<テレビドラマとはフィクションである>大河ドラマ「軍師官兵衛」の史観もエンタテインメントとしてのひとつの見方
メディアゴン / 2014年12月28日 2時43分
貴島誠一郎[TBSテレビ制作局担当局長/ドラマプロデューサー]
* * *
NHK大河ドラマ「軍師官兵衛」が終了しました。回が進むごとに黒田官兵衛役・岡田准一さんの眼光鋭い演技が際立ち、最終回収録時で「33才」とは思えない迫力ある老練な軍師を演じきりました。日曜夜8時に1年間流れ続けた壮大なオーケストラのテーマ音楽も、新年には新しいテーマに切り替わります。
ところで、司馬遼太郎さんの名作歴史小説「関ヶ原」では、石田三成が主人公に描かれています。「関ヶ原」ファンである筆者は、戰に勝利した徳川史観によって賊軍・反逆者扱いをされることの多い三成の「NHK官兵衛」での扱いや描き方には若干の不満が残りました。
これまでの戦国大河ドラマでも、あまり主要人物としては描かれることのなかった黒田官兵衛が主人公ですから、これは当然の描き方ではありますが、領地の民からも慕われていたという三成の勝手なファン心理としては、少し残念でした。
また、三成の西軍から徳川家康の東軍に寝返った小早川秀秋は当時18才。「司馬史観」の影響からか、常に優柔不断な小心者として描かれます。「関ヶ原」では、西軍の烽(のろし)を合図に陣取る松尾山から攻め下るという、合戦前夜の三成との取り決めを反古にし、勝ち戦を見定める様子見をしていたところ、戦略に長けた徳川家康が秀秋の本陣に撃ち込んだ砲弾に怯えて寝返ったという、主人公・三成からの見立てで「官兵衛」にもそのような描写がありました。しかし、実際には砲弾が届く距離ではない、とも言われています。
小早川秀秋は、北政所の進言で跡取りのいなかった豊臣秀吉の養子になりましたが、側室だった淀殿が秀頼を産み秀吉が寵愛したため、官兵衛の進言で西軍の総大将・毛利輝元の重臣・小早川隆景の養子になったことを感謝しており、「官兵衛」では東軍の黒田長政の諜略に乗ったという見立てで、軍師の才覚は息子に受け継がれた、という描き方でした。
戦国時代はおよそ500年前のこと。確たる歴史的資料がなく、フィクションの宝庫とも言えます。誰を主人公にするかで、人物の描き方正反対です。秀秋が西軍の三成が頂く秀頼と淀殿に敵意を抱いていた、という解釈もできます。幼少時代は利発だったので養子に選ばれた、とも言われる小早川秀秋の数奇な人生から見ると、秀吉や家康、北政所や淀殿、三成や官兵衛はどのような人物に写っていたのでしょうか?
2008年の大河ドラマ「篤姫」では、歴史的資料に乏しい篤姫を主人公として、ホームドラマの要素を強め、薩摩藩の家老・小松帯刀との交流を描きました。鹿児島出身の筆者にとっては、西郷隆盛がもの足りない扱いだったため、「篤姫」の脚本家・田渕久美子さんに、筆者がチーフプロデューサーを務めたドラマ「同窓生」(2014・TBS)でご一緒した際、エンターテイメントとして理解しつつ、冗談として郷土の英傑の描写に不満を申し上げました。
しかし、これも司馬遼太郎「翔ぶが如く」の影響なのかもしれません。西田敏行さんが西郷隆盛役で、1990年の大河ドラマで放送されました。
いわゆる歴史小説は、様々な仮説やフィクションも盛り込まれています。その原作をベースに数ある歴史資料を勘案し、オリジナルも含め脚色していく「大河ドラマ」は、主人公の対立側のファンや地元の人からすると、納得のいかない描写になるのは、ドキュメンタリーではないドラマなので致し方のないことです。
「軍師官兵衛」は岡田准一さんの渾身の演技が強く印象に残りましたが、官兵衛の活動エリアが広範囲だったため、姫路周辺から福岡、大分など地元の方々も郷土の英雄の活躍に大いに盛り上り、日本各地の地域活性化に貢献した大河ドラマとなりました。同時に、歴史小説の第一人者・司馬遼太郎さんの偉大さと、「司馬史観」の影響力の大きさを感じました。
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