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<数理最適化による業務改善>安直なDX、AI導入の課題をいかに克服するか?

メディアゴン / 2024年12月19日 8時20分

<数理最適化による業務改善>安直なDX、AI導入の課題をいかに克服するか?

ノバック友里恵(サイエンスライター)

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文部科学省「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」をご存知だろうか。現在、日本全国の大学で、分野や専門を問わず、「数理・データサイエンス・AI」に関する教育プログラムを提供している大学に対して、文部科学大臣がそれを公的に認定することで、「お国のお墨付き」を与えるという制度だ。

2020年から始まったこの制度、毎年続々と認定大学を生み出しており、いわば「認定されることがまともな大学の条件」でもあるかのように、認定取得に向け、全国の大学が躍起になっている。数理教育が、かつての「情報リテラシー(情報教育)」になっているのだろう。

このような背景にあるのは、文系や理系、場合によっては教育系・芸術系やスポーツ系といった実学的な領域に至る、あらゆる対象・場面において、AIを中心とした数理的な知見や技術が求められている現実だ。現在の大学生たちが社会人として巣立ってゆく先は、どんな業種・領域であっても、AIやデータサイエンスの利活用、数理的な処理の技術が求められるからだ。

情報通信総合研究所(東京)が2024年11月に発表した最新の調査によれば、生成AI(人工知能)のビジネスを導入している日本の企業は、従業員数1000人以上の大企業であってもわずかに3割にとどまっている。中小企業、地方企業ともなればその導入率は推してしるべきだ。9割以上の導入率を誇るアメリカとは雲泥の差である。

AIを中心とした数理的技術の差が、企業力の差となり、ひいて国力の差となると言われる。「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」の創設は、いわば、日本国の危機感の表れであると言えるのかもしれない。特に99.7%が中小企業と言われる日本の経済界においてはその危機感は一層加速する。

遅々としてではあるが、日本の企業でもAI導入が進んでいる。しかしながら、日本特有の課題が多く残され、それらが導入への障壁となっていると言われている。その最大の要因と言われるのが、日本のまじめで優秀な熟練工による属人化(特定の業務が特定の担当者に依存されている状態)だ。まじめで優秀であるが故に、機械以上に正確で丁寧な仕事を「勘と経験」でこなしてしまい、AIによる代替が困難である、という点だろう。もちろん、これは後継者育成が困難であるという別の問題も抱えている。

AIは機械的な作業を効率的に処理し、人間であれば1年以上かかるような作業も、1秒、1分でこなすことができる。しかし、それはあくまでも、与えられた条件と制約から、過去のデータを参考に、定められたアルゴリズムに基づいて処理を導き出すことであり、人間の熟練的職業人が手動で行う「勘と経験」に基づいた仕事が再現されているわけではない。

日本の企業の多くが、この熟練的職業人が手動で行う「勘と経験」による属人化を高めていることでジャパンクオリティを発揮してきたが、それが結果的に後継者不足だけでなく、AI導入の障壁を生み出している。もちろん、それが複雑化する発注や人材・商品管理の遅延やエラーを生み出しているケースも続発している。生産側が消費社会の速度についてゆけないという問題だ。

また、業務のDX(デジタルトランスフォーメーション)によって、却って生産性が低下したり、現場での混乱を生むといった問題も明らかになりつつある。日本のDXは、働き方や企業風土の特殊性が多分に影響しているため、欧米のような急速なDX、急速なAI導入が難しいと言われる所以だ。

そこで現在、企業経営において、「数理最適化」というキーワードが注目されている。数理最適化とは、数学的な手法を用いて、与えられた環境や制約条件のもとで、目的達成を最大化させたり、リスクを最小化させるための計算技法である。これは、いわゆるDX、AIとは異なり、一元的なオートメーションではない。あくまでも数理処理化の専門家(あるいは専門システム)によって、特定の目的のための最適化、システム化を行うため、より日本型経営に則していると言える。

例えば、数理最適化の導入に高い実績を誇る株式会社オクトーバー・スカイ(東京)では、世界中で利用される数理最適化ソルバー、Gurobi Optimizerの販売だけでなく、豊富な知識と経験を持つコンサルタントが存在し、企業の数理最適化による生産性の向上、業務効率化のための支援サービスも提供している。

このコンサルティングサービスでは、熟練エンジニアが培った知識や経験を抽出・可視化・体系化し、数式という曖昧さを持たない表現に変換する。これにより、属人化の課題と後継者不足という問題の両方を解決した上で、数理最適化システムの導入可能であるという。

株式会社オクトーバー・スカイのシニアコンサルタント、乾伸雄氏は次のように述べる。

 「弊社では、機械的なDXやAI導入がもたらす弊害や課題にも着目し、『最適化』のエキスパート集団である私たちが、詳細な現場分析を通した支援を実施しています。企業や現場によって課題・問題はさまざまで、特に日本のような企業風土の特殊性が高い場合は、安直なDXがむしろ混乱を招くことがありますが、私たちの提供する『最適化』ソリューションは、期待を裏切らないと思います。」(株式会社オクトーバー・スカイ:乾伸雄氏)

