<コロナ禍を超えて年間50万人!>とっとり・おかやま新橋館が押し出す両県の魅力
メディアゴン / 2024年11月25日 7時0分
知久哲也(放送作家・明治大学客員研究員)
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2023年度に東京都内に設置されている地方自治体のアンテナショップは都道府県36店舗、市区町村26店舗の計62店舗(「2023 年度 自治体アンテナショップ実態調査報告」一般財団法人地域活性化センター調べ)。この中には年間来客数が100万人を超える「北海道どさんこプラザ有楽町店」、「栃木県アンテナショップ・とちまるショップ」が2店舗ある。
地方の自治体が地元の名産や商品、サービスを都内の繁華街でアピールすることで得られる経済効果は小さくないのだろう。例えば、「北海道どさんこプラザ」の2023年度の売り上げは37億円にも上る。全体的に見ても、62店舗中32店舗が年間売り上げ1億円を超えている。立地こそ良いが、どこも店舗が大きいわけでも、安い売りをしているわけでもないことを考えれば、非常に経済効率の高いショップとなっている。
この背景にあるのは、デパートやショッピングモールなどで頻繁に開催される地方の特産品・郷土商品のポップアップ企画だろう。普段目にすることのない珍しいお菓子や調味料、食材・雑貨を東京にいながらにして手軽に購入することができるのは、変わり映えのしない日々の買い物の中に、新しい感覚を提供してくれる。売る側にとっても、買う側にとっても魅力的な、Win-Winなビジネスモデルである。
最近のアンテナショップは繁華街の空きテナントなどが積極的に利用されており、都市部の地域活性化や客層チェンジなどにも貢献していると言われている。コロナ禍が終焉し、アンテナショップ業界も活性化をはじめており、2024年に入り、自粛ムードだった自治体アンテナショップの本格活動も始まっている。
本稿では、コロナ禍の冷え込みを経て、急速な活動本格化を始めた新橋にある鳥取県・岡山県共同アンテナショップ「とっとり・おかやま新橋館」の10周年イベントに参加したので、その様子をレポートする。
少子高齢化と人口減少が加速する中国地方。岡山・鳥取エリアも人口減少という問題を抱えている自治体の一つだ。少子化と労働人口の県外流出が加速する人口減少は、自治体の経済活動や税収減少を誘発するだけでなく、自治体としてのブランディングや活性化にも大きな障壁となる。一方で、お菓子やフルーツ、B級グルメなど、都市部の人たちが消費関心には事欠かない要素を多く持っている。
ただし、関東からも関西からも、アクセスがしづらいという中国地方特有の課題があり、インバウンドの前に、まずは「自分たちの魅力を知ってもらう」ということが急務であると言われる。その意味では、都内にアンテナショップを出し、そこで、本格的な情報発信によりブランディングを進めることは非常に重要だ。しかも、集客数と売上高を見れば、「情報が届けば、来てもらえる」ということは明らかである。
とはいえ「とっとり・おかやま新橋館」は人口減少に苦しむ自治体とは思えない勢いがある。年間来客数40万人以上を集め、売上高も飲食部門と合わせて平均3億円を超える、いわば「鳥取・岡山の優良企業」なのだ。
2020年からのコロナ禍自粛で、集客も売り上げも一時は低迷をしたようであるが、コロナが落ち着いて以降、急速な回復をみせている。そんな中での10周年記念イベントである。
記念イベントは、新橋駅前にある「とっとり・おかやま新橋館」を会場に、平井伸治・鳥取県知事、伊原木隆太・岡山県知事をホストに迎え、両県ゆかりのオリンピック金メダリストである、入江聖奈氏(東京2020ボクシング女子・鳥取県米子市出身)、岡慎之助氏(パリ2024男子体操・岡山市南区出身)の2名をゲストに開催された。
本イベントは、すでに多くのメディアによって報道されているが、このイベントの本当の魅力が抜け落ちて紹介されているケースが多く、少々残念に感じた。そこで本稿では、既出報道では見落とされていた本イベントで押し出されていた鳥取と岡山の本当の「推し」に着目して紹介したい。
