東大などが自閉症スペクトラムへの「オキシトシン経鼻スプレー」の治療効果の検証実験をスタート
メディアゴン / 2014年11月2日 1時9分
高橋秀樹[放送作家/日本自閉症協会・日本自閉症スペクトラム学会・日本社会臨床学会各会員]
* * *
2014年10月30日、東京大学、名古屋大学、金沢大学、福井大学、文部科学省などが共同で、自閉症スペクトラムへの「オキシトシン経鼻スプレー」の治療効果を検証する実験をスタートすると発表しました。新聞記事などではわかりにくいところもあるので解説を施しながら、再録します。
自閉スペクトラム症(通常は「自閉症スペクトラム」)とは、現在の日本の診断名では、重度の知的障害を伴った自閉症からアスペルガー障害や高機能自閉症、特定不能の広汎性発達障害までを含むすスペクトラム(連続体の意味)の概念です。
自閉症スペクトラム者が対人場面で発現するコミュニケーションの障害について「オキシトシン経鼻スプレー」の有効性と安全性を検証する医師主導の臨床試験を多施設で連携して行います。
対人場面で発現するコミュニケーションの障害は、言葉以外の手がかりである、相手の表情や、声のトーン、イントネーション、しゃべり方などから他人の気持ちを読み取ったりすることが困難で、自分の感情を抑えきれなかったりすること。
オキシトシンとは、脳から分泌されるホルモンで、女性での乳汁分泌促進や子宮平滑筋収縮作用が広く知られています。日本では注射剤のみが認可されており、陣痛誘発・分娩促進などに保険適応が認められています。
動物では、親子の絆を形成する上でオキシトシンの働きが重要だと知られているとともに、人でも、健常な成人男性への「経鼻スプレー」を用いたオキシトシンの投与によって、他者と有益な信頼関係を形成して協力しやすくなること、表情から感情を読み取りやすくなること、などが報告されました。そのため、愛着ホルモンなどと表記する一般書もあります。
これまで、日本の2大学で、それぞれ別の自閉スペクトラム症の症例で、「オキシトシン経鼻スプレー」の長期継続投与で社会性障害などの症状が改善した可能性が報告されました。また、東京大学では、自閉スペクトラム症の方 40 名での医師主導臨床試験で、オキシトシンの 1 回の経鼻投与によって他者の感情を理解する方法やその際の脳活動などが改善したことを報告しました
「経鼻スプレー」は鼻の粘膜から吸収させて用いるものです。今回の120名の臨床試験により良い結果が得られた場合でも、「オキシトシン経鼻スプレー」が医療に用いられるようにするには、さらなる開発計画を進めていく必要があります。製薬会社などが行う新薬の安全性・有効性を調べ、厚生労働省の承認を得るための「臨床試験」、いわゆる「治験」ではありません。
臨床研究ですから、オキシトシン(実薬)ではなく偽薬(プラセボ)を受ける可能性があります。どちらなのかは医療者も参加者もわかりません。夢の治療法が完成したわけではありません。
<臨床試験の計画>
臨床試験参加のための基準
1. 年齢(基準:18歳以上55歳未満)
2. 性別(基準:男性)
3. 自閉スペクトラム症の診断(基準:自閉性障害、アスペルガー障害、または特定不能の広汎性発達障害の診断がなされていること)
4. 知能指数(基準:正常以上)
ただし、以下の条件に該当する場合には参加対象になりません。
・A) 自閉スペクトラム症以外の精神科診断が優勢
・B) 気分障害、不安症などの併発精神疾患の病状が不安定
・C) 1ヶ月以内に向精神薬の処方に変更があった
向精神薬は精神に作用する薬剤の総称で、抗不安薬、睡眠薬、抗うつ薬、抗精神病薬、気分安定剤、精神刺激薬などの薬剤も含まれます。薬の内容が不明の場合は投薬を受けている医師に必ず尋ねること。
・D) 2種類以上の向精神薬の内服
・E) ADHD(注意欠如・多動症)の治療薬(ストラテラまたはコンサータ)を服薬中
・F) オキシトシン連続投与の治療歴
・G) オキシトシンに対する過敏症の既往
・H) てんかん発作または5分以上の意識障害を伴う頭部外傷の既往
・I) アルコール関連障害または物質関連障害の既往
また、臨床試験では10−11週間の期間に少なくとも7回来院必要があります。
臨床試験は、平成 26 年 11 月に試験を開始して、平成 27 年度中に試験を完了する予定です。
[参考]
・東京大学による記者発表資料(http://www.h.u-tokyo.ac.jp/vcms_lf/release_20141030.pdf)
・東京大学医学部精神医学教室 HP 内「自閉スペクトラム症へのオキシトシン経鼻スプレーの臨床試験」(http://npsy.umin.jp/oxytocin.html)
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