<「均質」が大好きな日本人への挑戦?>東京大学先端研と日本財団が始めた「異才発掘プロジェクト」
メディアゴン / 2015年1月8日 2時47分
高橋秀樹[放送作家]
* * *
「人に迷惑をかけないようにしなさい」という忠告は、実に奇妙な意見である。
なぜなら、ヒトは誕生以来「他人に迷惑をかけないでは生きていけない種だから」である。しかし、日本で、この意見は「忠告界の公理」のような扱いを受けていて、誰も否定することなどないだろう。なぜか、日本では「均質な社会」が、最も尊ばれているからである。均質や平均がよくて人より突出することを嫌う。
それを判定するのは「世間様」と呼ばれている日本教の最高神である。
「異才発掘プロジェクト(Room Of Children with Kokorozashi and Extraordinary Talents)ROCKET」という計画が東京大学先端科学技術研究センターと日本財団(旧・笹川財団)の主催で始まったことをNHKニュースが報じていた。
同プロジェクトのHPによれば、
突出した能力はあるが,現状の教育環境に馴染めず,不登校傾向にある小・中学校生を選抜し,継続的な学習保障及び生活のサポートを提供することで,将来の日本をリードする人材を養成すること。(HPからの引用)
・・・が目的であるそうだ。旧・笹川財団には、筆者も高級ベンツ1台分くらいのお金を、競艇を通じて預託してあるので、関心を払わざるを得ない。
開校式には全国およそ600人の応募の中から、作文と面接で選ばれた15人が出席した。15人を対象に『つき抜けた興味に応える特別授業を実施』して、一人ひとりの興味・関心に応じた指導を当面5年間、継続して行う計画である。
「不登校など学校になじめずにいる子どもの中には、自分の関心のある分野では特にすぐれた能力を発揮する子もいるといわれています」という紹介がNHKではなされていたが、発達障害の研究者である著者はすぐにサヴァン症候群という言葉を思い出す。
定義は、ごく特定の分野に限って、優れて突出した能力を発揮する者の症状のことである。自閉症を描いた映画『レインマン』のダスティン・ホフマンを思い描いてもらえれば良い。
ニュースで紹介された少年の一人は驚異的なスピードで細密画を描く。一日に100枚以上書くこともあるという。
また、瞬間像記憶の能力にも優れており、瞬間見ただけの画像を、再現する。但し、ひらがなを書くのは極端に苦手である。書字障害と判断されるレベルである。
もう一人の少年は見たものから、あっという間に物語を紡ぎだす能力がある。公園で拾ったドングリを見た少年は30分で『踏みつけられたドングリ』の話を書き上げた。筆者が注目したのはその物語よりもキーボードのブラインドタッチの早さであった。
ニュースでは「発達障害」という言葉を一言も使っていなかったが、それは同プロジェクトを主催する中邑賢龍・東大教授の意向ではないかと思う。異才は発達障害者にばかり起こりえるものではないし、しかも発達障害者に皆、サヴァン的能力があるわけでは無く、むしろ困難のほうが多い人が大多数である。
サヴァン=発達障害という間違った認識は、発達障害者にとってむしろハザードになることが多いのである。筆者は中邑教授と面識があるが、工学系の研究者でありながら、その点をよくわかっている人物なのである。
「異才発掘プロジェクト」はある種のエリート教育である。誤解を恐れずに言えば、冒頭に掲げた世間様のルールに従うと日本人にはなじまない。だが、ブレークスルーとしては必要なことである。
このプロジェクトに、韓国、中国、東南アジアをはじめ、外国人も招くようなことが早く始まればいいと思う。その一方で筆者はもうひとつのことも思う。バランスをとるNHKは大越キャスターが「この子が好きなことをやれているだけでいいんです」という主旨の参加者の母親の声を再び紹介して「日本の均質」に配慮するのである。
同じ日、TBSのNEWS23が、もう一人の異才少年を紹介していた。小2で高2レベルの数学検定2級に合格した少年である。難しい漢語を多用する独特のしゃべり方をする少年であった。この少年が解いた問題。
「1から6の整数を組み合わせて、6桁の整数を作るとき、その整数が3の倍数になる確率を求めなさい」
確率は1である。
「天才少年ですねえ」といった雰囲気でスタジオをまとめるのならばニュースとして全く深みがない。少年に毫も責任がないことをお断りして述べるが、そういうことはバラエティの「びっくり天才ちびっ子登場」の類でやればよいだけである。
(蛇足)芸能界の異才といえばなんといってもジミー大西である。絵の才能があることは有名だが、嗅覚も犬の能力に匹敵するほどすごい。警察犬と同じことをやってのける。その一方で、雨の日、車を運転していると、ワイパーの動きにつられて催眠状態になってしまう。自分も同乗者もそのことを知ってから雨の日は運転させない。
エリツィン政権下、ロシアの科学アカデミーの紹介で記憶術の学校を取材に行ったことがある。日本から、「ウォーリーを探せ」を持って行って、筆者は任意に開いた頁を少女に記憶してもらった。制限時間30分。その頁を絵に書いてもらったが。再現出来ているではないか。驚くべき記憶能力だった。
これら、異才は、芸術や、学問や、仕事の域に達してこそである。ジミー大西は芸人として、画家として、それを成し遂げている稀有な例である。
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