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<「初詣は伊勢神宮」と思っている人へ>Wikipediaやガイドブックでは絶対に知ることのできないこと

メディアゴン / 2014年12月31日 2時0分

水留章[テレビ番組制作会社 社長]

* * *

西行(平安時代末期から鎌倉時代初期の僧侶・歌人)は伊勢神宮に行き、次のような歌を詠んでいます。

 「何ごとの おわしますかは知らねども かたじけなさに涙こぼるる」(意味:どなたさまがいらっしゃるのかよくはわかりませんが、おそれ多くてありがたくて、ただただ涙があふれ出て止まりません)

この歌は、写され、刷られ、口伝えで、全国に広まりました。この時、西行はまさに取材者であり、メディアであったと言えます。西行ほどではありませんが、ひょんなことから経験した筆者の伊勢神宮の参拝について書いてみたいと思います。

 「日光を見ずして結構というなかれ」

という格言があります。「ナポリを見ずして…」なんて言うのもありますね。何事も現地へ行かなければ。本当の肌感覚はわからないということです。

2014年の春に初めて伊勢神宮を訪れました。伊勢神宮といえば全国神社3000余りの頂点にある神社様。ということで何か恐れ多いというか、権威主義を感じていました。名古屋出張の合間の半日の時間を使った強行軍でしたが、

 「お伊勢様を見ずして、お伊勢様を語るな」

となりました。

早朝一番の近鉄の特急に乗るために、栄のホテルからタクシーに乗りました。急に思い立った事なので、「伊勢神宮」ついて知識があまりありません。内宮(ないくう)と外宮(げくう)があり二つが少々離れているのは知っていましたが、物の本によると外宮から順に参拝すべきとありました。

昼御飯には市内にまた戻らなければなりませんので、二つはとても無理です。そこで、運転手さんに尋ねました。

 筆者「外宮からじゃなければいけないんですか? 内宮だけじゃご利益ないんですか? バチでも当たるのですか?」
 運転手「かまわないですよ。順番を言う人もいるようですが、気持ちの問題ですから。こっちの人は気にしていませんよ。『ないくさま』だけでよろしいんじゃないでか、半日では『げくうさま』まではむりだから。」

なるほど、呼び方からでも「お伊勢様」がこちらでは偉そうにしているのではなく、とても身近な存在でリスペクトされているなんだなぁとわかりました。

「ないくさま」のある宇治山田駅に着きましたが、「お伊勢様」までは少し距離があります。時間がないのでまたタクシーに乗りました。2000円でお釣りがくるくらいの距離でしたが、その時間はまさに「お伊勢様概論」でした。

運転手さんはこの道何十年のプロ、地元の方でした。とにかくお伊勢様について簡にして要、且つ、伊勢神宮に対する愛情と誇りが十二分に感じられる説明を聴くことができました。

内宮、外宮、別宮から摂社、末社、所管社まで合わせて125の神社から成る伊勢神宮の構成。天照大神が疫病の原因が自分の天皇との同居にあるとみて、大和から自分の引っ越しを画策、あちこち探してついに伊勢の国の五十鈴川のほとりの此の地に落ち着いたという縁起。  昨年行われた20年に一度の遷宮まで、でとてもわかり易く教えてくれました。

昨年だけで550億円もかかったと言われる遷宮の費用は、戦前は国家神道だったわけですから国が負担していたそうです。  現在は皆さんの奉賛でまかなわれているそうで、運転手さんの町内会でも次の遷宮に向けてもう毎年寄付が集められているそうです。

「20年後のための寄付」なんて、まさに地域密着を絵に描いたような話です。国のものではなくて自分たちの「宮」なんですね  それから「御正宮」と呼ばれる本殿では「自分が幸せになりたい」とか「身の周りの小さいこと」をお願いしないほうが良い、とも教えてくれました。

 「本殿は『国が良くなるように』と天皇陛下がお参りするくらいの所なので、トリビアルなことは荒祭宮(あらまつりのみや)でしなさい」

とWikipediaやガイドブックでは知ることのできない話も教えてくれました。

「ないくさま」の中に入ると、空気が違うように感じました。  陳腐ですがピーーンと張り詰めた空気というのはこういうことを言うのだなぁ、と思わず痛感。

参拝を終えて、帰りもタクシーで駅へむかいました。今度の運転手さんも地元愛がとっても感じられる人で、伊勢神宮にお詣りして気持ちがスッキリしたと話すと、

 「それは良かった。お伊勢さまは特別な力持っていて、先日も足の悪いお婆ちゃんをかかえる家族が京都から何度も何度も、  お婆ちゃんの足の平癒祈願しておまいりした。すると、不思議なことに・・・」

筆者は咄嗟に言っていまいました。

 「そう言うこともあり得るのかなぁ?」

運転手さんは、そんな自分のフワフワした気持ちを、一刀両断に切り捨ててくれました。

 「神様は人間が作ったもんですから・・・。」

お伊勢さま参りより、地元の運転手さんの言葉に気持ちが晴れました。

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