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<「借金全額免除」多発する誇大広告?>士業広告の是非を士業適正広告推進協議会の弁護士に聞く 

メディアゴン / 2024年8月27日 7時0分

<「借金全額免除」多発する誇大広告?>士業広告の是非を士業適正広告推進協議会の弁護士に聞く 

岡部遼太郎(ITライター)

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2024年3月に、多重債務の問題に取り組む弁護士などが中心となって「大量広告事務所による債務整理二次被害対策全国会議」が立ち上げられた。この話題を取り上げたNHKニュースによれば、多重債務に悩む消費者に対して、弁護士事務所などが誤解を与えるような広告を打って集客をすることで、かえって被害を拡大させたり、二次被害を生み出している実態を問題視。同会はその支援・サポート・相談のための組織であるという。

このニュースでポイントになっているのが、弁護士などの公益性の高い職業で、集客のための広告とはどうあるべきか、ということに加え、そもそも弁護士のような士業が広告を打つことの是非について疑問を呈している、ということだろう。

たとえば、かつて弁護士はいわゆる広告を出すことが業界ルールとして禁じられていた。しかし、平成12年3月24日に制定された「弁護士等の業務広告に関する規定」によって、弁護士による集客広告が解禁されたことで、一気に普及した。もちろん、インターネットやSNSによる広告手法と影響力の拡大もその背景にはある。

日本では広告を出している弁護士は怪しい・・・という認識は果たして本当なのであろうか。我が国でも訴訟や法律相談は当たり前のことになりつつある。そういった変化する社会状況の中で、一般庶民がどのように弁護士を探すのか。自分の事案にあった弁護士は誰なのか、自分の状況は法律事案なのか、そうでないのか、といったことは、ネット広告がなければアクセスできないのが一般的だろう。地域の弁護士会に連絡をして、闇雲に弁護士を探す・・・というのはいささか時代錯誤だ。

2020年には、弁護士を中心とした士業の広告の在り方についてのルールづくりや在り方について取り組む「一般社団法人 士業適正広告推進協議会(士推協)」が発足した。同会は、士業の広告はどうあるべきか、といった点から士業広告を正しい形で積極的に推進しようと取り組む団体だ。

本稿では、士推協の代表理事・櫻井光政弁護士、同会顧問を務める深澤諭史弁護士の取材を通して、士業広告の問題について考えたい。

* * *

SNSなどで「借金全額免除」や「国が認めた借金救済制度」といった文言が踊っている士業広告を目にする機会は多い。動画共有サイトなどを見ていて、意図せずこういった広告を目にした人は多いはずだ。借金に心当たりがある人であれば、少なからず関心を持つし、思わず広告をクリックしてしまった経験のある人もいるだろう。

しかし、「大量広告事務所による債務整理二次被害対策全国会議」によれば、多重債務で困っている人が、そういった広告を信じて士業に借金免除や減額を依頼したところ、結局、借金は減額されず、ただ弁護士費用だけがかかってしまうことで、依頼する前よりも経済的に追い込まれるという本末転倒な現象が起きているという。

士推協の代表理事・櫻井光政弁護士によれば、こう言った問題はそもそも「広告自体が悪い」というケースと、「仕事を受けた弁護士の対応が悪い」というケース、「依頼した消費者が理解を間違えている」というケースに3分類できるという。その上で、特に「仕事を受けた弁護士の対応が悪い」というケースが士業広告に悪い印象を与えているという。

