<損害賠償580万円>SNS誹謗中傷に反旗をひるがえす芸能事務所
メディアゴン / 2023年8月9日 7時0分
知久哲也(放送作家)
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7月12日に27歳の若さで亡くなったタレントのryuchell(りゅうちぇる)さんを巡る事件は、匿名SNS社会の闇をあらためて炙り出した。
SNS誹謗中傷に対して、自民党の牧原秀樹衆院議員は「SNSで誹謗中傷をして侮辱罪等の刑法犯に該当する者はアカウントを削除した者も含めてすべて逮捕すべき」とまで踏み込んだ見解を示した。具体的な動きもある。例えば、大阪府の吉村洋文知事は、9月にもネットでの誹謗中傷対策強化のための条例案を出し、国に対しても罰則化を求めてゆくという。
近年のSNS誹謗中傷訴訟の増加は、著名人・芸能人を中心に「もう、我慢しない」という意思の表れであろうが、それは企業にも広がっている。
例えば、今年2月、執拗なネットでの誹謗中傷を受けていた企業が悪質SNSユーザーに対して損害賠償訴訟を起こして勝訴した、という事件があった。この事件は、音楽イベント「オトノワ」を主催する株式会社ソールクリエイト(現・株式会社シックインターナショナル)と同社プロデューサー・富山周平氏が執拗なネットでの誹謗中傷を受けたことに起因する裁判だ。
被告男性は、同社および富山氏に対して、「執行猶予がついた(犯罪者)」「騙して勧誘」「洗脳」「詐欺」など、芸能事務所としての信頼性を著しく毀損する事実無根の誹謗中傷を数年間に渡ってSNSでの発信を繰り返したという。
人気商売である芸能事務所のような企業の場合、悪質SNS民とはいえ、消費者でもある相手に対して「穏便にすませたい」「平和的解決にしたい」という意向が強く出がちだ。犯人たちも、相手が立場の弱い体質であることを知った上で、たかを括ってやりたい放題し、誹謗中傷を加速させてゆく・・・という構図なのだ。
もちろん、株式会社ソールクリエイトは、加害者やアンチに対して及び腰だったわけではないが、当初は平和的解決を模索したという。同社は、まず何よりも考えねばならないのがアーティストを守ることであると力説する。当初は、誹謗中傷投稿の削除を申し入れるなど、譲歩もしたが、加害男性からの誠意ある対応は受けられなかった。アーティストを守るためにも裁判に踏み切り、その結果、勝訴となったわけだ。
それが嘘やデマであったとしても、SNSで拡散された「悪い情報」を止めることはできない。むしろその話が悪ければ悪いほど、面白おかしく拡散する。プロダクションやアーティストが受けるダメージは大きい。今回の勝訴判決は、賠償金額580万円。加害者男性は自業自得とはいえ、SNS誹謗中傷をしたことの代償は大きい。今後は法的な対応も誹謗中傷への抑止力として、必要に応じて行なっていくつもりであると言う。
そもそもなぜ、同社の音楽イベント「オトノワ」が執拗な誹謗中傷のターゲットになってしまったのか。
「オトノワ」は、若手ミュージシャンの支援イベントのような形式で、観客は入場無料である。出演者には参加費がかかるが、それも2000〜3000円といった額でいわゆる「スカウト商法」「デビュー商法」「自費出版商法」のような類ではない。
例えば、小さなライブハウスのような場所で出演する場合ですら、「ドリンクチケット10枚購入」のような条件が出演者につけられることは一般的だ。一般にライブハウスやクラブのドリンクチケットは600円ぐらいである。10枚の購入が強制されるのであれば、それは事実上、6000円の参加費ということになる。もちろん、それが20枚、30枚と大きい場合も少なくない。もちろん、設備利用費とか技術サポート料と称して、純粋に1ステージで万単位の金額を要求するケースも珍しくはない。
それを考えれば参加費2000〜3000円という金額は健全だ。集客も2000人を超えている(2021年)というから、出演側としては露出の確実なチャンスにもなり、高い出費ではないだろう。
「オトノワ」も運営会社シックインターナショナルも、むしろ、若手支援の事業体としては健全この上ないと言い切ることができる。揚げ足とりや言いがかりをつけるような「突っ込む要素」は著者がチェックした限り、見当たらない。
それではなぜ、アンチたちは、このイベント、この企業の誹謗中傷をしたのか。何が気に入らなかったのか、理解に苦しむ。しかし、一方で、音楽イベント「オトノワ」と運営会社がまともであればこそ、思い浮かぶフシがある。それは、同業他社からの嫌がらせである。
「スカウト商法」「デビュー商法」の類は無限に存在しており、その大部分が悪質といわれるものだ。デビューのためと称して多額のレッスン料や登録料を徴収されたり、大量の買取りや費用負担の請求が常態化している。そんな悪質業者からすれば、健全すぎる「オトノワ」と運営会社シックインターナショナルは商売の邪魔でしかない。
そうなれば、「オトノワ」に対して匿名の誹謗中傷を繰り返し、評判を落とすといった、悪質な攻撃をしかけることは想像に難くない。本来は、芸能ビジネスとは、実力やセンスによって勝ち取ってゆくものである。しかし、勝つことができない相手に対して、匿名の誹謗中傷で対抗しているのであれば、実に下劣だ。
近年、あらゆる場面で、ひょんなことからSNS誹謗中傷が生まれる。誰もが被害者になりうる時代だ。特に、人気商売であり、メディアに露出し、消費者に対して強く出ることのできない芸能界隈は顕著だろう。芸能界という運と実力とセンスが入り混じる世界だからこそ、下劣なネットリンチ、悪質なSNS誹謗中傷ではなく、正面から戦って欲しいものだ。
(註:画像はシックインターナショナル様からの提供です)
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