<2015メディアゴンはこう考える②2015年のメディア予想図>信頼性を担保する「作り手の顔が見える」コンテンツが重要
メディアゴン / 2015年1月1日 0時3分
貴島誠一郎[TBSテレビ制作局担当局長/ドラマプロデューサー]
* * *
新年明けましておめでとうございます。
電通発表の2013年度総広告費は約6兆円弱。イベントや屋外交通広告・折込・DMなどのセールスプロモーション(SP)広告費が2.1兆円。残りが媒体広告費になりますが、うち地上波テレビ1.8兆円、インターネット9380億円、新聞6170億円、雑誌2500億円、ラジオ1240億円、衛星メディア1110億円です。2014年度は更なるシェア変動が予想されます。
また、業種別広告費は、化粧品トイレタリ―2800億円、食品2720億円、情報通信2430億円、飲料2070億円、交通レジャー2100億円、流通小売業1930億円、金融保険1680億円、自動車関連1670億円などで、好調な業種がうかがえます。ナショナル・クライアントと呼ばれるトヨタ自動車、花王、パナソニックをはじめ、情報通信のDoCoMoやSoftBankなどは500億円以上の広告費を投下しています。
広告費ベースで地上波テレビとインターネットを比較すれば、国内中心の地上波テレビよりも海外展開にも有利なインターネットが、広告媒体として逆転する日が近いかもしれません。
しかし、テレビ局も「24時間限界産業論」を跳ね返し、経産省のクールジャパン政策と連携して海外展開に注力しています。高齢化や収入格差で国内市場が飽和状態にあるので、広告代理店もメディア企業も国際化にどう取り組むかが至上命題です。ビジネス面で国内メディア企業にもグローバル化の波が押し寄せています。
昨年、オールドメディアと呼ばれるが、実はそうではない老舗出版社・角川書店と、ニコニコ動画のみならずニコニコ超会議でリアルSPにも注力するネット企業の旗手・ドワンゴが合併し話題をさらいました。このシナジー効果は国内以上に海外市場にある気がします。勿論この2社は文庫や雑誌販売、課金などの実売もあり、広告費ベースだけで語ることのできないコンテンツメーカーです。
角川とドワンゴによる新会社が、海外に強いアニメコンテンツ・スタジオの「ジブリ」をホールディングス傘下に収めれば、日本初のグローバル・コンテンツ・メディア企業の誕生となります。
「オワコン」オールドメディアと「革命」インターネットメディアは、コンテンツメーカーの側面と広告媒体の側面で分離して論じたほうが良いかもしれません。インターネットは画期的なコミュニケーションと流通の変革を成し遂げました。
引き続き、広告媒体として国際化グローバル化し、細る一方の国内広告費6兆円弱のシェア争奪戦から脱し8兆円まで積み増しすれば、広告ビジネスの産業イノベーションです。そのためにはオリジナル・コンテンツの開発と、質量ともに作り手の確保と育成が必須です。オールドメディアは、この点にコストがかかりました。
経営学者ピーター・ドラッカー(1909〜2005)は、企業の存在意義は雇用も含めた社会貢献であり、それを実現するために適切な利益を得るべきで、その達成のために「ビジョン(経営方針)」が必要であると説きました。
その考えに沿えば、オピニオンリーダーだった新聞も、広告ビジネスの王様だったテレビも、日本社会に貢献できれば、ビジネスモデルが崩壊しても生き残ることができます。テレビ界では広告指標である視聴率マーケティングに毒され、番組の多様性や独自性が失われつつあります。
夕方帯ニュースの企画コーナーは、B級グルメなど既視感のあるものばかりです。視聴者の嗜好は年齢層に関係なく多様になっています。広告主は広告とは違う発想を媒体に求めています。データに表れない「潜在的ニーズ」を視聴者は待っています。「潜在的ニーズ」はデータから推察した仮説を実行しないと検証できない、やっかいなものです。
一方、インターネットはコミュニケーションと流通の革命を成し遂げましたが、広告費というビジネスモデルの呪縛から逃れられていない一部のネットメディアは、視聴率と同じPV(ページ・ビュー)至上主義で、著作権侵害や作り話に近いセンセーショナリズムが批判を浴びています。
「東スポ」のようなタブロイド特有の楽しみ方を否定するものではありませんが、写真週刊誌が全盛を誇った時代は今は遠く、部数売上競争が勝ち過ぎた結果、一線を踏み越えたものは淘汰される歴史の繰り返しです。
メディアという社会的影響があるまでに成長すると、社会的な責務が発生します。ネットメディアも例外とは思えません。人気のある個人のブログも、パーソナルなうちは問題になりませんが、「ステマ商法」のようなビジネスが混入した途端に淘汰されたブログもありました。
これからのテレビやネットのコンテンツには、信頼性の担保となる作り手の「顔が見える」ことが重要になります。マーケティングは本来、ユーザーの「顔が見える」手段です。
野菜や果実や米作りの生産者の「顔が見える」農産品は、コストが多少高くても日本でも海外でも支持されています。昨年放送された山田太一さん脚本「時は立ちどまらない」(テレビ朝日)は、震災後を描いた「顔が見える」ドラマでした。山田太一さんの勇気ある覚悟が伝わりました。また、最近の堀江正文さんのネット上の発言には、腹の据わった覚悟を感じさせます。
「顔」とは個人を指すだけでなく、企業体としてのシステムや方向性(ドラッカー曰くの「ビジョン」)です。農産品もたったひとりで作ってる訳ではなく、リーダーを頂点とした農産品システムです。作り手や企業体としての「顔が見える」ものづくりや編集方針が、今後ますます求められる2015年になりそうです。
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