというもので、欽ちゃんはおそらく、動きで笑いの取れるコメディアンを探していたのだろう。しかし、この企画ではいかなダウンタウンでも笑いを取るのは至難だったろう。
以前も書いたが、この直後に名書『日本の喜劇人』の著者・小林信彦さんに、ダウンタウンの感想を聞いたことがある。小林さんは「(浜田の方は)役者として残る」とおっしゃった。そのとおり『ADブギ』(1991・TBS)などで実績を残している。それ以後はどうだろう、浜田は司会の役回りが多い。ある番組のコント。浜田の楽屋に司会のやり方を考え抜いたノートなどの痕跡が残されており、そこに『結果発表!』は「ソソラド」の音階で言うべきだ、というメモが残されている。とのギャグには笑った。
松本人志の方は司会の位置には座ることがあるが、座っているだけでいつもプレイヤーとして行動する。多くの芸人がダウンタウンを見て漫才を始め、ダウンタウンを目標にしていると言うが、ダウンタウンの目標はレギュラー番組を持つタレントになろうということではない。目標はやはり、古舘さんの言うように笑いの玄人になることなのだ。
[参考]古舘伊知郎『MC論』からの偏愛的「司会者論」(1)なぜ大橋巨泉とタモリはすごいのか
かつて、美空ひばりさんは「素人の方でもカラオケで歌える歌を発表しようと思った」と、発言したことがあったが、どう考えても歌いたいのは「川の流れのように」ではなく、玄人、プロしか歌えない歌のほうだった。ダウンタウンも。
*今田耕司「(古舘本)百人ものゲストを束ねる引き取り上手」
今田くんとも仕事の接点はあまりない。紳助さんと島田和歌子の『オールスター感謝祭』を引き継いで無事にこなす安定感。スタッフ受けは最高にいい。ビッグな司会者になるのではないか。
*爆笑問題「(古舘本)脊髄反射のMC」
「日テレ系のTBS番組『サンデー・ジャポン』」と言っていた頃が一番面白かった。太田光はプレイヤーだが、最近は保守的になって、語ろう語ろうとしている点はあまり評価したくない。田中裕二は司会者として意外なほどいい。危機管理はできるし、進行も基本的にそつがない。そこからどう抜け出すか。抜け出して他の人にどう先んじるか。
*加藤浩次「(古舘本)民衆の意見をいち早く通訳」
*上田晋也「(古舘本)関東芸人屈指の引き出す力」
*恵俊彰(古舘本未掲載)
このあたりが関東の司会者として伸していくのではないかと思う。上田は、特に報道系番組に色気がありあり。熊本県立済々黌高等学校卒業。早稲田大学教育学部国語国文学科中退の経歴がそうさせるのだろう。漫才から、司会者、タレントへ。それがこの人達が見るモデルか。
*みのもんた「(古舘本)フリップ芸と混ぜっ返しの帝王」
みのさんで純然たる報道番組など、やりたくない。そう思ったときに始まったのが『サタデーずばッと』(TBS)であった。この番組は報道局が制作する純然たる報道番組である。その後、みのさんで帯のワイドショー番組をやりたいという話があって始まったのが『朝ズバ!』である。昼は日テレで『午後は○○おもいッきりテレビ』をやっているし、引き受けるはずはないと思っていたのだが、複雑に絡み合った解けない経緯を解きほぐして結局やることになった。
『朝ズバ!』は、報道局ではなく、社会情報制作局の番組であった。いわゆるワイドショーを作る部署である。ここのスタッフに最も欠けているのは、バラエティを多く仕切っているみのさんのようなタレントの扱い方である。「番組はタレント一番」の意味がわかっていない。これは何でもかんでもタレントの言うことを聞けという意味では決してない。「タレントが一番」なので、タレントの提案はとりあえずやってみるが、それでだめなときは戦う。おベンチャラを言えとは言わないが、タレントはとりあえず神輿に担げ。タレントのために時間を割くポーズをしろ、タレントを気分よくして操れ、と言ったことが「タレント一番」である。そういう意味で、みのさんは載せ安い人で助かった部分がある。
『朝ズバ!』で、みのさんが無理な注文をした。「番組はすべてTBSの社員で作ってくれ」というのである。知っているだろうにそんな事はできっこない。下請けプロダクションの人間が8割である。でもプロデユーサーは「はい」と返事をして、最初の会議に主要メンバー30人ほどを集めた。人員構成は8割以上が社員ではなかった。報道に作家はいらないとも言っていたが、私もそこにいた。おそらくみのさんも社員だけではないことを感じていただろう。「タレント一番」の虚々実々。
その会議の演説で、みのさんの司会術がスーパー店頭のデモンストレータ仕込だみと教えられた。啖呵売(たんかばい)なのである。さらに、みのさんのすごいのは質問力である。専門家でも答えられない原型も原型の質問をするのである。「日本で初めて耐震偽装をした人はだれなんですか?」答えられない。専門家慌てる。面白い。
みのさんはスタッフを鍛えるには実に参考になる司会者であった。
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