<出演者の序列を格付け?>「楽屋の部屋割り」はプロデューサーの頭痛の種
メディアゴン / 2014年12月6日 5時35分
貴島誠一郎[TBSテレビ制作局担当局長/ドラマプロデューサー]
* * *
12月3日に放送された「FNS歌謡祭」を皮切りに、「ミュージックステーション・ライブ」(テレビ朝日)、「日本レコード大賞」(TBS)、「紅白歌合戦」(NHK)と、年末の雰囲気が一気に高まる歌番組ショーのシリーズが開幕しました。特に、FNS歌謡祭はアーティスト同士のコラボ企画もあって、まさにバラエティあふれる歌番組で人気があります。
今年のFNS歌謡祭は、メイン会場の新高輪プリンスホテルだけでなく、フジテレビ特設ステージから「祝!デビュー35周年・近藤真彦SPメドレー」のために、一夜限りのジャニーズ17組によるライブという超目玉企画もあります。デビューの新しい順に次々と登場、黒田官兵衛のV6→KinKi Kids→TOKIO→SMAP→マッチというラインナップは、人気絶頂の嵐でもジャニーズ事務所の序列では、ようやく小結という番付なのでしょうか、日本的な年功序列の仕組みを感じます。
筆者はドラマ制作を専門としているので、音楽番組に関しては門外漢です。それでも、ひとつだけ気になるのは、出演アーティストの控え室の「部屋割り」です。AKBグループだけで100人を越し、EXILE系からバンド系グループ、大御所シンガーから裏方のオーケストラ、ダンサー、メイクやスタイリスト、現場マネージャーに至るまで数百人を越える人々が集結しています。さぞかし大変なことでしょう。
今回のFNS歌謡祭は前回までに比べればVTR収録も多く、ホテルと湾岸スタジオの2ステージに分かれているので、混雑しつつもなんとかなりそうな感じはします。しかし、大晦日の「NHK紅白歌合戦」となると話は違います。決して広いとはいえない渋谷のNHKホールに出演者が全員集合する生番組ですから、想像するだけでも、制作サイドとしては目眩(めまい)がします。特に今年はAKBグループが何組も出演するので、200人くらいが十把一絡げの控え室で、メイクや衣装のスタンバイをしている様子を想像すると、人いきれで窒息して気が遠くなりそうですね。
出演者の控え室は、まさに鉄火場です。もちろん、「控え室の部屋割りどうするか?」ということの重要性は音楽番組に限ったことではありません。
映画やドラマの場合は、スタジオに隣接する「俳優控え室」が限られているため、収録スケジュールに合わせた俳優さんの「部屋割り」も筆者のようなドラマのプロデューサーにとっては重要な業務になっています。俳優の「格」はもとより、主演か、年長か?支度時間がかかる女優を男優より優先するか?とか、台詞量の多少、重たいシーンのある俳優を例外的に扱う・・・など様々な要素を勘案して、撮影期間内の「部屋割り」を決めなければなりません。
それはそのドラマや映画の中での「出演者の序列」を、プロデューサー判断として「格付け」をしたと受けとめられますから、当然揉めたり不満が噴出することは珍しくありません。 メインの登場人物が大集合するような場面では、それがクライマックスシーンでもあるだけに、プロデューサーにとっては頭痛の種です。筆者はドラマの「部屋割り番長」と称されるくらい、スタジオの部屋割りに命を賭けていました。
あるドラマでのことです。俳優個室が2つしかなく悩みまくったことがあります。出演者の番手を示すクレジットには「主演」「相手役」、最後に表示される「止め」「止め前」「中止め」などの序列があります。それが「部屋割り」にも反映されなければなりません。
その時は、朝から夜まで出演シーンがある主演の相手役で、二番手の女優に個室の1つを割り振ったので、残った個室は1つ。「長いワンシーンだけの出演の主演・山崎努さん」と「主演のライバルで止め役の津川雅彦さん」、やはり「ワンシーンの大先輩・大滝秀治さん」。この3名の「部屋割り」に悩みまくり、思わず業界歴30年(当時)の先輩に電話をして相談をしました。
今は亡くなられたその先輩は、
「そのスケジュールの場合なら、津川さんをもうひとつの個室にし、大滝さんと山崎さんは劇団出身で親しいので、大部屋のパーテションに2人で大丈夫だよ」
とアドバイスしてくれました。勿論、深夜に大滝さんと山崎さんのマネージャーに事前連絡し、当日は緑山スタジオの玄関で大滝さんと山崎さんの入り時間前に仁王立ちをして、説明と謝罪をしました。大滝さんと山崎さんは久しぶりの再会に、空き時間も楽しそうに語り合っていて、プロデューサーとして事なきを得ました。
現場には、時に経験豊富なベテランの存在が必要だと痛切に思います。その先輩はプロデューサーとして番組を制作することなく、プロフェッショナルなスケジューラーとして人生を貫きました。先輩は気を使い過ぎたのでしょうか、病に倒れましたが、もし健在であれば70代後半だったはずです。
FNS歌謡祭を見て、スケジューラーとしてプロの仕事を貫いた先輩の姿を思い出してしまいました。
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