32回目の優勝を果たした「一極集中の横綱」白鵬は、あと何回優勝できるのか?
メディアゴン / 2014年11月28日 2時16分
北出幸一[相撲記者・元NHK宇都宮放送局長]
* * *
横綱・白鵬が大鵬に並ぶ史上最多の32回の優勝を果たした表彰式での優勝力士インタビュー。
「15年前に62キロの小さい少年がここまで来るとは誰も想像していなかった。この国の魂と相撲の神様が認めてくれたからこの結果がある。この優勝に恥じないよう、今後も一生懸命がんばってゆきたい」
と白鵬は語った。
NHKの大相撲中継で放送され、白鵬は涙を流した。インタビューの言葉に胸を打たれた人も多いと思う。
この白鵬の言葉を聞いて、大相撲に入門するために来日して、大阪で細い体で稽古に励んでいながら、なかなかスカウトされなかったエピソードを思い出した。次々に親方に選ばれて入門のため去ってゆくモンゴルの仲間達。
「もうダメならモンゴルに帰るしかない」という最後のチャンスに白鵬を選んだのが、宮城野親方だった。32回目の栄光の賜盃を拝戴した白鵬の胸中には入門時の思いが、きっとよみがえってきたのだろう。
恒例の優勝翌朝の記者会見では、白鵬の明るいユーモアが連発だった。会見の冒頭の代表質問、
「32回の優勝を果たして、どんな気持ちですか」
という問いかけに、白鵬は、
「ねむたいです」
と一言。
最初から報道陣の爆笑を誘った。更に、
「1敗したが、気楽だった。久しぶりに追いかける立場。不思議と気持ちが良かった。今場所の土俵は良く滑った。あの滑りがあるから良かった」
と笑わせた。滑りを話題にしながらも白鵬の話は滑っていなかった。
大鵬さんの思い出を語る白鵬。
「亡くなる2日前に話をした。去年の初場所の取組が終わってから会いに行って約束をした。親方は黙って寝ていましたけど」
と言って、まわりがじっと話に聞き入っていると、すかさず「まだ泣いちゃダメよ」と笑わせた。かつて小さな大横綱と言われ、白鵬にその31回の優勝記録を抜かれた横綱千代の富士も支度部屋で、まさにスポーツ新聞の見出しになるようなユーモアたっぷりの話しぶりだったことを思い出した。
「網打ち」という珍しい技で勝った時は「出たね。漁師の息子だもの」と言って取り囲んだ記者達を笑わせたことを覚えている。白鵬にも余裕と風格が生まれてきたと感じた。
九州場所千秋楽の翌日、東京都内のホテルで横綱審議委員会が開催された。委員会終了後に記者会見した内山斉委員長は「白鵬は断トツで強さを見せた。32回の優勝は見事なもの。まだまだ記録を伸ばす」と絶賛。内山委員長は言葉を続けて「ほかの横綱、大関が束になってもかなわない一極集中の状況」と絶妙の言い回しで白鵬の強さをたとえた。
まさに一極集中、いまの相撲界の現状を良く表す言葉だ。実力が一極集中、人気が一極集中、他者の追随を許さない。横綱・千代の富士の九重親方が「最低あと5回優勝できる」と言えば、優勝24回の元横綱・北の湖の北の湖理事長は「あと3年やるだろう。優勝40回に届く計算」と更に太鼓判を押した。
昔からの相撲ファンならよく知っている言葉に、「栃若」「柏鵬」「北玉」などがある。それぞれの時代を築いた両横綱、つまり「栃若」なら、しぶとい取り口からまむしとあだ名が付いた栃錦と、鬼と言われた初代・若乃花、「柏鵬」なら、もちろん大鵬と柏戸、そして「北玉」なら、北の富士と急死した悲劇の名横綱・玉の海。
白鵬に並び立つ横綱は、現状では見当たらない。白鵬はひとりで大相撲の頂点を極めた男の重責を担ってきた。白鵬は、まさにひとりで「柏鵬」時代に勝るとも劣らない「白鵬」時代を築いた。
あるパーティーで白鵬は歌手の松山千春から「運」という漢字の意味が分かるか問われた。「運」という字には軍が入っている。つまり戦わないと「運」は来ないと教えられ、白鵬はそれ以来、「運」という漢字を好きになった。次の優勝、33回目からは大相撲の新しい歴史を切り拓くたったひとりの戦い。
新たな戦いに向けて白鵬は、
「これからは1敗や2敗する優勝が多くなるかもしれない。それを耐える心と体を作ってゆかなければならない」
と語り、決意を新たにした。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
「鬼になれ」亡き祖父先代の教え体現 琴桜初V「ここで終わりじゃない」来場所綱取り「先代に追いつく」
スポーツ報知 / 2024年11月25日 6時0分
-
《オレの人生まあまあだったなあ》と突然言われ…ベテラン相撲記者が明かす元横綱・北の富士さん秘話
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月22日 11時32分
-
旭川出身 大相撲 元横綱・北の富士勝昭さん死去 ふるさと北海道から悲しみの声
HTB北海道ニュース / 2024年11月21日 19時17分
-
北の富士さん死去 82歳 優勝10回の第52代横綱 引退後は2横綱育て解説でも人気に
スポニチアネックス / 2024年11月21日 5時16分
-
元横綱北の富士・竹沢勝昭さん死去、82歳 派手な私生活で「夜の帝王」 ライバル・玉の海が待つ天国へ
スポニチアネックス / 2024年11月20日 23時18分
ランキング
-
1「ペトロールズ」の河村俊秀さん急死 45歳 自宅で倒れ…「深い悲しみの中におります」
スポニチアネックス / 2024年11月28日 1時35分
-
2「歴史から抹消するのね」NHKが紅白特番からSMAP排除、「忖度するな」ジャニファンから批判殺到
週刊女性PRIME / 2024年11月27日 18時0分
-
3「有働Times」好調で囁かれる「報ステ」禅譲説 日テレからの“一本釣り”はテレ朝・早河会長の肝いり
日刊ゲンダイDIGITAL / 2024年11月27日 9時26分
-
4「楽天は終わった」と田中将大を擁護の球団OBに「プロなら減俸は当然」と冷静ツッコミ
週刊女性PRIME / 2024年11月27日 19時0分
-
5【独自入手】「非情すぎる」藤原紀香、篠田麻里子が所属の大手芸能プロが破産!タレントに届いた“絶縁状”
週刊女性PRIME / 2024年11月27日 18時5分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください