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<狂気の天才・テリー伊藤>時代の壁を破るときクリエーターは常識では語れない行動を取る

メディアゴン / 2014年12月18日 1時31分

吉川圭三[ドワンゴ 会長室・エグゼクティブ・プロデューサー]

* * *

前回の記事(キューブリック監督が起用した「性格の悪い」映画美術家ケン・アダム)で「才能と性格の問題」について書いた。映画制作の現場において、「嫌な人」「厳し過ぎる人」「やたらオッカナイ人」が凄く仕事が出来るという例として、イギリスの映画美術家ケン・アダムについて述べが、今回は、日本のテレビでの話。

伊藤輝夫(現・テリー伊藤)が日本テレビの「天才たけしの元気が出るテレビ」を制作していた頃、私はごく近くでその制作の様子を見ていた事がある。伊藤さんは才能は抜群だったがクレイジーだった。

・「会議中にガラスのごっつい灰皿を演出意図が分からないスタッフに投げた。」
・「編集所の、言うことを聞かないオペレーターをボコボコにした。」
・「タレントを死の淵まで追い込むような危険なロケをした。」

・・・などなど。

これは全て伝説ではない。全て実話である。さらにここには書けないトンデモナイ話もある。ただ当時の伊藤さんは才能の塊で、ただのキチ○イ・狂気の男ではなかった。時々常軌を逸した行動をするが、それは番組を面白くするためにはみ出した情熱だったと思う。

絶頂期の彼の番組は世界のテレビ史にも存在しないくらいの途轍もなく面白かった。「元気が出るテレビ」はその後の「進め電波少年」「鉄腕ダッシュ」「世界の果てまでイッテQ」につながる原点となるDNAを生んだ日本テレビに取って最重要な番組だ。

そんな狂人の様な伊藤さんだったが、たまにIVSテレビ制作に遊びに行くと「吉川ちゃん、飲みにゆこうか?」などと誘ってくれたこともある。夜7時ころ伊藤さんはオフィスで大声で叫ぶ、「これから飲みにゆきます。今取りかかっている作業を至急中止し西麻布のBに集合してください。」と言ってスタッフと飲みに行くという一面も持っていた。

飲み屋で伊藤さんは一滴も飲まないが、弾けるスタッフを眺めながら「吉川ちゃん何か映像化したいことない?」とか聞いてくる。憧れの伊藤さんの前でちょっとアイデア2、3言うと「面白いね~」とこれ以上ない笑みを浮かべる。

驚くべきことにそのアイデアはその日からわずか3週間後の「元気~」で放送され、私は度肝を抜かれた。飲んだ翌日にディレクターと打ち合わせしていたのだ。私のアイデアの出来はともかく当時の伊藤さんはかくも貪欲であった。

確かに今でも伊藤さんの事を苦手というか、名前を口にも出したくないというテレビ人・タレントもいると思うが「俺がやってる番組が面白くなかったら視聴者に申し訳ないだろう。」という感覚が伊藤さんの根底にあった様な気がしてならない。

ある種、時代の壁を破るときクリエーターは常識では語れない行動を取る事がある。それを狂気と取るか才能のほとばしりと取るかは本当に難しい。

最近ちょっとばかり大人しいテレビマンを見ながらそんな「暴れ者待望論」を語るのは危険な発想であろうか?古来エンターテイメントは狂気の歴史だと思うし、私は「めちゃイケ」程度の幼稚なクレイジーさでは満足できないのだ。

日本テレビ・バラエティ・ビッグバンの原点「元気の出るテレビ」の歴史を描いた本が出版されないのがひたすら寂しいし不思議である。ついでに言うと英国の「嫌な人」ケン・アダムの本も日本には存在しないし、アダムの話も滅多に語られる事もない。種田陽平さんに研究してもらおうか?

そして今やみんな「いい人」になってしまったのか。ディレクターは小さなクレイジーさを現実化しただけで自尊心を満足させているのではないだろうか?すべて「コンプライアンス遵守問題」で片づける訳知り顔の人のことも信じられないし。「今まで観たことが無いもの」を映像化するのはそんななまやさしい問題ではないのだと思うのだが。

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