<明石家さんまは「動物ドキュメンタリー」の鬼である>「巨大イカ」は明石家さんまの鑑賞に堪え得るコンテンツか?(その①)
メディアゴン / 2015年1月11日 0時56分
吉川圭三[ドワンゴ 会長室・エグゼクティブ・プロデューサー]
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明石家さんまさんの秘密について書くのは、さんまさんの神秘性をさらけ出す様な気がして少々ためらわれるが、今回はさんまさんのイメージを固定する話でもなく、傷つけるものでもないと判断して、ちょっと書いてみることにする。
あの方は個人的に映画・ドキュメンタリーが大好きである。映画は玉石混合、「恋の渦」からジブリまで基本、何でも見るが、とりわけアメリカ映画・スポーツ映画好きである。特にクオリティに定評があるアメリカ野球映画は古いものから新しいものまで一冊の本が書けるくらい観ている。
近年ではF1レーサー、ジェームス・ハントとニキ・ラウダの友情と死闘を描いた「ラッシュ(2013)」に感嘆し、その勢いでニキ・ラウダのドキュメンタリーまでも全て観尽くしてしまった。また、当然さんまさんは笑いの人であるのでコメディにはかなりのこだわりと志向性がある。
ウディ・アレンものやスティーブ・マーチン出演の「バックマン家の人々(1988)」が大好きだ。軽妙洒脱な会話の中に人間の滑稽な本質が表現されているものが好きな様だ。「ラッシュ」と「バックマン家の人々」そして宇宙船奇跡の生還映画「アポロ13」が同じロン・ハワードという一人の監督の手によるものであることをそっとお教えしたときは、「なんでや?」としばらく考え込んでいたが。研究好きなのだ。
一方、ドキュメンタリーはどうか? 実はBBCやディスカバリーチャンネルの制作した本格的動物ドキュメンタリーの鬼のようなマニア、おたくなのである。BS・CS放送はもちろんDVDも大量に購入して、現存するものは、凡作・名作を含めてすべてくまなく見ている。したがって世界の動物や秘境やハンターに関する知識・うんちくは驚くべきものがある。
マサイ族のハンターがどうやって獲物をしとめるか? 詳細に、微に入り細に入り話せる。なぜそうなったのかは解らないが、ずいぶん前に筆者が世界の動物ドキュメンタリーを集めさんまさんとスペシャルを2本製作した時に、動物映像に異常に興奮していたことを思い出す。あれがきっかけとは言い切れないが、何かの刺激を与えてしまったのかもしれない。
ところで解剖学者の養老孟司さんが、著作『唯脳論』の中で、
「古代、人間は洞窟の中で生きていたが、現在は自分の脳と自らの脳が作り出した世界の中に生きている。」
と書いていた。自然の猛威・危険な野生動物のコントロールに少しずつ成功し、完全な人工世界の中でほとんど生きている。高層ビル、高速道路、ゴルフコース、コンビニ、コンサート、ディズニーランド・・・。これはすべて人間の脳が生み出したものだ。特に都市生活者は完全な人工世界に生きる。
すると何が起こるのか?
逆に自然を求めて、秘境や自然現象や野生動物の生態を克明に捉えた映像を見たくなる。こうした映像はさんまさんのみならず現代人の脳に何かかつて洞窟で暮らしていた時の原始的なインパクトを与えるのかもしれない。一方これは筆者の推論だが、さんまさんの愛好するサッカー等の一部のスポーツも生物としての人間の超人的な能力を捉えるという意味では現代人に人間の原始的な能力を喚起させる力があるのかもしれない。だからあれだけの人が熱狂できるとも言えるではないだろうか。
筆者は「世界まる見え!テレビ特捜部(日本テレビ)」を制作していたので、大量の動物ドキュメンタリーを買い付け、専門家にも会った。英国・米国には驚くべき動物撮影のプロがおり、世界中に売れるので予算も時間もかける。
1時間番組の為に5年かける事もある。有名なのは、ケンブリッジで動物学を学んだ元BBCの英国のディビッド・アッテンボロー卿で、まさに開拓者。色々な画期的撮影方法も生みだしている。しかも楽しませる事に執着した本物のテレビマンだった。ただし、彼のドキュメンタリーだけは世界唯ひとつ、一秒もカットできない。動物撮影で英国女王から勲章を貰ったのは世界中で彼だけだ。
ところでちょっと前、NHKが「巨大イカ」を捉えたと言って大騒ぎになり、ネットでも騒ぎになった。本場英国に売り込もうとしている様だが、ディビッド・アッテンボロー卿作品のような「一流動物モノ」を見なれた英国の視聴者の観賞に果たして耐えるのだろうか?
筆者には、「巨大イカブーム」がかつてのウーパールーパーやエリマキトカゲと同じ一過性のブームに過ぎないとしか思われないのだが。しかも、世界には巨大生物映像がイカを含めて山ほどある。
まあ、NHKがたまに素晴らしい動物ドキュメンタリーを撮るのは素晴らしいし、続けてもらいたいと思うのだが。
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