<R-1ぐらんぷり2015>今年も爆発的におもしろいネタはなかったが、それは芸人の責任ではない。
メディアゴン / 2015年2月12日 0時32分
高橋維新[弁護士]
* * *
先日(2月10日)に開催・放送された「R-1ぐらんぷり2015」の総評を筆者なりに書いてみたい。
① 演出について
芸人がカッコつけたりモテようとしたりしたら終わりである。
R-1は、一人芸の一番を決めようとしている。スベったらスベったで、カんだらカんだでそれをツッコめば笑いに変えられるのがお笑いのいいところなのに、出場者がネタ中にそういう失敗をしても、自分で何とかしない限り、番組が救いの手を差し伸べてくれることはない。それは、笑いの芽がひとつ摘まれてしまっているということである。
R-1は、スポーツのようにトーナメントをやって、スポーツのように一人芸の技能に優れた芸人の頂点を決めようとしている。それはそれでドキュメンタリー的に料理すればおもしろくなるのかもしれないが、せっかく笑いのショウを笑いのショウとしてやるのだから、お笑い的におもしろくなるように演出をしてほしい。
すなわち、失敗があればそれをきちんと番組の側で(MCなどが)ツッコんで、笑いに変えるのである。ヘンな芸人がヘンな空気を作ってしまえば、宮迫が出ていってドツくのである。
これをやるとなると、生放送はやめた方がいい。生放送というのは編集というテレビの最大の妙味を捨て去った手法なので、少なくともバラエティでは、それをせざるを得ない場合を除いてやらない方がいいのである。編集をすれば、例えば宮迫だけじゃなくて字幕やナレーションでツッコむということもできる。
芸人のライバル関係みたいなフリを入れることもできる。ケツを気にしなくていいので、MCや審査員と出場者をもっと絡ませることもできる。どうにも料理のしようがないシーン(ネタ部分も含む)はカットすることもできる。
同じネタをやるコーナーでも、「めちゃ×2イケてるッ!」の笑わず嫌い王決定戦がおもしろかったのは、こういう編集をしているからである。見れば分かるが、笑わず嫌い王はメインコンテンツになる芸人のネタでさえもおもしろくないところは容赦なくカットしている。そしておそらく番組や作家がネタの中身自体に口出しをしている。
なぜR-1が生放送になっているのかといえば、恐らくR-1の結果にスポーツ的な速報性を要する(=日本シリーズや甲子園の決勝の結果のように、視聴者もそれが決まった瞬間に内容を知りたがっている)と番組側が考えているからだろうが、そんなことはない。それは全く、思い上がりである。R-1の結果自体に視聴者はそこまで興味がない。単におもしろいものを見たいだけである。
逆に、お笑いのショウではなく、スポーツ的なエンターテインメントとして打ち出していくのだとすれば、もっとちゃんとドキュメンタリー的な編集をすることである。イカ天やハモネプみたいに、出場者の裏側にもカメラを入れて密着するのである。ところがそれもなく、適当に煽って適当にネタをやらせ、それをそのまま垂れ流して終わりなので、何とも中途半端なのである。
とはいえ筆者は、お笑いのイベントである以上、ドキュメンタリー的な編集よりは、お笑い的な編集をした方がいいと思っている。ただ単に一人芸の頂点を決めさえすれば視聴者が喰いつくと思ったら大間違いである。もっと、ショウとしておもしろくなるように腐心するべきである。
一人芸の頂点を決めるだけであれば、芥川賞のように結果だけ教えてくれればいい。せっかくそれをショウとしてやるのだから、漫然とネタを垂れ流すだけではダメなのである。これは今年に限っての話ではないし、THE MANZAIとキングオブコントにも言えることなのだが。
② 出場者毎の寸評
・ゆりやんレトリィバア
まあ、おもしろいんじゃないかな。強烈なフラ(http://mediagong.jp/?p=459)を持っていて、英語が喋れて、モノマネができて、動ける。めちゃイケみたいな番組のレギュラーを獲得できれば使えそうだが、いかんせん今はそういう番組がない。逆に使ってみたら大したことはなかったというパターンもあり得る。
・ あばれる君
浣腸という中途半端な下ネタに逃げてしまったのはいただけない。同じ下ネタにしてもとにかく明るい安村やケーシー高峰のような思い切りも爆発力もないので、残尿感のみが残る。下ネタでいくならもっと開き直ってほしい。
・ とにかく明るい安村
露出が増えている。着眼点は非常におもしろいが、あと3回ぐらい見たら飽きると思う。なので、あと3回ぐらい頑張ってほしい。
・COWCOW善し
陣内のパクリという声もあるが、陣内はもうちょっとボケがストレートである。筆者は十分この人らしさが出ていたと思う。相方と一緒にずっと売れかけているが、爆発したいならもう少し演技力を磨いた方がいいと思う。ツッコミが大根だったので。
・厚切りジェイソン
欧米人がやるからおもしろいのだろう。漢字ネタだけだといずれ枯渇すると思うので、それからが勝負である
・エハラマサヒロ
ただのおもしろいモノマネ。なんかR-1にこの手のモノマネ芸人が出てくるのは違う気がするのだが、どうなんだろう。
・アジアン馬場園
友近のパクリだと言っている人がいたが、友近よりは分かりやすかったと思う。その分尖った部分も特になかったが。
ただ、友近を目指せと言っているわけではない。
・マツモトクラブ
個人的には一番好きだった。一人芸でボケとツッコミをやる場合、どっちかを機械に任せる必要がある。陣内やCOWCOW善しはボケを機械にやらせたが、この人はツッコミを機械にやらせるという逆を突いてきた。ただ、あのツッコミも生で入れているならそれはもう一人芸じゃないと思うけどね。流石に録音だよね?
・NON STYLE石田
極めて普通のフリップ芸。極めて普通。もっと、もっと練れる。こういう人が決勝進出するから「吉本がー」とか言われるのである。吉本の影響力がないんだとしたら、審査員がもっとちゃんとすべきである。
・やまもとまさみ
ティラノサウルスになる催眠術をかけられるというネタである。「目指すは3連覇」という本人の意気込みが見事なフリになっていた。それほどキテレツなネタだった。なぜこれで勝負しようと思ったのか。まあ、魔が差す時というのはある。
・じゅんいちダビッドソン
本田圭祐のモノマネである。岡村隆史のオールナイトニッポンで岡村がやりそうなネタである。これ自体はおもしろいので、本田が有名人として寿命を迎える前に、早く次のを見つけることである。
・ヒューマン中村
普通のフリップ芸である。この人の問題は、フリップネタとネタの間のつなぎトークが絶望的におもしろくないことだと思う。全部スベってたから。
<総評>
今年は、爆発的におもしろいネタはなかった。基本的には、どんぐりの背比べである。ただ、それは毎年そうである。爆発的なおもしろさがないのは、前述の通り、TVショウなのにネタをそのまま垂れ流しているからであって、芸人の責任ではない。
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