<決定版・欽ちゃんインタビュー>萩本欽一の財産⑫『なんでそうなるの?』のコント55号
メディアゴン / 2014年10月26日 23時18分
高橋秀樹[放送作家]
* * *
大将(萩本欽一)と、坂上二郎さんは、昭和41年(1966年)に「コント55号」を結成する。
浅草松竹園芸場で名を売り、たちまち日劇の西田佐知子ショーに出演する。浅草から、日劇へのコースは誰もが夢見るスターへの階段だ。日劇で爆笑をとった「コント55号」をテレビが放っておくはずもなく、フジテレビの『お昼のゴールデンショー』(1968〜1971)で、コントを披露するようになる。
この頃は、民放4局のかけもちであり、寝る暇もない。『お昼のゴールデンショー』のプロデューサー・常田久仁子さんは、「コント55号」がスタジオ入りすると、「とにかく寝なさい」と言って布団を敷いた楽屋に連れて行った。
「寝せてもらったの、ありがたかったよ。とにかく寝ないと人間は判断を半分を間違う。右か左かの二択で間違っちゃうのはキツイよ。ディレクターで、“寝てない自慢”をする人がいるでしょ。そういう人には絶対仕事を任せない。間違うから」
僕にとっての「コント55号」の始まりは日本テレビ『コント55号のなんでそうなるの?』(1973〜1976)である。僕のふるさと山形県は、民放が日本テレビ系の1局しかない。他系列の『8時だよ!全員集合』(1969〜1985・TBS)は、見たこともない。「コント55号」が出演した『巨泉×前武ゲバゲバ90分!』(1969〜1971・日本テレビ)は見ていたが、あまり面白いとは感じられなかった。
「ゲバゲバはね、井原高忠さんが始めた。アメリカのギャグ番組を日本でもやろうということで、作家をたくさん集めてコントを書かせた。出る人に役者さんも多くて、台本のセリフ通りにやるのが基本」
「でも、井原さんは55号がアドリブでおもしろい人だってわかってくれてて、台本のセリフ言ったあとに、その後ひとことどうぞ、って言ってくれたの。でも、そんなに面白いことは言えなかったなあ」
『コント55号!裏番組をぶっとばせ』(1969〜1970・日本テレビ)というのも、僕は見ていたけれど。野球拳しか印象に残っていない。「あれは芸者の遊びだ」と、叔父さんが言っていた。
ところが、僕が高校3年生、昭和48年に始まった『コント55号のなんでそうなるの?』にはものすごい衝撃を受けた。浅草松竹演芸場からの中継録画。むさぼるように見た。テレビに、オープンリールのテープレコーダーのマイクを向けて録音した。セリフまで暗記した。とにかく、坂上二郎さんが面白い。欽ちゃんは二郎さんの面白さを誇張して拡大してるだけじゃないか? というのが素直な感想だった。欽ちゃんの「振りの凄さ、鋭さ」など、わかろうはずもなかった。
この番組の作家は、松原敏春、岩城未知男、喰始、浦沢義雄 。座付き作家「パジャマ党」の大岩賞介、詩村博史、永井準、最若手の水谷龍二。
水谷さんは僕に台本の書き方を教えてくれた人だが、『なんでそうなるの』の台本が書きたくて、北海道の専門学校を卒業すると上京。自作の台本を持って大将の元を訪れ、採用された。今は、演出家、劇作家。
演出の齋藤太朗さんもユニークな人だった。作家を全員会議室に集めると、自分のテーブルの前に千円札の札束を積む。そしておもむろに作家の台本を読み始め、その場で台本料を支払っていくのだ。
「このコント5千円、これは2千円、これは払えないな。」
僕がもう少し先に放送作家になっていれば。その会議室に参加したかったような、したくなかったような…。少なくとも絶対参加したくないわけではない。面白そうだ。
「大将、久しぶりに、『なんでそうなるの』のVTR見たら、二郎さんの妊婦を右に左に転がしてました。今やったら、抗議殺到ですよ」
「荒っぽいコント演ってたねえ。でも、あれ二郎さんはちっとも痛くないの。行くよって合図してからドンて押してるから。合図は二郎さんと僕にしかわからない」
「二郎さん最後は自分からダイビングしてました。すごい動きだったですよねえ」
「でもね、『なんでそうなるの』のはもう、55号の最末期だからねえ、動けなくなってたよ」
「あれで、動けないんですか。じゃあ、日劇は」
「あんなもんじゃない舞台袖の柱を垂直に登る勢い」
「見たかったなあ」と、僕。
「『なんでそうなるの』の頃はスピードも出でないはずだし、振りが滑らかに出てきてないはずだ」
大将は、自分の番組は見ない、というタイプの演者だ。演ったら、次、ということだ。
「『なんでそうなるの』には、短いタイプのコントもありましたよね」
「あれは、演出の齋藤太朗さんが優れてたの。30分番組で10本くらいコントをやる。演ってもその半分くらいはボツ。みんな長いコントにしようと思ってるんだけど使えるところがそこしかない。それをうまく編集して齋藤さんが出してくれたんだ」
・締め切りが間に合っていない作家の欽ちゃん、編集者が原稿をとりにきたと気づいてタンスに隠れる。出てきた二郎さんの編集者、一目散にタンスを開け「先生原稿(ちょうだい)」・・・これは編集者の二郎さんに殺陣のシーンを散々やらせる『平馬がゆく』の一部か。
・学生の欽ちゃん。出てきて「ヘルメットにゲバ棒」の用意をしている、そこに「父の二郎さん」が出てきて機動隊の格好に着替える。「じゃあ、父ちゃん現場でな」・・・つかこうへい『飛龍伝』の時代だった。
「そうそう、そういう短いコントは斉藤さんが編集で作ってくれたの」
「動きが、遅くなってるって言いますけど、コントであんなに早く動けるのコント55号だけなんじゃないですか」
「いや、僕は往時は知らないけど、エノケン(榎本健一)さんと、ロッパ(古川緑波)さん、それからこの目でしっかり見てるのは、のり平先生(三木のり平)と八波むと志さん、この玄冶店はすごい」
「いやさ、お富っていうやつですよね、お富与三郎。東宝で『雲の上団五郎一座』っていう映画になってます」
「映画はダメ、映画用にとっちゃってるから、舞台で見ないと」
そういわれても、舞台は見られない、僕は映画を探し始めた。
(インタビュー⑬につづく)
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