<テレビドラマADの仕事[2/2]>過酷なAD時代の先にある「乗り越えた者しかわからない感動」

メディアゴン / 2014年12月11日 1時58分

貴島誠一郎[TBSテレビ制作局担当局長/ドラマプロデューサー]

* * *

(その①を読む)

連続ドラマでは約4ヶ月の撮影期間があります。「衣装合わせ」で挨拶したといえ、仕事の出来ない下っ端ADの名前まで、スターさんが覚えてくれる訳がありません。但し、下っ端にはスターさんと直に接する重要な業務があります。それが撮影現場での「呼び込み」です。

スタジオ撮影の場合、カメラリハーサルや本番前に俳優を「呼び込み」ます。カメラテストやセットの装飾直しが終了すると、チーフ助監督がそのシーンの出演者を「呼んで~!」と声掛けして合図します。

俳優さんたちは本番に向けて、スタジオに隣接する控え室で談笑したり、衣装部屋で着替えたり、メイク室で髪をブローしたり、自分の個室で最後の台詞合わせをしていたり、様々な行動を取っています。

初めて現場についた4thADは「間もなく本番でーす!」のコールも大声が出せず、

 「作業してると、声が小さくて聞こえないんだよね!」

と衣裳さんに怒鳴られ、

 「まだ女優さんのメイク直しが終わってないの、見れば分かるでしょ!」

とメイクさんに嫌な顔をされ、

 「たった今タバコに火をつけたばかりなんだがなぁ…」

とスタジオ前のソファで談笑していたベテラン俳優に不満顔で言われる。いちばん若手の俳優は緊張でトイレに行って行方不明だったり、気の早い主演俳優は既にスタジオ内で動きを確認したりしていて、チーフ助監督からは、

 「主演の○○さんがスタジオに入ってるのに、お前なにやってんだぁ~!」

と怒声が飛ぶ。まさに四面楚歌とはこのことです。

チーフ助監督の怒声はモニターを通してスタジオや控え室の隅々まで響き渡り、全て見ていた現場マネージャーさんから、

 「あなたのせいじゃないから…」

と優しい言葉をかけられ涙ぐみそうになると、のんびり屋の特定の俳優さんや現場を引き締める意味合いの見せしめとして、セカンド助監督から、

 「呼び込みの段取り、どうなってんだよ!」

と薄いカット割台本で頭をパーンといい音で叩かれたりします。

ロケ現場では、カットに映りこまないように、通過車両の車止めをしたり急ぐ通行人を人止めして、気の短い運転手やおばさんに、

 「ふざけんじゃない!こっちは仕事なんだよ!責任者を出せ!テレビなんか見ないんだよ!」

と罵倒されるに至っては、何のために大学まで出たんだろう…と落ち込んでしまいます。それでも、少しはいいこともあります。そんな光景を1ヶ月も見続けていた「遠い存在だったスターさん」から、

 「○○くん、トイレはどこだっけ?」

などと聞かれるようになるのです。

 「えっ!こんな有名なスター女優さんが、仕事もできない下っ端ADの自分の名前を覚えてくれてんだぁ…」

・・・と感涙しそうになった瞬間、ベテランメイクさんが、

 「時間ないんだから、早く案内しなさいよ!」

という声で我に返り、

 「すいません!確認してませんでした」

と平謝り。女優さんはニコニコしてますが、メイクさんからは、

 「ホントこの子、使えないんだから」

とダメ押しの嫌味を言われてもスルーするほど、自分の名前を呼ばれた夢見心地が勝ります。

筆者の「夢見心地」初体験は、ドラマ「ママハハ・ブギ」の主演で、当時人気絶頂の浅野温子さんでした。「貴島さん」と初めて名前で呼ばれたロケ場所は、京王井の頭線・駒場東大前駅で、東大教養学部正門から出てくる織田裕二さんのカット撮影の待ち時間で、温子さんは緑のフェンスに背を寄せて立っていました。

今から25年も前のことですが、未だに場所まで鮮明に記憶しています。しかし本当に出来の悪いADで、反省しきりです。

今年3月放送の「LEADERS」でも、座長として積極的にスタッフの名前を覚えてくれる佐藤浩市さんから「○○!」と名前を呼び捨てにされ、感動に震えていた新人AD2人がデビューしました。一生の思い出でしょう。2人とも今も元気に頑張っています。

先輩から怒鳴られ、睡眠不足で朦朧となり、仕事の将来と現場の人間関係に悩み、家に帰れず彼女に振られる。女子ADは膀胱炎にもなり、3K(きつい・Kitsui/汚い・Kitanai/危険・Kiken)超えのドラマADは最もキツい仕事としか語られませんが、スタジオの固い鉄の扉の向こう側には、乗り越えた者しかわからない、夢と喜びもあるのです。

クランクアップ(撮影終了)した時に、「よく頑張ったな!ありがとう!」と俳優さんに握手されると、撮影期間の苦しさが走馬灯のようによぎり、休まずに現場に立ち続けた達成感で思わず泣けてしまいます。仕事で泣ける、珍しい仕事だと思ってます。

ADの厳しい修行時代が若くて有能な才能を潰しているのではないか、という意見もあります。しかし、誰しも運に恵まれたりするビギナーズラックはありますが、プロとして長きに渡って「ものづくり」していくには、精神力という基礎体力が勝負になります。

アスリートにも共通することで、体力や才能に恵まれた選手も、精神的な強さがないと結果を出せません。結果を出せたとしても、一瞬の輝きにしか過ぎません。

才覚のある料理人は、修行時代を早めに抜け出し独立します。AD時代が何年も続く訳ではありません。厳しい修行時代に精神力という基礎体力を養うことで、「無事、これ名馬」になれるのではないかと思います。

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