<過酷な海外出張こそ財産>YouTubeの映像をつなぐだけで作れる海外映像番組?
メディアゴン / 2014年11月4日 0時10分
吉川圭三[ドワンゴ 会長室・エグゼクティブ・プロデューサー]
* * *
テレビマンとして一番鍛えられた体験は? と問われれば、筆者は即座に「海外ロケ体験」と答える。国内外ロケ、特に海外ロケはディレクター・プロデューサーにとってテレビマンの技量を鍛える「最大の修行の場」であることは、前回の記事でも書いた。
もちろん、「ロケ(撮影)」以外でも、番組のために海外に出張することはある。筆者が「世界まる見え!テレビ特捜部」(日本テレビ)を担当していた時は、世界のテレビ局・プロダクションを様々に訪ねた。
日本を凌ぐ映像大国の英国・米国・フランスが中心だが、中国・ブラジル・ドイツ等々、テレビ番組がまだ世界に誇るほどの商品になっていない国々にも訪れた。
こういった場合は、いわゆる「海外ロケ」よりも肉体的な大変さはないが、「ギリギリの交渉をせねばならない」ため、ある種、「神経戦的出張」であったと言える。しかし、国によってテレビに関する考え方が全く違い、企画や手法も異なる。もちろんそういう時は、訪問した先で、ドラマからヴァラエティまで撮影現場もしっかり見せていただいた。筆者の中に、こういった出張を経験することで、様々なジャンルの映像作品の蓄積が出来たことはテレビマンとしての最大の財産だ。
バブル経済の残り香があった頃のことだ。その時は、ヴァラエティ番組の収録だった。紺のダブルのスーツに、エルメスのネクタイを締めてアメリカの「20世紀FOX社」のスタジオで立っていたら、一人のカメラマンが近づいて来て筆者に、
「今度はFOXを買いに来たのかね?」
と言ってきたのだ。パナソニックがユニバーサル映画を、ソニーがコロンビア映画を、次々に日本企業がハリウッドのスタジオを買収していた頃だった。筆者が「ジャパニーズ・テレビステーション」と言うと彼は不思議な顔をして去って行った。
こんなこともあった。
国名は伏せるが、とある国のテレビ局を訪ねた。そのテレビ局の副社長が「自分の別荘に来い」という。行くと異様に背の高いプロデューサーがいて、大きなリビングでコーヒーとクッキーがふるまわれた。雑談から始まり、日本のテレビ事情の話になる。国営放送があって民間放送があって・・・など筆者が話していると、
「違うミスター・ヨシカワ。番組のことだ。どんな番組が流行っているんだ?視聴率ベスト10位から1位まで答えてくれ」
と具体的な番組の内容のことを聞いてくる。そこで、日本では流行っているテレビ番組などを思い出しつつ、「日本でヒットしている番組」について語っていると、
「もっと詳しく」
とディテールまで聞いてくる。そうこうしているうちに、あっと言う間に夕方になっていた。そして、丁寧に挨拶されその別荘を去った。もちろん、帰国すると日々の慌ただしさ中で、そんなことがあったことなどはすぐに忘れてしまった。
さて、「世界まる見え!テレビ特捜部」では、オンエアーチェック素材と言って、各国の放送中の番組をダビングして作品情報を調査するために作業がある。
「ああ、いまこの国のテレビはこうなっているんだ」
というのがダイレクトにわかる。そして、「あの国」を訪問してから1年後ぐらいのことだ。そのオンエアーチェックをして、「あの国」の番組を何本か見ているときの事であった。
筆者は呆然とした。
「あの国」の番組は、日本の番組を次々にパクっていたのだ。それも筆者があの時、話した番組をパクっている。あのころは「フォーマットセールス」(番組のコンセプトを売るビジネス)という概念も出始めたばかりで、英・米・オランダはそのビジネスを始めていたが、日本のフォーマットを無断盗むとは全く想像も出来なかった。
日本も「あの国」の番組をほとんどチェックしていなかった。完全にやられたのである。世界では実に信じられない事が起こる。あの副社長はその後、社長に昇進したと後から聞いた。
そして現在、インターネットも加わって世界の映像市場も大混乱の様相を呈してきた。ロケに全く行かなくても海外映像番組が作れてしまう。ディレクターはエアコンの効いた部屋でYouTubeの映像等をつなぐだけでよい。低コストで手間もかからずそこそこ数字も取れるのでそういう番組が増える。価値のある映像は取り合いで「価格高騰」が起きている。
その意味では、色々なことが頭をよぎる。
・これから海外映像番組の世界は、ますます均質化して行くのであろうか?
・世界の衝撃映像、笑える映像、仰天事件エピソードを消費し尽くした時に、テレビに一体何が残るのか?
・それでもなお、少ない映像の取り合い・貧者のゲームをし続けるのか?
・その時、過酷な海外ロケで「無から有を作れる演出家」がどれだけ残っているのだろう?
海外映像番組「世界まる見え!テレビ特捜部」を生みだした筆者は、そう考えれば、テレビの世界映像戦争状態を作りだした「第一級戦犯」なのかもしれないが。
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