レコード大賞優秀作品賞に選ばれた唯一の演歌・氷川きよしの周到で見事な演出作戦に脱帽
メディアゴン / 2014年12月1日 1時54分
高橋秀樹[放送作家]
* * *
演歌界からただ一人、2014年度の日本レコード大賞の優秀作品賞に氷川きよしの「ちょいときまぐれ渡り鳥」が選ばれた。大賞の候補曲である。
優秀作品賞が発表されたの翌日、筆者は氷川きよし15周年コンサートを観覧するために神奈川県民ホールに向かった。1500人ほど入る会場は満席で、99%が中高年の女性である。
緞帳が上がるとセンターにギラギラ電飾の階段、それ以外は、あまり工夫のないセットである。しかし、この工夫のなさが氷川きよし売り出し作戦の15年変わらぬ「要」であるということが、ステージを見ているうちにわかってきた。
ステージは基本的に歌一本。ダンサーはちょっと太めで親しみやすい体型の女性が二人。専属司会として、やはり太めの西寄ひがし氏が氷川を引き立てる。この見え見えの戦略でステージに花を咲かせる。
踊りの振付はカッコ良くなる直前で「寸止め」。これは、あきらかにステージングを作った演出家の狙いである。
会場のファンに繰り返し、応援をしてもらっている礼を述べる氷川。会場は「きよし」の掛け声と、花やハートを形どったペンライトで答える。しかも、氷川もファンも実にマナーが良く、特に氷川はあらゆる面で「控えめ」である。
そう、このコンサートは「控えめ」をコンセプトに作ってあるのだ。その控えめな氷川とステージングをファンは愛しているのだ。
筆者もその世界に少しずつ引きこまれていく。
中程の短いトークコーナーで、筆者は思わず声を上げて笑ってしまった。新アルバム『演歌名曲コレクション20』の告知の場面であった。
氷川「これね、CDになってるんですよ。CDは置くタイプとか、突っ込むタイプとかありますよね。どっちでも使えるんですけど、どっちでもボタン1回押すと、ずっと最後まで聞けますから。それから、一枚買えばずっと長く使えます」
最高のトークである。
筆者は、ずっとこのステージがなにかに似ているな、と思っていたが、コンサートの最後の方になって思い出した。
50年前、9歳だった筆者は、生まれ育った山形県天童市の久野本熊野神社境内に設えられていた木組みの舞台をじっとあこがれの目で見ていた。そこで、誰とも名の知れぬ東京からやってきたらしき「歌手の人」がやっていたギター1本の歌謡ショーがやっていた。その歌手も今日の氷川と同じギャグを言っていたのだ。
「僕も、こういうショーで日本国中、まわりましたどね。一番好きなのが天童なんです」
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