<青春に謝るTBS「ごめんね青春!」>宮藤官九郎が問いかける「青春」という恥ずかしい言葉の復権

メディアゴン / 2014年11月24日 0時5分

水戸重之[弁護士/吉本興業(株)監査役/湘南ベルマーレ取締役]

* * *

世界には3種類の高校しかない。「男子校」「女子校」「共学」の3つである。

この明確すぎる3分類に比べたら、受験校か、スポーツ校か、お嬢さま学校か、悪ガキ校か・・・などは「しょせん」程度問題だ。男子校にとっては、女子校は金星か火星のようなものである(逆もまたしかり)。十代の高校生の中に、金星人や火星人が混じって同じ授業を受けることになったら?

TBSドラマ「ごめんね青春!」(日曜・21:00〜21 :54)はそんなドラマである。仏教系の男子校(通称・東高[とんこー])と、カトリック系の女子校(通称・三女[さんじょ])が、「三女」の経営難から、合併することになる。

本作は、そのドタバタを描いた青春学園コメディだ。脚本のクドカンこと宮藤官九郎の出身校は宮城県立築館(つきだて)高校。もちろん男子校である。いや、男子校だった。2005年に県立築館女子高校と併合されるまでは。卒業後に母校に起きた「事件」が、クドカンの創作意欲を刺激しないわけがない。

元祖・学園ドラマは、石原慎太郎原作・東宝制作・テアトル・プロ共同制作・日本テレビ放送の「青春とはなんだ」(1965年)である。

筆者はその当時、「青春とはなんだ」を子供ながら第1話から観ていた(根っからのテレビっ子だったのだ)。このドラマは、ラグビー部を舞台に、教師役でスポーツ系イケメン男優の夏木陽介が人気を得て大ヒットした。

以後、

・「これが青春だ」(主演・竜雷太/テーマ・サッカー/1966〜1967)
・「でっかい青春」(主演・竜雷太/テーマ・ラグビー/1967〜1968)
・「すすめ!青春」(主演・浜畑賢吉/テーマ・サッカー/1968)
・「飛び出せ!青春」(主演・村野武範/テーマ・サッカー/1972〜1973)
・「われら青春!」(主演・中村雅俊/テーマ・ラグビー/1974)

・・・と、サッカーとラグビーという2つの競技をほぼ交互にとりあげながら制作され、人気シリーズとなる。

この時代の学園ドラマの構造は、主役は男性教師であり、マドンナ役は女性教師、学校は当然共学。生徒が事件を起こして、これを教師が解決して、先生について行こう!レッツラゴン!と誓って、みんなで「夕陽に向かって」走っていくのである。

やがて時代の変化の中で、近年では高校生気質もすっかり変わった。かつての青春学園ドラマに見られるようなパターンは姿を消し、代わって「変化球教師」が登場する。

「GTO」(フジテレビ・2012)の元不良、「ごくせん」(日本テレビ・2002〜2009)の任侠一家の孫娘、「美咲ナンバーワン!!」(日本テレビ・2011)の六本木のキャバクラホステス、といった異例の教師たちは、生徒のいる場所まで降りてきて体を張る。それを生徒たちが仲間として受け入れることで物語が成立する。「ヤンクミ、やるじゃん」的な。さらに、アイドルも大人になり教師役のできる年齢になると、教師主役ドラマは復活する。日本テレビ「弱くても勝てます!」(二宮和也・2014)であり、TBS「ごめんね青春!」(錦戸亮・2014)である。

日テレ学園ドラマのタイトルにつけられていた「青春」という言葉の重要性に、クドカンはとっくに気づいていた。そこに母校の合併共学事件である。

ひそかに企画を温め続けていたに違いない。「あまちゃん」(NHK・2013)で橋幸夫、小泉今日子、薬師丸ひろ子、AKB48(ドラマではGMT47)、能年玲奈、橋本愛、有村架純と、オール・ジェネレーションのアイドルを描いてみせたクドカンが、学園ドラマの構想中、日テレ学園ドラマシリーズへの目配りを忘れるはずもない。

では「○○、青春!」の、○○に何を入れようか。実のところ、日テレ学園ドラマはすでに第1弾の「青春とはなんだ」との問いかけに、第2弾で「これが青春だ」とバーンと大判のハンコを押してしまっていた。

布施明も、♪そーおとも、こ・れ・が・青春だー♪と歌っていた。それ以降の「青春シリーズ」タイトルは、最初の2つには遠く及ばなかった。どうする、クドカン!?

で、「ごめんね青春!」である。正しい日本語としては、「青春なんで、ごめんね、許してね」なのだろうが、青春自体に謝っちゃう、という暴挙。満を持して切ってきたカードが「ごめんね青春!」。参りました。

学園ドラマの華は、マドンナ先生である。文学史上に「マドンナ」が登場するのは、言うまでもなく夏目漱石の「坊ちゃん」だ。

「マドンナ」という言葉がこの明治33年の小説に登場して以来、わが国ではあこがれの対象となる女性を指す言葉として100年以上も生き続けている。漱石先生ってやっぱりすごい。

転じて、映画やドラマの世界では、主役の男優の恋の相手方を指すようになり(この用法は「フーテンの寅さん」あたりからだろうか)、学園ドラマでは主役の男性教師の同僚の女性教師がその役どころということになる。ここでもクドカンはこのドラマで新しいマドンナ教師像を創出した。

満島ひかり演ずる「蜂矢りさ先生」である。美人ながら、女子校育ち、純潔至上主義、結婚至上主義で、男に隙を見せない。そんな彼女が錦戸亮演じる原平助先生と結婚しよう(恋をしよう、は彼女の場合、次の段階らしい)と一方的に決めてからのテンションがすごい。

しおらしく、色っぽくなるのではなく、その真逆。テンションMAX、元気一発!となっていくのである。より良い結婚のためには、「がっついて行こうぜ!」と女子高生に檄を飛ばす。

優等生の女子生徒が駅伝出場をめぐるゴタゴタで「そんなの、腑に落ちません!」と錦戸にくってかかると、窓際で見ていた満島が毅然として叫ぶ。

 「腑に落ちないくらい、ガマンしなさい!!」

一瞬の間(ま)のあと、ビシッと言う。

 「『青春』なんだからっ!」

これを受けて錦戸は、冷静に、「大人になって思い出すのは、腑に落ちないことばかりです。だって、腑に落ちたら忘れちゃうんだもの」うーむ。そうか。いいこと言うなぁ。

さらには、駅伝大会後の総括で教壇に立つ満島は、なぜか、チアリーダーの恰好に<絶対領域>ニーソックス、上にブレザーという奇妙なコスプレ。テンションアゲアゲ、の演出である。その恰好で、駅伝を失格になってがっかりする生徒たちに向けて黒板に書く。

 “Sometimes the best gain is to lose.”(「負けることが時として最高の収穫である」)

これを、満島は「先生なら、こう訳します」と自信たっぷりに前置きした上で、

 「勝つより負けるのが、青春!」

と叫び、満面の笑みで生徒を見渡す。

もはや明らかであろう。そう、このドラマでクドカンがもくろむのは、「青春」という、こっぱずかしい言葉の復権であり、かつてはこの言葉が放っていた輝きの復活なのである。つまりは、視聴者に、高校生に、国民に、こう言いたいのだ。

燃えるような朱夏を迎える前の、「これが青春だ!」

メディアゴン

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