<「街頭インタビュー」は最低の演出>「街」とはどこ?「街の人」とは誰?根拠なき世論
メディアゴン / 2015年1月15日 1時46分
高橋秀樹[放送作家]
* * *
「やはり、扱いに偏りが出た」という論旨のもとに2014年12月27日の朝日新聞朝刊が、選挙報道の分析を報じている。記事自体は法政大学教授の水島宏明氏の分析を報じるだけのもので、朝日新聞が実施したものでないところは少々情けない。
自民党が先の総選挙前にテレビ各局に選挙報道の公平中立を求める文書を出していることは周知の事実だ。要望は街頭インタビューや、「資料映像」で一方的な意見に偏ることがないように、というものであったが、これは放送法が謳う公平原則を根拠に出されたたものであろう。しかし、政権与党からの文書となれば圧力となりえるはずで、報道の独立を脅かすことにもつながる。
水島氏は自民党の要望書提出後、テレビ局側にこうした偏りが生じていないか、NHKと民放の東京キー局5局の報道・情報番組709時間をチェックして、街頭インタビュー数が減ってしまったのかを調査した。前回の衆院選に比べて、減ったのは日本テレビで、他の局は減っていなかった。
ここでいう「資料映像」の意味を解説しておく。
例えば先日、麻生財務大臣は「子供を産まないのが問題」と発言して物議をかもしたが、これをきっかけに麻生氏の過去の失言集を見せたりするVTRのことを「資料映像」と言っている。麻生氏は総理大臣をやっていたから映像はふんだんにあるし、笑いも取れるしゃべり上手なのでテレビ屋としては使いたくなる。
これに関して水島氏は、
「『資料映像』は使われず、結果的に自民党の文書に沿った形になっている」
とする。街頭インタビューに関しても、
「国民の声や生活実感を反映する街頭インタビューが不十分になったとすれば影響は深刻だ」
と述べている。
今回はこの街頭インタビューというものに関して、別の観点から意見を述べておきたい。街頭インタビュー、通称「街録」はラジオ時代から使われてきた手垢のついた手法である。
ラジオ・ルポルタージュなどという番組は、ほとんど街録のみで構成されていた。フィルムで収録するしかなかった時代のテレビでは、フィルムが高価なので面白いことを言うかどうかわからない、いわゆる素人の街の人に、むやみにインタビューして、フィルムを無駄遣いすることは出来ない。それでも寺山修司さんが質問内容を考えて構成した街録だけで作った名番組が今も残っている。
小型のVTRカメラが開発されて、この街録は、お手軽な手法として多用されるようになった。ワイドショーなどでは顕著で、芸能人が離婚したりすると「どっちに非があると思いますか」などというくだらない質問を上のものから渡されて、鉄砲玉の一番格下の取材ディレクターが「街」と呼ばれる場所に繰り出す。
情報番組の構成を始めた頃、筆者は「この街録ってのを禁止する番組にしませんか」と提案して、大反対にあって、撤回したことがある。筆者がなぜ街録を禁止したかったのか? といえば、
「街の人というのは一体誰なんだ?」
という疑問が一番最初にあったからだ。
週刊誌に書いてあることをなぞって発言する、この「街の人とは誰」なんだ。「街とはどこ」なんだ。気まぐれに街に出かけて、たまたまそこにいたからインタビューを受けるというのは宝くじに当たるくらい稀有なことだろう。そういう人は本当に街の人で、街の人を代表していい人なのか。それにもまして、ディレクターが自分の都合の良いように、インタビューを捻じ曲げないか? という自民党のような心配があったのである。
大体が、この鉄砲玉のディレクターは上の人からは、
「おもしろい街録が取れるまで帰ってくるな」
・・・などと脅されて仕事をしているのである。街の人が演出なしで面白いことを言う訳はないだろう、と筆者は考えている。情報や報道番組からは演出を廃したい、と理想に燃えていた頃の筆者は考えていた。出来ないプロデューサーほど簡単に「街録に行ってこいよ」と口走るのも気になっていた。
街録は「尺のばし」の埋草でしかない、とも感じていた。ワイドショーなどでは、その日に関心があると思われるネタを捕まえたら、他のネタはやらず、そのネタだけに集中してできるだけ時間を伸ばす。なんでもいいから長くやることが視聴率を取る秘訣だと言われ、この理論には、結果もきちんとついてきていた。筆者はそれを乗り越えたかったのである。
「街の人」なんていう「わけのわからない人」の意見なんか聞きたくもない。しかし、この手法は報道番組や、バラエティ番組まで巻き込んで燎原の炎のように広がっていった。そして、やがて飽きられた。
今は少し考えが違う。街の人の意見には面白いものもある。だが、それを収録するには時間が必要だ。砂漠で金を探すくらいの時間が必要だ。2時間で撮って来いなんていう指示では、叶えるのはムリだ。
だから、今のテレビの街録はただの垂れ流しである。
今回、選挙報道の分析にあたった水島氏はとは面識がないが、筆者がかつて構成をしていた番組に出演していただいた事があるのでよくお顔は存じ上げている。元日本テレビの局員でドキュメンタリストであったが、上層部と原発報道に関して齟齬があり、そのこともあって法政大学に転じたと漏れ聞く。(これの裏は取っていない。あくまでも漏れ聞いたことだ)
水島氏は自民党の要請文書提出前と、提出後の街頭インタビューの回数比較を行って分析をしているが、これに対して、早稲田大学教授の谷藤悦史氏が、自民党の要望には無理があるとした上で、至極まっとうな批判をしている。
谷藤氏は次の様に言う。
「水島教授の分析は、衆院選をめぐるテレビ報道のある種の傾向を明らかにしたと言えるが、自民党の要望書による影響という因果関係が科学的に示されたとまでは言えない」
まどろっこしい言い方だが、この調査では万人が、少なくとも世でいう「科学的」と言われる大学教授レベルの知識人が、納得する科学にはなっていないと、言っているのである。
選挙で勝ちたい政治家はテレビに出たし、いいタイミングで政治家を出せば、テレビは視聴率を取る。政治家とテレビはそういう深い絆で結ばれているわけだが、今のところテレビが弱腰過ぎると筆者は思う。
今回の選挙前、まだ安倍晋三氏が第96代内閣総理大臣だった頃に、TBS「ニュース23」に出て、駄々をこねたことがある。何の質問だったか失念したが、◯と☓で、態度表明をする演出を遮って、「短く話すから◯☓で答えるのはやめたい」と主張したのである。
結局、番組側はその要望をのんだが、そういうことでは駄目だ。毅然と、
「政治家は、質問に曖昧に答えてはぐらかそうとするから、◯☓で答える演出にしたのです。演出意図はテレビが決めます」
と、言わなければいけない。それにどう答えるかは、また視聴者たる国民の判断基準になるはずだ。
結局、総選挙の方は、消費税を上げるのを見送ったのは是か非かという、自分が損か得かばかり考えている国民には自明の争点や、アベノミクスは是か非かというなんとも茫洋な争点になって、自民党が大勝したのは御存知の通りだ。
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