<見世物になったダイエットや離婚は現実ではない>今のテレビは「現実感のある誇張」の仕方を学ぶべき。
メディアゴン / 2015年2月14日 1時46分
高橋正嘉[TBS「時事放談」プロデューサー]
* * *
テレビは「成功物語」が好きだ。それはドラマでもノンフィクションでも同じである。
どんなに苦労があっても成功に向かって進んでいくストーリーを好む。テレビの中で「苦労」は、あればあるほど良いのかもしれない。誇張してでもその筋書きを作っていくのがテレビなのかもしれない。もちろん、それは悪いことではないだろう。
苦労すれば苦労するほどするハッピーエンドになればカタルシスになる。ノンフィクション番組の場合も結局は同じだ。達成感がある終わり方を好むからだ。
しかし、問題はその誇張の仕方だ。ここに無理があると現実感を失ってしまう。作り手としては、そこは心配になるところだ。つまり、現実感のある誇張が出来ているのか? パターン化したり、やらっせぽくなったりしていないか? それが出来ていなければ現実感を失うことなってしまう。
筆者にはある印象に残っている番組がある。その番組は、ちょっとしたエピソードを撮ったものだ。ちなみに、撮った人間は知っているが筆者ではない。なぜか気になってしまった番組だ。
その番組は、元バンドマン、かつてはビッグバンドでジャズの演奏をしていた人の話を撮ったものだった。撮影した頃にちょうどライブステージをやっていたが、そのライブといっても、酔客相手の演奏でカラオケ代わりのようなものだった。
家に取材に行くと奥さんもいた。彼=元バンドマンは箪笥の一番上に手を伸ばし、隠してあったあるものを取り出した。「宝くじ」だった。
「今はこれが楽しみなのです」
という。すると奥さんが「えっ!」と声を上げた。そして、奥さんも箪笥の別の場所をごそごそ探し出した。すると、やはり「宝くじ」が出てきた。奥さんは、
「当たったら一度で良いからビッグバンドを集め、ジャズの演奏を夫にさせたいと思って」
とった。その時はすでに、バンドの仲間たちはばらばらになっていたのだ。「宝くじ」を買っていた自分の妻を見て、彼はびっくりしていた。なぜなら、その理由は、彼が「宝くじ」を買っている理由と同じだったからだ。
彼は、
「もう一度ビッグバンドの仲間の指揮をしたいんだよね」
と笑った。いつも夫婦でそんな夢を語っているのだろう。だが、実現する方法は宝くじ以外は思いつかなかったのだろう。だから口にも出さなかった。
もちろん、このエピソードはいわゆる「成功物語」にはほど遠い。そうそう当たるとは思えない「宝くじ」に夢を託す夫婦。だが、彼が「宝くじ」を買うたびにフルバンドを指揮する姿を夢見ているだろうな、という姿が浮かんでくる。そんな夫婦を見るだけで、なんだか暖かな気持ちになっていく。
テレビの好む「成功物語」にも、こういうちょっとした話があっても良い。
誇張する方法はいくらでもあっただろう。バンドもテレビの撮影だから集めることも出来たかもしれない。だが、そんなことをやらなくて良かった。「宝くじ」で彼の夢のことも、夫婦のこともすっかり伝わった。カラオケ代わりに演奏する3人か4人のバンドも、なんだか楽しそうにも見えた。
現実感というのは難しい。ダイエットを見世物にしたり、離婚を見世物にするとそれはもう現実とは別物だ。たまにそういう番組があっても良い。しかし、それが価値観になってしまっては困る。その方法論しかないというのはまずい。
いかに2キロ3キロのダイエットを面白く見せることが出来るのか。家庭のいざこざを興味ある仕方で見せることが出来るのか。それが通常の現実感だ。そこにはネタを見つける観察眼が必要だ。これが難しい。
無理して結論を求めようとすると破綻をきたす。今、無理な誇張ではない現実感のある「はらはら、どきどき。」を探すことのほうが、結局テレビを面白くする近道のような気がする。
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