<現役弁護士として想う>「テレビに出ている弁護士」はテレビに踊らされているだけで正視に堪えない
メディアゴン / 2015年2月6日 0時51分
高橋維新[弁護士]
* * *
昨今、テレビに弁護士をよく見かける。「行列のできる法律相談所(日本テレビ)」は言うまでもなく、あらゆるジャンルのテレビ番組に、弁護士が登場している。筆者も弁護士なので、今回は、「弁護士がテレビに出る」ことがどういうことなのかについて書いてみたい。
まず、「報道」で出る場合がある。これは、当事者として出る場合と、当事者の代理人として出る場合がある。後者はまさに弁護士の仕事であり、世間の耳目を集めた事件で弁護人や代理人についた弁護士が記者会見をするような場面を想像してもらえればよい。前者は、不名誉ながら、弁護士なのに依頼者のお金に手を付けて捕まってしまったとか、そういうような場合である。
報道で出る場合には、もう一つ毛色の違う出方がある。ある事件や法律問題について専門家としての見解を求められる場合である。逮捕された政治家が今後どうなるかとか、振り込め詐欺の被害者対策は今どうなっているかとか、そういうことについてテレビが取材を申し込んでくる場合がある。
報道番組のコメンテーターやパネリストも、仕事の中身はこれと同じで、色々な問題について法律の専門家としての意見を述べることである。違いは、一回的な取材で終わるのか、番組に常駐しているのかというところに過ぎない。
他方、「バラエティ」に出る弁護士もいる。これは、法律バラエティに出る場合と、そうでないバラエティに出る場合とがある。法律バラエティでの仕事は、法律の専門家としての意見を述べることなので、報道番組に出る場合と仕事の中身は同じである。
それ以外のバラエティ(よくあるのはクイズ番組)に出る場合は、法律の専門家である必要性は希薄であるため、「平均的な人よりは知識のあるタレント」という程度の扱いになる。そのため、弁護士である必然性はない。
報道やバラエティで法律の専門家としての意見を述べる場合、弁護士に与えられる時間は限られている。極めて限られている。そのため、「尺を食うけどおもしろいこと」は言うことができない。専門家であるため、良識ある弁護士であれば正確さに気を配ることになるが、短い尺で正確性に注意するとほとんど当たり前のようなことしか言えない。
「この人が今後起訴される可能性はゼロではないですし、100%起訴されるわけでもありません」
そんなこと、素人が考えてもそうである。
短い尺でインパクトのある言説を残そうとすると、結局極端に走るしかない。トレードオフの関係にある正確さを犠牲にして、言説を極端にするのである。
「この人は絶対起訴されます」
「夫が親権をとるのは諦めた方がいいです」
「日本の裁判官ってのはね、バカばっかりなんですよ」
正確さを重視する報道番組なら、おもしろくなくても正確なことを言ってくれる弁護士の方が有り難いだろうが、バラエティとなれば話は別である。バラエティは、おもしろさが重視されるので、やはり不正確でもインパクトのある極端な言説を臆面なく声高に主張できる弁護士の方が重宝されるのである。
結局、弁護士は、テレビにおいては「作り手に利用されている」だけなのである。報道番組は短い尺で正確なことを小奇麗にまとめてしゃべる弁護士を求めている。バラエティ番組は極端なことを声高に主張する弁護士を求めている。いずれの番組であっても、実際に使われるのはこれら作り手の思惑にあった弁護士である。
結果、報道番組でおもしろくくても長いこと喋ることで弁護士は使われないし、バラエティ番組では専門家の良識をもって正確さに気を配る弁護士は使われない。つまり、これも極端な言い方になるが、弁護士はいくら表面上専門家として敬譲されていても、実際のところはテレビに利用されているだけなのである。
だから、弁護士である筆者にとって「テレビに出ている弁護士」は、テレビに踊らされているだけの正視に堪えない存在である。彼らもテレビを利用して名前を売りたいだけなのであれば利用しつつされつつの関係なのでそれはいいのかもしれないが、どうにも可哀想に思えてならない。
とはいえ、こうやってテレビに出ている弁護士を蔑んでいるのは、彼らに対する嫉妬心がある面は否定できない。ただ、筆者はたとえそのようなチャンスがめぐってきたとしても「弁護士としてテレビに出る」のは真っ平御免である。それだと、テレビに踊らされるバカになってしまうとしか思えないからだ。
どうせ出るなら、むしろ、弁護士といった肩書きは忘れて、筆者のやりたいことをやりたい。ならば、芸人として出るほうが、弁護士よりは自分のやりたいことをできるので、まだマシである。
ただテレビで芸人のようにバカをやるとなると、「弁護士」という肩書は邪魔くさいだけなのだが。
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