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テレビ地上波放送の近未来を予期させる番組をTBSが放送

メディアゴン / 2021年11月2日 7時30分

テレビ地上波放送の近未来を予期させる番組をTBSが放送

高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]

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まだ、かろうじて、No.1メディアの座を維持していると判断できる(あるいはそう信じたい)テレビ地上波放送。だが、その極めて近い未来はどんな形になるのか。それを予期させる番組がTBSで放送された。

タイトルは『水上の挑戦者SP 100秒で賞金3900万円!最も歴史あるビックレースを生中継!』である。これだけではなんの番組かわからない人も多いと思うが、ボートレースと言っても伝統ある早慶レガッタなどのボートではなく、関係者はあまり言わなくなった『競艇』の番組である。

競艇の番組を好んで見る人が日曜の午後4時にどれだけ存在するのだろうか。できるだけ高い視聴率を取りたいテレビ局がこれをやるのは驚きである。(ただし、初めての地上波放送ではない)

公式HPには次のように記してある。

(以下、引用)「これを見ればアナタもボートレース通!最高峰の伝統の一戦『SG第68回ボートレースダービー』圧倒的なスピードと激しい攻防から「水上の格闘技」と言われるボートレース。その最高峰の伝統の一戦を完全生中継でお届け!初心者でもOK!番組では豪華ゲストと一緒に、ボートレースの観戦方法やレース場の大人気グルメや楽しみ方まで情報満載でお届けします。」(以上、引用)

世の中にボートレース通になりたい人がそうたくさんいるとは思えず、つまりこの番組は「皆さん、ぜひ競艇のファンになって、どんどん舟券を買ってください」という番組であることがわかる。

『SG第68回ボートレースダービー』の開催施行者は府中市だが、競艇全般のファン獲得に向けた宣伝もしていることから、他の競艇施行者(各自治体、地方公共団体など)、競走実施機関である日本モーターボート競走会、日本財団(旧・日本船舶振興会、歴代会長は笹川良一氏、曽野綾子氏、笹川陽平氏)などが、番組制作費を払っていると思われる。番組中に競艇の普通のCMも入っていたことからCM分のコマーシャル費もTBSに払っているはずだ。

総じて判断すれば『水上の挑戦者SP』は、全編競艇CMの番組と見ることもできるのである。

筆者は、42年に渡る競艇ファンだが、映像で競艇を見るには随分苦労したものだ。初めて平和島に行ったときには、競艇場にはそもそも場内に中継するためのテレビカメラが据え付けられていた。だから、やろうと思えばテレビ放送は簡単だった。

競艇は、最初、自前で衛星を借りて放送していた。我が家の衛星アンテナだけ、他家とは違う方向、競艇衛星方向に設置してあったために、おまわりさんに不審に思われたほどだ。舟券の購入(投票)はプッシュホンで行った。専用受信機と、投票に特化した液晶機能を持つ専用電話も買った。

その後、経費削減のため、競艇は日本市場に殴り込んだ衛星放送にチャンネルを持とうとしてパーフェクTVなどに申請した。しかし、この頃強気だった衛星チャンネルは、競艇などのマイナーギャンブルチャンネルを持つ気はサラサラなく、なんとか頼み込んで入れてもらうしかなかった。

[参考]CMと本編の区別がつかないテレビ番組の存在意義

ところが、有料の衛星全体の契約者は全く伸びない。一方、競艇のほうは、あっという間に多くの視聴者を持つ優良チャンネルに育って、今は5チャンネルを持つ。衛星は競艇のおかげで助かったのである。筆者は直ちに契約したが、この時、競艇側は変えなければいけないチューナーを無料で配った。大盤振る舞いである。相変わらず投票はプッシュホンだったが。

しかし、この頃から競艇ファンは減り続けていた。筆者が競艇仲間に「競艇ファンの平均年齢は毎年1歳ずつ上がってらしいよ」と話をすると「それは若いファンは増えず古いファンは死んでいるということじゃないか」と言って、みんなすごく寂しい顔になって頷くのであった。この話はあながち根拠のない話でもない。(JLC)レジャーチャンネルで前述の放送をつくっていた現場の人(テレビ制作会社の下請け)が話してくれたことだからだ。

たまに地上波で放送されるビッグレースもあったが、筆者は放送作家として、趣味を兼ねてそれらの番組の構成をしていた。この頃、筆者は求められて、日本モーターボート競走会の広報誌に、「競艇ファンはどうしたら増えるか」がテーマの記事を書いている。突っ張っていたので「ナンパなミーハーファンを増やすよりコアなプロのファンを増やせ」と書いたと思う。しかし、それではだめだった。

ネットの時代になってからはたちまち便利になった。今回の『SG第68回ボートレースダービー』を、筆者はMac上でやっている。もちろんスマホでも可能だ。レースはもちろんのこと、オッズもわかるし、競艇予想では見逃せないスタート練習や展示航走も見られる。

今回のテレビ放送ではオッズもスタート練習も展示航走も映像なし。だからテレビ番組でレースを予想することは不可能だ。その点からも、この番組が競艇ファンのための放送ではなく、競艇ファンを増やしたいがための全編CM番組だと判断できるのである。

テレビ地上波放送の近未来はこのような全編CM(のごとき)番組が普通になるだろう。契約料が高く、ファンの多いメジャースポーツは有料のNHK以外は無理。民放がCM料で生きていくモデルはいずれ崩壊する。番組制作費を出してくれる金のあるところはどこか。パチンコか。新しくできるカジノの紹介番組か。地方交付金を当てにして自治体丸抱えの観光地紹介番組か。繁栄企業の礼賛番組か。ショッピング番組か。と考えて思ったのはもうすでに、そうなっているんじゃないかということだ。

ところで、その昔、浜名湖競艇場に来た笹川良一日本船舶振興会会長(当時)の演説をきいいたことがある。会長は2000人は越えると思われる競艇ファンに取り囲まれて次のようにおっしゃった。

「諸君! 諸君が競艇に使ったお金は無くなったわけではありません。一時私が預かっているだけです」

すかさず、群衆の一人がヤジ。

「だったら返せー」

群衆、どよめくような共感の大爆笑。後を継いだ笹川陽平会長、我ら競艇ファンは、未だに巨額のお金は預けてあるので、有効な使い途よろしくお願いします。

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