<前・兵庫県知事の貝原俊民氏が死去>阪神・淡路大震災の創造的復興に尽力した隠された真実
メディアゴン / 2014年11月15日 1時46分
榛葉健[ テレビプロデューサー/ドキュメンタリー映画監督]
* * *
11月13日、阪神・淡路大震災の時に、被災地のリーダーとして尽力した前・兵庫県知事の貝原俊民さんが、突然の交通事故で亡くなった。
氏の経歴を改めて確認しようとウィキペディアを見て、胸を痛めた。「自衛隊への派遣要請が遅く、それが知事の判断ミスによるというニュアンスの報道が数多くなされたことから、初動期における知事の対応が批判された」とあった。氏の名誉のために、筆者が知る経過をここに記しておきたい。
1995年、テレビ報道の仕事で阪神・淡路大震災の特別番組のチーフディレクターをしていた筆者は、震災発生3週間後に、貝原知事に1対1のインタビューを敢行した。それは「自衛隊に救援の要請をするのが地震から4時間以上経ってからだったのはなぜか?」という疑問を質すためだった。当時、「知事の自衛隊派遣要請が早ければ、助かった命もあったはず」という知事本人への批判が渦巻いていたからだ。
それに対し、貝原知事は、淡々と答えた。
「あちこちで火の手が上がっているのが見えたのですが、情報が何も上がってこなかったんです。午前10時頃まで、私に入った被災情報は『行方不明者3人』。これでは自衛隊の出動は要請できません」
筆者は自分たちの取材した情報をもとに、すかさず次のように問うた(数字は概数)。
「『生き埋め200人以上』とか『行方不明者約400人』といった被災情報が、早い段階で東灘警察署や芦屋署などの各所轄(しょかつ)に入っていましたが、知事には伝わっていなかったんですか?」
冷静沈着な知事の口調は、一気に高ぶった。
「そんな重大な情報があれば、私はすぐに自衛隊に派遣要請をしていました」
貝原知事は自治省出身。彼は自衛隊の派遣が遅れたことについて、こう解説した。
「シビリアンコントロールは、いい加減に扱ってはいけないんです」
「シビリアンコントロール」。日本語で言えば「文民統制」。軍隊は文民が統率するという近代国家の原則で、軍が暴走しないように歯止めをかけるものだ。それに基けば、根拠もなく自衛隊が独断で市街地を往来して何かの活動をすることは認められない。今の時代から見れば何と頑ななのかと思われるかもしれないが、当時の自衛隊の災害派遣の法的根拠は今よりずっと厳しく、基地のごく近くで人道的な救出をすること以外は、都道府県知事の要請があるまで勝手に出動してはいけなかった。
その時に筆者は知った。自衛隊の派遣要請が遅れたのは、知事が判断を誤ったり、怠ったりしたからではなかったのだ。彼は情報のない中で、「法」に従うしかなかったのだ。
ではなぜ、知事のもとに情報が届かなかったのか? 筆者たちはその後も調査を続けた。
大地震が起きてすぐ、各地の警察署には、数百人単位の「生き埋め」「行方不明」の情報が次々と入っていた。それらはすぐに、兵庫県警本部で災害情報をまとめていた警備部にも無線で届いていた。
ところが・・・。その情報は、県警本部に隣接する兵庫県庁にいる知事に届くことは無かった。原因は、県警の伝令担当者が「知事への報告を忘れていた」。それが、貝原知事の「自衛隊派遣要請」が遅れた理由だった。だが、県警の担当者個人を責めることも出来ない。巨大地震の発生直後は、それほどの大混乱だったのだ。
当時指摘された、「自衛隊の出動がもっと早ければ、生き埋めになった人たちを助けられたはず」という問題提起は、その通りだろう。山口大学の調査では6434人の犠牲者の約1割は、家具の下敷きになって亡くなっている。彼らはすぐに救出されればもしかしたら何人かは助かった可能性があった。
ひとたび大災害が起きると、ヒューマンエラーが必ず起き、「マニュアル通りには情報が伝わらないことがある」。そのことを19年前の日本は学んだ。
番組では「情報途絶」と題して、この「伝わらないならどうするか」を問題提起した。そして放送後、自衛隊の災害派遣に関する法律は簡素化されて、緊急時、彼らは速やかに出動できるようになった。
東日本大震災が起きて、全国の自衛隊員が被災地にすぐに展開できたのは、貝原知事をはじめ、当時の阪神・淡路大震災で苦い経験した人たちが、次に来る災害に備えて知恵を出し合って、問題を改善していたからでもある。
貝原さんは、知事を退いた後も、復興や「いのち」を守る社会作りを願って、積極的に発言を続けていた。
問題が起きた時、短期的な事象を捉えて当事者を批判するのはたやすい。大衆受けもするだろう。でも大切なことは、「事実を捉え、何を学び、改善するか?」という長期的な視座と、人間の生きざまを見つめる“まなざし”だと思う。
件のインタビューで、貝原さんはこうも言っていた。
「だからと言って、私に責任がないということはありませんよ。亡くなった人のことを思えば、私には大きな責任があります」
贖罪の気持ちを背負っていた。阪神・淡路大震災の発生から、間もなく20年。「復旧」どまりだった国の施策を、「創造的復興」に高めようと尽力し続けた貝原俊民さんのご冥福を、心からお祈りします。
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