<IAMKENJI>事実が伝わらなくなった時、その事実は歴史から消される…
メディアゴン / 2015年2月4日 0時16分
榛葉健[ テレビプロデューサー/ドキュメンタリー映画監督]
* * *
これが事実なら、ただ、祈るしかない。ジャーナリスト後藤健二さんが、残虐極まりない“自称”「国家」に拉致され、亡くなられた。後藤さんと湯川遥菜さんに対する殺害予告が出されて以来、心がざわめきに覆われ、積極的に何かを書く気持ちが持てなくなった。
かつてアジアの貧困地区などを回った自分の記憶とも重なり、今も胸苦しい日々が続いている。
後藤健二さん。命を懸けて、友人を助けに行った。危険な戦場に入る技量や経験を持っていた。そして何よりも、戦禍にあえぐ民衆の視点から事実を伝える優れたジャーナリストだった。
後藤さんのような人がいて初めて、私たちは世界で何が起きているかを知ることが出来る。そして、戦争や貧困、差別、抑圧といった困難な境遇にありながら声を上げられない人たちに代わって、彼らジャーナリストが世界の矛盾を発信してきた。その役割を果たしてきた存在が失われることは、社会全体の損失だ。他人事ではない。
自分の恐怖を抑制して、ここまで他者のために尽くせるのか。頭が下がる。
旧知の湯川遥菜さんの救出に向かった時の、最後の言葉。
「私に何があっても、シリアの人たちに何も責任を負わせないでください」
いかに平和を願い、戦下の人々に心を向け、寄り添っていたか。後藤さんの心の強さを思う。と同時に、ご自身の家族のことを慮って自制する選択肢もあったのではないかとも思う。
そんな彼の行動に対して、ウェブ上では無神経な投稿が幾つも見られる。
非道な集団が投稿した画像を面白がって拡散して、テロリストたちが狙う「恐怖の拡散」に加担する愚か者たちがいる。分かった気になって「自己責任」などと軽口をたたく者もいる。そんな唾棄すべき投稿の大多数は、後藤さんが身を置いた戦地とは比べようもなく安全な場所にいる人々によって書かれている。
今回の件で後藤さんに判断ミスや誤算はあったろう。それでも、困難な現場に身を置き、弱者に寄り添う姿勢を貫き、リスクを覚悟して友を助けに行った彼の行為を、“対岸の火事”を眺めるように、「自己責任」「無謀」などと責め立てる資格は、誰にもない。
せめて今は「人として」、ご遺族のために手を合わせ、鎮魂の祈りを捧げてもらえたら、と思う。かく言う私も、今出来ることは、無慈悲に奪われた御霊の平安を願い祈ることしかない。
ただ、これで終わらせてはいけない。
「テロに屈しない」のは無論のこと、「テロが起きない社会」を作るために何が出来るのか?「個人の悲劇」として矮小化せず、あらゆる立場の人が自分に出来ることを考え、小さな実践を積み重ねていくことが求められている。
同時に、湯川さんが拉致されてから最悪の結末に至るまでの半年間の、政府の対応に問題は無かったのか?首相の中東歴訪のタイミング、中東4カ国支援表明の際の首相発言や行動の問題など、何がどう影響したのか、緻密な検証が必要だ。
私は後藤さんとは面識は無かったが、中東で長期取材をしているドキュメンタリー映画界の先輩や友人がいる。今も危険地帯ギリギリの所から実態を伝えるフリージャーナリストの仲間もいる。彼らは、《伝えること》で多くの人が問題を知り、皆で平和な世界を目指していく礎になりたいと願っている。
「事実が伝わらなくなった時、その事実は歴史から消される…」
暴力で社会を支配する非道を食い止めるために、武器を持たないジャーナリストたちが懸命に伝え続けている真摯な姿勢を知ってほしい。そして社会全体で、彼らのいのちと尊厳を守ってもらいたい、と切に願う。
「テロに屈しない」ということは、
軍事、医療、食糧支援などさまざまな策があるのと同様、
「テロや暴力を告発するジャーナリストたちを守る」ことも、そのひとつの道だと私は考えている。
後藤健二さんの解放を願って、世界中から幾多の「I AM KENJI」のメッセージが寄せられた。それは、「KENJI」なる存在(=ジャーナリスト)が、すべての人の代わりに困難な現場で起きている事実を知らせてくれる「“私”たちの分身」であることを、誰もが分かっていることを示している。
《分身》は、すべての人の、《身体の一部》だ。
守られなければいけない。
後藤健二さんと湯川遥菜さんがどうか安らかに旅立たれることを願い、心からご冥福をお祈り致します。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
【写真展・イベント開催のお知らせ】高橋美香×安田菜津紀「パレスチナの猫」写真展が大阪MoMoBooksで開催中ー9/27にはトークイベント開催!長く占領の続くパレスチナで生きる猫たちの姿を伝えます
PR TIMES / 2024年9月20日 10時0分
-
「夜遊びし過ぎ」「業務中に平気で寝る人」と偏見や誤解 「特発性過眠症」患者の苦悩 SNSや小説で伝える思い
まいどなニュース / 2024年9月15日 11時0分
-
「先にハマスが自爆テロを行い、それに対してイスラエルが報復しているのではない」日本人が理解していないパレスチナの惨状と、優秀な大学生ほど殉教者になってしまう理由
集英社オンライン / 2024年9月14日 8時0分
-
ハマスは残酷なテロ組織なのか? 日本人が知らない社会慈善運動…ガザの社会インフラがハマスによって支えられてきた事実
集英社オンライン / 2024年9月13日 8時0分
-
「最後の1人まで」イスラエルで続く解放の祈り 訪日した元人質、ノア・アルガマニさんの証言
東洋経済オンライン / 2024年9月10日 9時0分
ランキング
-
1「不明の娘、見つかって」=流された住宅、祈る父親―大雨で川氾濫、石川・輪島
時事通信 / 2024年9月22日 18時27分
-
2大雨による能登4市町の通信障害続く、停電や通信回線断線で携帯大手4社の280基地局が停止
読売新聞 / 2024年9月22日 18時12分
-
3石川・輪島で6200世帯が断水 市内の6割 能登豪雨
毎日新聞 / 2024年9月22日 18時25分
-
4能登豪雨「地域や行政だけで対応できない」 被災首長ら窮状訴え
毎日新聞 / 2024年9月22日 17時9分
-
5石川県能登の豪雨 輪島市は雨量の記録をことごとく塗り替える
ウェザーニュース / 2024年9月22日 14時40分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください