<社会に傷つくということ>バーで尾崎豊ばかり歌う元マネージャーの「弾き語り青年」がいた
メディアゴン / 2015年1月9日 1時0分
高橋正嘉[TBS「時事放談」プロデューサー]
* * *
以前、テレビ番組のネタを探すということは、ある意味「人を探すことだ」ということを書いた。筆者もテレビマンとして、何回かそんな体験をした。
尾崎豊(1965〜1992)が奇妙な死を遂げた何ヶ月か後のことだ。その時にも、“奇妙な”出会いがあった。
あるバーでのことだ。筆者が何人かの知人たちと酒を飲んでいると、ギターの弾き語りで尾崎豊の歌ばかり歌う人がいた。歌い方もちょっと異常な感じがした。好奇心をもったので店を出る時にちょっと話しかけてみると「尾崎豊の元マネージャーだ」という。いかにも無骨な感じの人だった。簡単な話しをして連絡先を聞いた。
そこから、「これが縁で何か番組が出来るか?」を考え始めた。筆者は当時から、尾崎豊は不思議な人だと思っていた。異常な死に方もそうだが、葬儀に4万人も集まる求心力は何なのだろう? という関心もあった。
ちょっと調べてみると、尾崎豊が覚せい剤で逮捕された時の写真があった。出所してきた時の尾崎豊は、普段のみなれた姿よりも、ふっくらしていた。CDのジャケットにあるようなほっそりした顔とは違う。普通は拘置所などに長く入っていると痩せるように思うが、彼の場合は、それが逆だった。もしかしたら「ふっくらとしている方が地なのではないか?」とさえ思えた。ということは、音楽家になる時は、常に自分を追い込んでいるのだろうと、そんな気がした。
筆者が企画書を書き、それが番組になるには少し時間がかかった。
「異常な死に方」という視点はもう終わっていた。素朴に「どんな人なのだろう?」という疑問だけで一つの番組にするのはやはり難しかった。かといって、音楽シーンを出すだけで関心を持たれるという時代でもなかった。ましてや、放送に使えるビデオクリップもあまりなかった。
バーで出会った引き語り、すなわち「元マネージャー」の方から紹介してもらい、尾崎豊の近くにいた人と会い、さまざまな話しを聞いた。尾崎豊とは、コンサートが近づくまでは本当に純真な気配りのある青年であったようだ。
だが、コンサートが近づくと変わる。番組は最後のコンサートツアーを後追いすることで進めていった。特にゲネプロと呼ばれる通し稽古に向かっていくときには狂気に近い尾崎豊がそこにあったようだ。名古屋、そして九州とコンサート後を追いエピソードを繋ぎ番組を構成した。番組の最後は数少なく使えることが出来た「I LOVE YOU」の映像を使った。
放送が終わり、酒を飲んだ。このコンサートツアーで元マネージャーと一緒に付き人として尾崎豊と行動していた若者がファンと一緒に来ていた。カラオケボックスに行っても尾崎豊の曲は「I LOVE YOU」と「卒業」くらいしか入っていない頃だ。それでも彼らは尾崎豊の曲を歌い続けた。結局アカペラになっても、歌い続ける。そして熱く語り続けていた。
翌日も彼らはやってきた。そして真剣に語り続けた。
「故郷に戻って農業をしようと思う。ずいぶん悩んでみたが、それが出来るような気がする」
そんな意味のようなことを言っていた。確か出身は長野県だったような気がする。
どこか社会に傷ついているような人だった。やさしい、とてもおとなしい若者だった。彼はいつまでも話したがっていた。尾崎豊と体験したことを。筆者もその話を聞いていたかったが、仕事に戻らなければならない。そこで分かれた。その後彼とは会っていない。
もしかしたら尾崎豊の魅力を語れるのは彼だったかもしれない。狂気に追い込んでいく尾崎豊を一番理解していたかもしれない。ビジネスとは遠い世界だったような気がする。社会にうまく入りきれなかったような人だった。
今、彼はどうしているのだろうか。たくましい壮年になっている姿を今は想像してみるが実際はどうなのだろう。まだナイーブさは変わらず、社会に傷ついているかもしれない。気になる人である。
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