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<IT技術の進歩で人間はどう変わる?>ドワンゴ会長・川上量生から来た「ネット・バカ」のメール

メディアゴン / 2015年1月17日 1時30分

吉川圭三[ドワンゴ 会長室・エグゼクティブ・プロデューサー]

* * *

先日、フェイスブックにちょっとこんなことを書いた時に、少々反響があった。そして珍しくドワンゴ会長の川上量生さんからメッセージが来た。まずは筆者が最初にフェイスブックに書いた全文章を以下に記す。

 『ちょっとだけ難しいことを書きます。人類は自分の能力を強化・拡張するために科学・技術を発展させてきました。「足」を強化するために、自転車・バイク・自動車・列車を。
 目を強化するために、眼鏡から電子顕微鏡やハッブル望遠鏡を、手の機能を強化するために工業用ロボットを、声などのコミュニケーション能力を強化するために電話や無線を。そして脳の機能を強化・拡張するために作られたのが究極の機械。コンピューターです。
 初期の単なる「計算機」的機能から、記憶機能、コミュニケーション機能、思考能力まで持っています。(念のため言っておきますが、スマホは最少のコンピューターです。)人間は脳の機能をコンピューターに代行させつつあります。
 江戸時代、遠隔地に「手紙・書」を送るために「飛脚」という専門の職業的ランナーが足で運んでいました。当時は「飛脚」という職業・労働が存在していました。現代の人間はこの作業を数秒のメールで済ましてしまいます。
 同じように図書館というのも消滅するのでしょうか。このように人間のかなりの仕事・労働がテクノロジーの革新によって消滅しようとしています。労働量は減って、近未来ではもっと時間を持て余す人間が多数出て来るでしょう。
 コンピューターにかなりの部分を委ねている「脳」には一体何が起こるのでしょうか?間違いなく何かの変化が起こるはずです。
 かつて「生存」のために、食物を得るため、危機を回避するために、建造物を建てるため、闘いに勝つために発展してきた脳はそれらの能力を消滅させて、人間的駆け引きやネット等からの情報を分析する能力を高めるかも知れません。
 この人間の脳の機能をコンピューターに代行させ続けたときに、一体何が起こるのか?最近、児童公園で遊ぶ子供が減っている様な気がします。身体性を失うことで、彼らはある種の能力を失っているのか?事態はある程度予測可能だと思うのですが、だれか解りやすく本にでもまとめてくれませんかね。(笑)』

・・・・以上の文章をフェイスブックに乗せたところ、川上さんからメッセージが来て「こんな本があります。」とある本を推薦してくれた。

「ネット・バカ インターネットが人間の脳に与える影響」(ニコラス・G・カー著/青土社)という本だ。ニコラス・G・カーはあの名著「クラウド化する世界」(翔泳社)の著者である。

本の主旨は、次のようなものだ。

 「『グーグル化』で人はバカになる。グーグルで知らないことを検索し、ツィッターで日常をつぶやき、iPadで本を買って読む。様々なインターネットメディアを当たり前のように使う日常のなかで、実は私たちの脳は少しずつ変化しているのだ。」

著者は膨大な科学的データや専門家の意見を基に執筆に臨んだという。

・脳は知的テクノロジー(そろばん、地図、コンピューター等)によって長期的に強力な影響を受けて絶えず変化する。
・道具は目的を達成する手段だけでなく、人の脳に影響を与える。事実、盲目になった人が点字を読めるようになると、脳内に変化が起きる。
・コンピューターに過度に頼るようになると思考力が低下する。実際の本を読む時と、本を模したテクストを読む時と脳の働き方が違う。ネットによるテキストでは、内容を深読みできない。
・ネットで集中力が散漫になる。
・思考が中断される。断片化される。記憶力も弱まる。緊張して落ち着かない。
・ネットで外部記憶に頼ると弊害が発生する。人間の記憶のメカニズムは複雑である。機械と異なり人間の長期記憶は容量が無限大である。長期記憶を貯蔵した方が、精神が研ぎ澄まされる。記憶をウェブに頼るとそうしたプロセスがないから、思考力が低下してゆく。

・・・以上がこの本の私が読んだうえのサマリー(要点)である。

ネットベンチャーであるドワンゴの会長である川上さんはとても不思議な人である。ジブリに見習い社員として週4日東小金井に通ったり、角川書店と合併してみたり、将棋コンテンツをニコ動の中で強力に推進してみたり。東銀座の歌舞伎座の近くのビルに本社を移転してみたり・・・。

会って話を聞いてみると、理科系なので話は整然として理屈は通っているのだが、文化系的な一面も持ち、とても直観的で、予測不可能な一手を打つこともある。頑固者でもある。

そして、IT関係者なのに大の読書家である。それもベストセラーを読むというのではなく、面白い珍しい本を見つけてくる名人である。斎藤環氏の「ヤンキーと精神分析」について書いた本。与那覇潤氏の「中国化する日本」などどこから見つけてくるのか、ジブリの鈴木敏夫さん等に推薦している。

その川上さんが推薦してくれたのが「ネット・バカ」である。ネット会社の会長がいくらフェイスブック上とは言え推薦するには、少々過激過ぎないか? 一瞬そう思ったが、そういえば、昭和30年代バイク事故が多発して社会問題化したときには本田技研の本田宗一郎・当時社長がいち早く「交通安全普及運動」を根強く長期に渡って実行し、自らの退職金までこの運動につぎ込んでいたのは有名である。

ネットで商売するからにはその危険性・本質についても知っておく。これは川上さんにとってはごく当たり前の行動だったのかも知れない。

でも、テレビもその勃興期。ジャーナリストの大宅壮一が「一億白痴化」と言われたのを思い出す。この予言は当たったのか?外れたのか?でも強烈なフレーズであった。

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