イベントはアンテナショップ「とっとり・おかやま新橋館」で開催したこともあり、多くの報道メディアが集っていた。そもそも興味があってアンテナショップに来ているのだから、報道陣はイベントに興味津々なのだろう。
流れとしては、ゲストの入江氏、岡氏が出身県の好きな場所を紹介し、それを挨拶として、コック姿に扮した平井・伊原木両知事が、入江氏、岡氏それぞれの好きな故郷の食材による料理を振るい、フリートークをするという流れである。
さて、本イベントは多くの報道がなされたが、意外と見落としている点が多いように感じた。例えば、入江聖奈氏は好きな地元の食材として「カニ」を指定し、そのカニを使ったパスタが振る舞われた。しかし、既出報道が見落としているのは、実は鳥取県がベニズワイガニの水揚げ量が日本一の「カニ県」であるということだ。「鳥取=カニ」の方程式がすぐに浮かぶ人は多くはあるまい。
日本人は、カニといえば、正月に食べる北海道やロシアのタラバガニをイメージする人は多い。しかし、大きな可食部を持つタラバガニに対して、小ぶりなベニズワイガニはリーズナブルであり、最近は正月の食材としてタラバガニと並べられることも多くなった。しかも、日本産のベニズワイガニは、ヤドカリであるタラバガニよりも、カニ本来の風味を堪能できる、和食にあった食材として近年注目されている。地元の食材としてベニズワイガニを指名した入江氏は、なかなか良いセンスをしているが、こういった重要な情報やコメントがほとんどの既出報道で抜けていたのは、残念な限りだ。
さて、岡山県出身の岡慎之助氏は、自身の岡山お気に入りスポットとして「児島ジーンズストリート」を挙げた。既出報道では、「岡山県には若者が集まる場所があるんだな」と思われる程度の表現が散見されたが、実はそう単純な話ではない。
「児島ジーンズストリート」は決して「岡山の竹下通り」のような類の場所ではないからだ。岡山県の伝統産業である岡山デニムを代表する(すなわち世界的なメイド・イン・ジャパン・ジーンズ)デニムメーカー、ショップが、わずか400メートルのストリートに密集し、軒を連ねている「浅草の浅草 仲見世通り」のようなエリアなのだ。世界中のデニムマニア、ジーンズマニアにとっていわば「聖地」なのである。この事実を見落としている報道があまりにも多かった。
岡山県が日本有数の「ジーンズ県」であることはジーンズマニアにはよく知られている。マニアから見れば、ジーンズの聖地は、渋谷や原宿、上野などではないのだ。特に、井原地区(井原市周辺)と児島地区(倉敷市)で生産されるジーンズは「岡山デニム」として世界的にも有名で、世界中のデニムマニアがこぞって購入する垂涎のジーンズだ。
岡山県には、国産の優良なジーンズを生み出している有名ブランドは少なくない。もちろん、最近になっていきなり町おこしで導入されたようなものではない。歴史的に藍染めの高い技術を持ち、デニムの素材となる優良な綿花の栽培とそこから発展したデニムに求められる丈夫な繊維技術に裏付けられた「完全なる伝統産業」なのである。つまり、岡山デニムは、岡山県の高度な繊維産業・染色産業の地盤の上で成り立つ高度なブランド商品として、世界中から注目を集めているというわけだ。
岡山がデニム県であり、世界から注目される国産ジーンズの発祥の地であるだけでなく、欧米の高級ジーンズにも、同地域のデニムが利用されている事実が抜けていたので、本稿では改めて強調したい。
岡山デニムの世界的な知名度は、本場アメリカでも轟いていることはよく知られている。例えば、リーバイスの代表モデルといえば「501」だが、これのモデルチェンジを担当したプロデューサーとして知られる本澤裕治氏は岡山デニム「レッドカード(RED CARD)」を手掛けている。岡山がいかに本格派のジーンズ県であるかがわかるだろう。
さて、本イベントは、「とっとり・おかやま新橋館」のオープン10周年を記念して行われたものであるが、実は、かなり本格的な鳥取・岡山情報が提供された、イベントであったように思う。
本誌では今一度、声高に叫びたい。鳥取は日本最大のベニズワイガニの産地であり、岡山は世界最高峰のジーンズの聖地である、と。
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