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コンプライアンス全盛の今だからこそ惹かれるNHKドラマ「ダークスーツ」

メディアゴン / 2015年1月21日 2時5分

水戸重之[弁護士/吉本興業(株)監査役/湘南ベルマーレ取締役]

* * *

昨年2014年11月、12月に放送されたNHK土曜ドラマ「ダークスーツ」(全6回)は、企業再建と不正追跡をテーマに、その背後に流れる人間模様を描いた良質のドラマである。かけひきあり、謎解きあり、で大変面白い企業ドラマだったが、NHKのドラマ作りの実力からすれば、これくらいはできて当然、といったところか(褒め言葉です)。

かつての高度成長の象徴であった総合電機メーカー「ハシバエレクトロニクス」は、業績不振に苦しんでいた。米国企業から送り込まれた新社長・松木(石丸幹二)は、一之瀬(斎藤工)、番場(満島真之介)、小宮(大鶴義丹)ら、はみだし社員を集めて改革プロジェクトを命ずる。自分たちが進むべき道を探す中、一之瀬は、次第に、会社の歴史の暗部や社長の真の狙いに気がついていく。

役員8人のうち再建案可決に必要な5人をどう味方につけるか、という松木社長と一之瀬らの説得工作もドラマの見どころである。竜雷太、榎木孝明、柴俊夫、大和田伸也といった往年のスター俳優や、大杉漣、石丸謙二郎といった実力派俳優たちが役員席に座る。

役員会で見せた一人ひとりの表情は、役としての企業人人生と、役者人生が重なり、それが顔のしわをきざんでいるようであった。

彼らと対峙する松木社長役は、TBS「半沢直樹」や同「ルーズヴェルト・ゲーム」で単なる二枚目ではない演技を見せて一躍注目された石丸幹二。東京芸大の声楽科卒業、劇団四季出身という、ドラマ畑の役者たちからみれば変わり種。役柄上の、外部から乗り込んできて旧体制を打破しようとする立場と重なる。柴俊夫や榎木孝明の石丸幹二に対するにらみを利かせた表情も、こう重ねて観ると楽しい。

ドラマのクライマックスでは、会長(竜雷太)が過去の不正な裏金作りをテレビで告白して、松木社長と一之瀬らの勝利となる。二人の協力者でもあったニュースキャスターの吉田幸四郎(戸次重幸)は、このスクープで、自分の冠番組を手にする。

メデタシメデタシ、ではあるのだが、裏金がかつての公害被害者への賠償にあてられていたことを告白する竜雷太の記者会見を見ていて、別の展開はなかったかな、と、ふと思ってしまった。ある古い映画のことを思い出したからだ。

ジョン・フォード監督、ジェームズ・スチュワート、ジョン・ウェイン出演の映画「リバティ・バランスを撃った男」(1962年公開)である。

映画は、副大統領候補の上院議員ランス(ジェームズ・スチュアート)が美しい妻を伴って、古い友人の葬儀に出るために西部の田舎町にやってくるところから始まる。亡くなった男のことは町の者も知らない。いぶかる新聞記者に向かって、ランスは昔ばなしをぽつりぽつりと始める。

開拓時代の名残りを残し、まだ無法者が暴れまわるシンボーンという西部の田舎町に法と秩序を持ち込もうと若き弁護士ランスがやってくる。ランスは、不器用な古いタイプのガンマンのトム(ジョン・ウェイン)や、彼の婚約者でじゃじゃ馬娘ハリー(ヴェラ・マイルズ)に助けられ、暴力に頼らない社会を目指すも、陥れられて悪漢リバティ・バランス(リー・マーヴィン)と決闘するはめになる。

死を覚悟してキッチンエプロンをしたまま決闘の場に臨むランス。結果は、奇跡的にランスがリバティを撃ち倒してしまう。

嫌悪していた銃による解決に自己嫌悪してひとり東部に帰ろうとするランスに、トムは真実を伝える。あの日、決闘を陰から見守っていたトムは、ランスが拳銃を抜くと同時に、リバティを撃ったのだった。

町の英雄となったランスの尽力でシンボーン一帯のエリアは州に昇格し、ランスは中央政治への道を駆け昇ることになる。一方、ハリーの心がランスにあることを知ったトムは自ら身を引き、時代遅れの男として西部の町で生涯を終えたのである。アメリカの時代の変わり目を象徴するように。

長い思い出話を語り終えたランスは静かに記者に尋ねる。

 「記事にするのかね?」

記者は答えながら、メモを破り捨てる。

 「記事にはしませんよ。ここは西部です。伝説と事実があるなら、伝説が事実となるのです。」

ささやかな葬儀が終わり、東部に戻る鉄道の中で、ランスは、もう引退してシンボーンに戻って小さな法律事務所を開こうと思う、と妻に言う。安堵したような妻の表情。もちろんかつてのじゃじゃ馬娘のハリーだ。

列車でのもてなしにお礼を言う副大統領候補に、車掌が、当然です、と言って答える。

 「あなたはリバティ・バランスを撃った男なのですから。」

さて、現代に戻ろう。

コンプライアンス全盛の世の中だ。「ダークスーツ」のニュースキャスター吉田幸四郎には大スクープを握りつぶす選択肢など、個人的にも社会的にもないだろう。時代も状況も西部開拓時代とは違う。けれど、記事にはしなかった新聞記者の言葉に惹かれるのは何故だろう。

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