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<会社は空っぽの段ボールのつまれた部屋だった>今の時代の息苦しさを描く劇団『イキウメ』の新作に注目

メディアゴン / 2014年12月15日 0時13分

齋藤祐子[文化施設勤務]

* * *

劇団『イキウメ』は、劇作家・演出家の前川知大が主催する劇団である。久々の新作「新しい祝日」(2014年11月28日〜12月14日@池袋シアターイースト)は、人間が生れ落ちてから放り込まれる「社会」と、そこで自然に生まれてくる息苦しい集団のルールのあり方を鋭く描写している。

ある日、オフィスで一人残業をしているサラリーマンのもとに、ピエロの服を着た妙な男が現れる。わけがわからないままサラリーマンは男に命じられるまま服を脱ぎ、別の世界に連れていかれる。

そこではサラリーマンは「汎一=パンイチ」と名をづけられ、もう一度人生を生まれた時からやりなおすことになる。幼少期、両親の愛情に育まれ、王様のような全能感と安心感をもてた居心地のいい「家庭」から、同世代の子供たちの中で、ルールやふるまい方を自分で察して生き延びていく小学生の集団生活へ。

さらには中学校での無意味なルールの横行する部活動、そこからはじき出されて自殺する少年と、象徴的なシーンをコミカルに組み合わせて芝居は巧妙に進んでいく。やがて舞台は会社という名の別の集団にスライドし、その中で主人公が感じるひそかな違和感、それを押し殺して適応し出世していく様が描かれる。

そして最後に、ピエロの男の執拗な問いかけに「汎一」(ごく一般的な庶民=一般ピープルの意味か)は唐突に自分の周りを再度見回しはじめる。

その場その場で変わるルールを学んで生き延び、出世して家族を守るために必死に働き続け、やがて自分がルールを作り、自分の居場所と信じてきた場所。その会社という場が、ただ空っぽの段ボールのつまれた部屋に過ぎない、と平凡(というよりはそこそこ優秀)なサラリーマンが気づく瞬間を作者の前川は鮮やかに描きだす。

20代の働き始めの若者なら、深く共感するだろう。30代の働き盛りなら、はっとして自分の押し殺してきた感情に気づくかもしれない。

すでに会社で先の見えた40代後半なら、名前と肩書を捨てた場所にいくこと=リストラと感じてブルーになるかもしれないし、そろそろ親の介護や死に直面する50代以上なら、会社を離れたその先=定年後や、少しずつなにかを無くしてゆきやがてすべてがなくなる死後について思いをはせるかもしれない。

この舞台もまた、今の時代の息苦しさを描くのだろうが、見る人の年齢によって、感じ方の変わる芝居だったと、はたして作者は意識していたのだろうか。それを聞いてみたくなった。

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