<辞めた理由は「テレビがつまらなくなったから」>有能なディレクターは「不必要なモノにかける努力」に徒労した
メディアゴン / 2014年11月18日 18時2分
高橋正嘉[TBS「時事放談」プロデューサー]
* * *
情報を上手に生かしている番組は珍しい。
そのネタに対して知識のない人に、「これ知ってますか?」と教えるような情報の出し方しか知らなければ、おのずと番組の作り方は限定されてしまう。知識のある人にとって見れば既に知っていることだから、「なんと陳腐な番組か?」と思われてしまうこともあるだろう。
「多いか少ないか」はあるが、大概の情報は「知っている人がいる」と思ったほうが良い。そう考えると、多かれ少なかれ、番組の「どこか」は捻らなければならない。かといっても、最初から捻ってしまえば、その情報を知らない人にとっては何のことかわからなくなってしまう。その辺の「さじ加減」が難しい。
だからこそ、そういう部分を上手にコントロールしている番組があると、見ていても飽きない。
かつて放送していた「ブロードキャスター」(1991〜2008・TBS)では、「その辺のさじ加減をうまくやろう!」という野心があった。「話題になっているトコロとは少し違うトコロ」に着目し、意外なトコロを深彫りしてあり、「これはうまいな」と思うようなことが結構あった。
しかし、時事ネタの場合は難しい。
ニュースの「なぞり」はもう見たよ・・・と言いたくなるものだし、「なぞり」が無ければ、元のニュースを知らない人は「もっと説明してよ」ということになる。番組の成功には、この加減が本当に重要だ。当時「セブンデイズ」というコーナーを立ち上げたディレクターがおり、この人はそうしたセンスに優れた名物ディレクターだった。
彼はニュースをよく見ている人だった。しかし、自分ではその通りには編集しなかった。ニュースを見ながら「こんな素材があるはずだ」ということを、きっと常に心に留めておいたのだろう。
手を抜いているわけではないのだろうが、そのディレクター氏は、なかなか会社では捕まえられなかった。彼を探して会社のいろいろなところに電話をしてもいない、ところは、まだ夕方6時にも関わらず、その時「局家で風呂に入っていた」などという冗談のようなことも何度かあった。
だが、彼には現場で何度も助けられた。彼は「こんな素材」や「あんな素材」が「どこ」にあるのるかを知っているのだ。「ワンソース・マルチユース(ひとつの素材の使いまわし)」がずいぶん叫ばれ始め、独自素材がどんどん少なくなっていった頃だ。どの番組も「同じようにならないようにする」ためには「最初の取材テープ」を探し、新しい視点で編集をしなおさなければならない。そんな時は、彼に聞けば有力な情報が得られたのだ。
しかし、よく考えれば、夕方には帰宅して風呂に入っているような人です。社内の素材を全部を見ることなどはとうてい出来ていないはず。それでも、彼が素材の情報をよく知っていた理由は、「いらない素材」を「見ないこと」にかけて長けていたからであろう。
見るのは「必要な素材」だけだ・・・これは簡単なようで、非常に難しいことだ。「使わない素材」を使わないことを説明するために見始めたら、結局、すべてを見なければならない。「いらない」ということを説明するのは、結構難しいことだ。
その後、このディレクターはいろいろな番組で数々の名作を残したが、結局、テレビの世界を去ってしまった。その時、何度か話をしたが、理由は「テレビがつまらなくなったから」ということだった。それを聞き、筆者は彼を引き止めることが出来なかった。
その反面で、彼にとって「いらないことを説明するために、見なければならない努力」が増えすぎたからではないのか?とも思った。意外なモノを深彫りするためには「必要のないモノを捨てていく作業」が必要だ。そこに徒労を感じていたのではないか。
彼は人と違うものを「深彫り」したかったのだ。別に「大ドキュメンタリー」にする必要はない。視点のはっきりした「捻り」がしたかったのだ。そういった部分には「新しい情報」が必要であり、それこそが情報の面白さであるからだ。その視点があれば、素材から新しいものが見つけ出せる。
「不必要なモノにかけなければならない努力」がいかに人を傷つけていくか。それがなくなれば、テレビにも面白いものがまた生まれるかもしれない。「テレビは捨てたものではない」という考えも、また生まれるように思う。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
「ちなみに」を多用する人は要注意…周囲から「いまその話いる?」と思われる人の典型パターン
プレジデントオンライン / 2024年11月27日 17時15分
-
視聴者に見放され「マスコミの代弁者」に…"斎藤元彦知事の復活"が示すモーニングショー・玉川徹氏の限界
プレジデントオンライン / 2024年11月25日 17時15分
-
石破首相が決戦の日に漏らしていた苦悩の胸中――大島新×日テレ政治部が“会話”で映し出すトップの政治家たち
マイナビニュース / 2024年11月17日 6時0分
-
「僕たちテレビは自ら死んでいくのか」相次ぐ大物テレビマンの独立だけではないテレビ局を巣食う「組織の論理」の息苦しさ
集英社オンライン / 2024年11月12日 11時0分
-
東京03「つまらない素材を編集で全く違うものに作り変えた」 オークラの実話エピソードに驚がく
ORICON NEWS / 2024年10月29日 19時27分
ランキング
-
1「私庶民よと悦に浸ってる」工藤静香スーパーのセルフレジ動画に批判と“撮影禁止”疑惑の指摘
週刊女性PRIME / 2024年11月26日 18時0分
-
2「ペトロールズ」の河村俊秀さん急死 45歳 自宅で倒れ…「深い悲しみの中におります」
スポニチアネックス / 2024年11月28日 1時35分
-
3「有働Times」好調で囁かれる「報ステ」禅譲説 日テレからの“一本釣り”はテレ朝・早河会長の肝いり
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月27日 9時26分
-
4《スケジュールは空けてある》目玉候補に次々と断られる紅白歌合戦、隠し玉に近藤真彦が急浮上 中森明菜と“禁断”の共演はあるのか
NEWSポストセブン / 2024年11月28日 7時15分
-
5「歴史から抹消するのね」NHKが紅白特番からSMAP排除、「忖度するな」ジャニファンから批判殺到
週刊女性PRIME / 2024年11月27日 18時0分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください