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CMと本編の区別がつかないテレビ番組の存在意義

メディアゴン / 2021年11月1日 7時30分

CMと本編の区別がつかないテレビ番組の存在意義

メディアゴン編集部

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ちょっと昔(Youtubeがメディアの王様になる前)までは、テレビには、「番組の部分」と「CMの部分」が明確に別れていた。

なぜなら、公共の電波を利用しているテレビ地上波において流されるCMには規制があるからだ。具体的には、日本民間放送連盟(民放連)は、放送基準148条において週間の総放送時間におけるCMの放送時間を18%以内と定めている。

よって、従来(というか本来は今でも)は、番組と番組の間やその前後に「コマーシャル時間」が設けられ、15秒、30秒ほどのCMが何本か挟み込まれるという構成で、30分なり1時間なりの番組が成立していた。

クイズ番組などで「答えはCMの後で!」のように、「コマーシャル時間」での視聴者のチャンネル変更やリムーブを抑えるような出演者のテクニックもさまざまに存在してきた。

では「通販番組はいったいどうなるのか?」ということにも気付く人は多いだろう。通販番組は、それ自体がCMという位置付けではなく消費者に生活情報を届けるための「生活情報番組」という枠になる。よって、18%以内の枠に、通販番組事は入らないという解釈であるされる。あくまでもテレビ産業の側の解釈の問題で、一般庶民には釈然としないご都合主義のように感じるが、それでも通常のテレビ番組とは一線を画していたことは確かだ。

しかし、最近のテレビを見ていて気になるのは、果たしてどこからどこまでCMで、何がCMで、どれが番組の本編部分なのかがわかりづらい、素人でも「これ、ステマだろ」と感じてしまうものが多いということだ。番組内で特にCMやインフォマーシャルであることを提示せずに、やたらと商品やサービスを「出演者が体験する」という形式で紹介する。ようは「広告であることを隠している広告」であることは明白だ。

例えば、先日、あるバラエティ番組で以下のような構成のものがあった。

2人のタレントが、日帰りドライブで行けるお手軽観光地を巡るという旅をするという番組。よくある守備範囲の広めな低予算番組であり、それ自体はどうということはない。しかし内容はといえば、ステマ感が満点なのだ。

2人はまず、目的とする観光地を訪れ、ホテルやレストラン、名産品や有名なお店などを紹介して回る。基本、ベタ褒めである。ちゃんと金額も連絡先も、視聴者サービスのような割引すらある。

移動には、もちろん自動車を使うが、自分たちが乗っている新発売の自動車について、丁寧に紹介をする。運転しているタレントが「この車、小回りがきいて、乗りやすいよね〜」と妙に褒める。当然、トーク中にはその自動車の紹介映像が差し込まれる。

移動中に、新発売の清涼飲料水を飲み、「これ、うまい!」と大袈裟に絶叫しながら、旅の感想を語り合う・・・的な流れが延々と続く。大して面白くもない「訪問先の体験報告」を続け、その都度、さまざまな商品やサービスが紹介されるというものだ。

もちろん、これを見て、番組そのものが「全部がCMである」と勘繰る人は筆者だけではないだろう。そして言うまでもなく、そんな「全部CM」のようなコーナー中にも、通常通りの「コマーシャル時間」はしっかりと入っているのだからすごい。

しかも、その番組では、旅コーナー以外でも、新発売の冷凍食品やコンビニスイーツ、お菓子などの紹介やランキングコーナーなどが組み込まれている。こちらもやはり「おいおい、これって完全に全部CMだろ」と感じざるを得ないようなコーナーに彩られている。

そこで改めて考えてみると、これらは完全に「週間の総放送時間の18%以内」という規定に反しているのではないか、と素人でも気が付く。確かに、番組の隙間に挟み込まれる15秒、30秒の「コマーシャル時間」だけを見れば18%以内には収まっているのだろうが、番組全体が事実上のCM状態であるとすれば、18%どころではない。

もしかしたら通販番組と同様に「生活情報番組なんです」という主張なのかもしれないが、だとすれば「通販番組」との住み分けはどうなっているのかと疑問は尽きない。

[参考]テレビの報道番組をエンターテインメントにしてしまった罪

一方で、ネットの世界はといえば、意外かもしれないが、むしろテレビよりも厳しくなりつつある。

例えば、ニュースの王様である「Yahoo!ニュース」では、いわゆるステマ記事の配信を禁止している。つまり、広告主からの資金提供を受けて、広告主に都合のよいニュース記事を作成し、配信することが硬く禁じられている。もちろん、本誌メディアゴンもそのルールは遵守して運営している。

そういった実態を鑑みれば、「自由度が高いけどルールが杜撰なネットメディア」と「自由度は低いけど信頼性が高いテレビ」というステレオタイプな二項対立が実はもはや成立していないことがわかる。

誤解を恐れずに書いてしまえば、むしろ、テレビよりもYahoo!ニュースのような大手ニュース配信媒体の方が、はるかにルールも規制も厳しく、消費者に対しては正直である。メディアゴンの編集部やライターの中には、テレビ制作の「中の人」も多いが、一方でYahoo!ニュースのようなニュースメディアへの記事配信もしているので、それは強く感じるところだ。

もちろん、広告的な情報にも有益なものもあるし、広告として取り扱っているが、それでも面白く作りこめるものもあるとは思う。公共性の高いものだってあるに違いない。しかしながらそれでも気になるのは、テレビのワイドショーやバラエティ番組の類に散見されるステマコーナー群の存在だ。そういうコーナーが一つあるだけで、番組だけでなく、そのテレビ局自体が胡散臭く感じてしまう視聴者は多いはずだ。

テレビのニーズが急速に低減し、その影響力も急激に縮まりつつある。我が国のメディア市場を表す「広告費総額」でも、2019年にテレビはネット抜かれ、以降、その差は拡大する一方である。メディア産業にとって広告費は売り上げであり、影響力・ニーズともイコールであることを考えれば、確実にテレビの役割が失われつつあることがわかる。

テレビを作る側からすれば、本来は素晴らしい映像コンテンツを作りたいのだろうし、クリエイターとしての能力を発揮したいはずだが、一方で、「背に腹はかえられぬ」ことも事実だろう。悩んでいる作り手だって多いはずだ。

しかし、このままではテレビの役割が市場の縮小とともに急速に低下することは間違いない。「背に腹はかえられぬ」からと、怪しげな番組もどきステマを作るのであろうが、それとて焼石に水であることは明らかである。

とはいえ、巨大産業であるテレビにはまだまだ底力が残っている。その底力がまだ残っている今だからこそ、公共の電波としての矜持を持って、安易なスポンサーに依存に走らず、例え一時的に売り上げが下がろうが「普通の番組」を作るべきではないか。それがテレビ回復の唯一の方法ではないかと感じられてならない。

まだあるテレビの底力だって、徐々に失われてゆくのだから。

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