 (士推協代表理事・櫻井光政弁護士、以下櫻井弁護士)広告自体が誇大であったり、誤解を招くようなものは論外ですが、仮に広告が適切であったとしても「士業の広告トラブル」は起きてしまいます。たとえば、良い広告が出せた結果、お客さんがたくさんきてしまい、それを捌ききれなくなってしまうような場合。もちろん処理能力も弁護士の実力の一つではありますが、キャパオーバーで適切な対応ができずに放置をしてしまうことがあります。それと比較的多いトラブル要因が「事務員任せにしてしまう」というケースです。例えば、少額の任意整理のような場合、依頼者は「ここに頼んだら返済金額は減る」と信じて依頼をする。確かに依頼してから利息カットや返済減額などはされたけど、そもそも少額なので、弁護士費用の方が高くついてしまうわけです。最初から弁護士がちゃんと対応していれば、そのあたりの説明もできるけど、事務員任せにしていると、弁護士がしなければいけないきめ細かい説明ができていないことが多い。それが結果的にトラブルとなってしまうわけです。消費者からしてみれば、結局支払っている金額は増えたわけですから、インチキに見えてしまいます。(以上、櫻井弁護士)

このあたりは非常に盲点だろう。SNSや動画共有サイトで無作為に流れてくる借金減額広告のほとんどは「誰でもが当てはまりそうな言い回し」である。クレジットカードやローンで買い物をした経験のある人であれば、誰でもが過払金としてお金がかえってくるのではないか?と思わせるものは多い。

しかし、そういった事例は、冷静に考えれば、どれもこれも少額な案件だろう。多少の金額が返金されたり、減額されたとしても、弁護士会が目安とする弁護士報酬だけでも赤字になる場合は少なくないはずだ。こういったことは、広告を見て連絡をしてきた依頼者に対して、着手前に説明しておけば、なんらトラブルになることはないことなのだ。広告集客と集客後の対応は次元の異なる話なのだ。

この点について、士推協顧問の深澤諭史弁護士は次のように説明する。

 (士推協代表理事・深澤諭史弁護士。以下、深澤弁護士)そもそも広告の内容がどんなに良くても、仕事を受けた後に弁護士が悪いことをしてしまえばダメです。逆に、広告が怪しくても仕事の処理がうまくいけば、消費者からの不満は出ません。たとえば先日の「大量広告事務所による債務整理二次被害対策全国会議」発足に関するNHKのニュースでは、あたかも士業による広告自体に問題がある、と思われかねないような表現されていましたが、必ずしも士業の広告が悪いわけではありません。業種を問わず、悪い広告もあれば、良い広告もあります。ただし、弁護士のような士業の場合、広告の作り方・使い方が他の業界に比べ、非常に曖昧で難しいということは事実です。その結果、業界内のルールも曖昧になってしまいがちで、それが消費者のトラブル要因になっているというケースもあります。(以上、深澤弁護士)

先述のように、日本弁護士連合会にも随時改正されている「業務広告に関する指針」があり、一定の指針・ルールが定められているが、必ずしも機能していないというのが実情だ。法律という厳密なルールを武器に活動しているはずの弁護士会で、機能していないルールや指針しか作ることができないことに違和感も持つ人も多いだろう。

 (櫻井弁護士)私たちの仕事は、同じ事案でも弁護士によって判断は異なります。どんな案件も個別の事情があり、あらゆる事例を一般化して「100%そうである」と言い切れない場合が非常に多いのです。では、弁護士が広告を出す時に、そういうことを反映させて「勝つ場合もあります、負ける場合もあります」なんて書かれたらどうですか? 依頼する気が起きませんよね? 消費者が誤解しないような基準で、はっきりと知りたいと思うのはわかりますが、そういったことは業界としてやりづらいんです。「業務広告に関する指針」も「架空の人物の推薦文を載せるな」ぐらいのことが書かれている程度です。実際に弁護士が広告を出す時の参考になるようなものにはなっていない。(以上、櫻井弁護士)
 (深澤弁護士)私も櫻井先生に同感です。士業の仕事は事案の個別性が非常に高いんです。たとえば離婚一つとっても、立場も原因もやり方もめざす結論も異なります。そんな状況で広告を出すとなれば、やっぱり大雑把な表現にならざるをえない。結果的に業界ルールを作るにしても、大雑把な表現をどう規制しようかとなってしまうわけです。そうなると文章化も難しくなる。(以上、深澤弁護士)