同社のビジネスは単にソフトやシステムを売るのではなく、最適化ソリューションであるという。実際に同社の支援・製品を導入した株式会社ヨックモッククレア、本社生産管理部、安齋博輝氏に話を伺った。

 「人気クッキー『シガール®』でお馴染みのヨックモックでは、年間で150種類3億5000万個のクッキーを生産しています。この膨大な生産を支える生産計画の立案は非常に複雑で、大変な業務負荷になっていました。長年にわたり熟練担当者の知識と経験に依存していたため、後継者育成が進まず、計画立案や調整に追われるあまり、他の重要業務に時間を割けないという課題も生じていました。この問題を解決するために、DXやAIを活用した複数のシステムを比較・検討しましたが、必要要件を満たせるものは見つかりませんでした。最終的に数理最適化技術を採用することで、目標水準の業務改革を実現することができました。」(同社・安齋氏)

数理最適化に関する細かい説明などは、複雑で専門的になるため、ここでは詳述しないが極めて複雑で膨大な処理が行われている。安齋氏によれば、ヨックモック生産計画のプロジェクトの工期は、要件定義(求められる条件を明確する作業)に3ヶ月、PoC開発(Proof of Concept:システムのアイデアの実効性や実現可能性を検証する作業)に2ヶ月をかけた上で、7ヶ月をかけて本システムの開発・稼働・導入を進めたという。

約1年がかりのプロジェクトである。熟練担当者の知識と経験に支えられてきた生産計画を、クオリティと信頼性を維持したまま効率化を実現するために、数理最適化の特性とメリットが大きく貢献したという。

しかしながら、取材していて気になる点は、数理最適化のシステムを導入するためのリスクやコストだろう。特に重要な点として、それは容易に使いこなせるものなのか、という点だ。よく聞く話が、サービス会社と契約している間は便利なシステムであるが、契約が切れてしまうと、せっかく導入したシステムやフローが全く使えない・・・という提供社依存のシステムやフローであるケースだ。エンドレスに契約し続ける必要がある場合などは、自社成長が望めないばかりか、将来的には大きなコスト増として負担がのしかかる。

その点については、乾氏は次のように力説する。

 「生産管理のような業務では、日本の企業の多くの場合で、Excelのような一般的な表計算ソフトが利用されているケースが多いです。よって、既存のExcelのフォームの改善のような形でシステムを構築することで、導入費用を圧倒的に圧縮できるだけでなく、使い慣れている環境であるため、提供社依存に陥ることなく、使うことができます。後継者育成もスムーズに進みます。具体的には、Excelベースで各種変数やインプットデータを準備して、それを弊社の数理最適化システム『Gurobi (Optimizer)』に処理させ、日々の生産計画を組み立てる、という方針です。これによって、熟練した担当者と同様のクオリティで生産計画を立てることができるようになりました。」(同社・乾氏)

最大の懸念である「高性能システムであることは良いが、専門家にしかわからないものだと困る」ということがある。インタフェースの部分で使い慣れたExcelが利用されているだけでも、その安心感はぐっと高まる。

 「利便性を追求する際に陥りがちな問題として、複雑なマクロを組む、という選択をしてしまうことがあります。これは、更新や管理にマクロを作成した人への依存、いわゆる「属人化」をしてしまうリスクがあるため、採用はしていません。いずれにせよ、クライアントであるヨックモック社が期待する全ての要望と選択肢をできる限り反映させることに注力した結果、弊社の数理最適化システムには満足していただけました。私も大好きなヨックモックに関わることができて、嬉しい限りです。」(同社・乾氏)

株式会社オクトーバー・スカイのような数理最適化を専門とする企業は、欧米を中心に続々と登場しており、有名企業・有名ツールも少なくない。一方で、日本ではまだまだ、DXといえば、安直なAI導入、機械的なコンピュータ化となってしまって

いる現実は否めない。オクトーバー・スカイ社のような数理最適化を専門とする企業の登場は心強い限りだ。なお、同社では、2025年2月6日に、Gurobi Optimizer の最新情報(2024年11月リリースのV12.0)と、サプライチェーンマネジメントにおける数理最適化技術の活用を中心に海外および国内での Gurobi 活用事例を発表するセミナーイベント「Gurobi Days 2025(https://www.gurobi.com/jp_events/gurobi-days-2025/
)」をThe Okura Tokyoにて、ハイブリッド開催する予定なので、数理最適化に興味がある人はぜひ、チェックして欲しい。

今後も本誌では企業のDX化や業務改善に向けて魅力的な試みを進めている企業や組織、専門家への取材を進めてゆく予定である。

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