<今のテレビ番組は何がウリ?>本来ノンフィクション番組にとってリポーターはツール
メディアゴン / 2014年12月19日 4時2分
高橋正嘉[TBS「時事放談」プロデューサー]
* * *
ドキュメンタリーの手法に「追いカメ」というものがある。かつてドキュメンタリーのプロデューサーからこの手法を「守れ」とずいぶん言われた。
「被写体を後ろから追いかけて撮れ」というものだ。しかし、被写体は主にレポーターであることが多い。今なら名のあるタレントを後ろから撮ったら「そこに顔はないよと」嫌味でもいわれそうだ。
だが、考えてみればこの「追いカメ」という手法には今日のテレビ番組を考える上での、様々な問題が含まれている。「追いカメ」を推奨したプロデューサーがもうひとつ言っていたことがある。
「新発見を探せ」
「被写体を後ろから追いかけて撮れ」と「新発見を探せ」。この二つがセットになっているのだ。面白いものはリポーターではない。リポーターはツールなのだ。その先にある新発見こそ面白いものの本命だ。だから「追いカメ」になる。
例えば、誰も行ったこのない場所に行く場合、本来はそれがウリになる。つまり、行ったことがない場所なら、カメラが先に行って待ち受けてはならないということだ。
今のテレビ番組は、何がウリなのかがあいまいになっているようだ。多くの芸人たちが、リポーターの仕事に入ってきたことが影響しているかもしれない。バラエティーに情報ネタが入ってきた余波ともいえる。レポーターが主人公であるわけではなく、追跡するネタが主人公という考え方はもはやなくなってきたのだろう。結果、あまり「追いカメ」というものはなくなってきた。
確かに「顔が写ってないようだ」といらいらすることもある。誰がしゃべっているの? ということになる。
しかし、それは逆に考えれば「それだけ面白いネタがない」という風にも考えられる。ネタだけでもつものを探すことを諦めているともいえる。だが、芸人の喋りがノンフィクションのネタより面白ければこんなことを取り上げる必要もないだろう。
また、こうも言える。バラエティーにノンフィクションのネタがどんどん入ってくるようになって、逆にノンフィクションの面白さが失われていっているのかもしれない。これなら問題は深刻だ。
次から次に疑問が生まれ深彫りしていくノンフィクションの面白さは、芸人のスケジュールの中では実現するのは難しい。ますます芸人の顔の広さと話の面白さに依存する行き当たりばったりの番組が闊歩することになる。別に深刻なテーマをやってほしいといっているのではない。そんなテーマではなくても感心するほど面白いテーマはある。
「酒場放浪記」(BS-TBS毎週月曜日21:00から放送)の企画者から聞いたことがある。企画者は女性だったが、居酒屋に入る時に感じる、
「どんな店か、どんな人がいるか不安がある、だから暖簾をくぐるときにどきどきする」
そんな気持ちを表現したかった。今もその企画意図は生きていて、店に入るために暖簾をくぐるときは「追いカメ」になっている。
室内と屋外では明るさが違う。撮影のためのフィルターを変更しなければならない。それを承知でも、ここだけにはこだわったというのだ。
もちろん、「追いカメ」にはさまざまな弱点がある。第一しゃべる人の顔が見えない。だが、その弱点を越えた利点もある。向こう側に面白い人がいるということは面白いことなのだ。面白い人がいるということは面白いネタが転がっているということだ。今、もう一度「追いカメ」を考えても良いのではないかと思う。
「追いカメ」の精神があれば、いやでもネタを探すようになる。それでうなるようなネタの番組を見てみたい。今、これが必要だ。
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