櫻井・深澤両弁護士の話を聞く限り、士業広告が問題というよりも、士業広告を媒介に仕事を受けた弁護士の対応の問題と、そもそも士業広告が誤解を生みやすい曖昧で難しい媒体であることがわかる。一方で、士業広告によるメリットも大きいという。

 (深澤弁護士)昔のテレビドラマなどでは、借金で首が回らなくなって一家離散したり、首を括る・・・みたいな物騒な場面がよく描かれていました。もちろん、今でもないわけではありませんが、そういう事象は減っています。その要因はといえば、借金に関する消費者の理解や知識の高まりがあるでしょう。債務整理には、任意整理、破産、民事再生などさまざまな手段があり、借金苦に一家離散したり、首をくくる必要はないんだ、という理解が広まったわけです。そのような理解の広まりに貢献したのは、間違いなく債務整理や借金問題などの広告の存在です。ネット広告で大量に目にする借金問題広告が、債務整理、任意整理、破産、民事再生などの助かる方法の存在を知らしめているのです。つまり、士業広告はある意味、たくさんの命を救っていることにもなります。広告というと、たくさん仕事を集めてお金を稼ごう、みたいな部分にばかり目がいきますが、一方でそういった公益性もあり、消費者と士業の双方に教育的な高い効果も認められると思います。(以上、深澤弁護士)

「大量広告事務所による債務整理二次被害対策全国会議」発足や士業広告問題のNHKニュースでは、士業が広告を出すこと自体に問題があるかのような印象を受けるが、専門家による多面的な分析を踏まえれば、この問題がそれほど単純ではなく、士業広告が善悪によって論じられるようなものでないことがわかる。士業のような公益性の高い仕事が「ビジネスライクな広告」を出すこと自体を嫌悪したり、猜疑心を持って見てしまうことは、ある意味、時代錯誤な感覚なのだろう。櫻井弁護士は次のようにも力説する。

 (櫻井弁護士)広告の在り方とは、まさに士業の在り方だと思います。私たち弁護士もカスミを食って生きているわけではない。弁護士は人権の擁護とかそういった側面を忘れてはいけないけど、基本的にはサービス業です。その現実を謙虚に認めて、良い仕事をする、それをわかってもらう、そのための広告を出す。それが士業が広告を正しく使うということなのです。そもそも士業の世界は時代に取り残されています。債務整理の場合、直接面談義務といって、事務所で依頼者と弁護士が顔を直接合わせて面談をしなければいけないというルールがある。民事裁判手続きでさえ準備手続きはwebでやっている時代に、これに何の意味があるのか。地方では地元の弁護士に受けてもらえなくて、東京の弁護士に依頼しなければいけない多くの人が実際にいるわけですから。(以上、櫻井弁護士)

士業広告に限った話ではく、そもそも士業という業界の体質的な古さも士業広告問題が注目される要因になっているのだろう。深澤弁護士は、「直接顔をあわすことも大事なことだけど、もっと大事なのは、仕事を受けた後にしっかりとコミュニケーションをとること。苦情相談で多いのは依頼後に弁護士と連絡がとれない、ということですから」とも語る。

NHKニュースなどで扱われている内容は、「社会福祉に寄与するはずの士業が、誇大広告で消費者トラブルを生んでいる」としか見えないものだ。取材対象も一方的でフェアではないように感じた。しかし、今回の櫻井・深澤両弁護士の取材をして分かったことは、「業種問わず悪い広告は悪いし、良い広告でも受けた仕事をいい加減にやればそれは悪」という単純で当たり前の話であり、「士業広告=怪しい」と決めつけるのは検討違いであるということだ。

また、平成12年まで弁護士が広告を出せなかったことからもわかるように、士業とはあらゆるシステムが古い体質で構築されている。「広告を出す士業=怪しい士業」というステレオタイプな認識を持っている人は、消費者ばかりか、士業者本人にも多いのだろう。

ちなみに筆者は長くアメリカに住んでいたが、テレビ広告で圧倒的に多いのは「弁護士、保険、医療」の三業種だった。

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