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<マツコより大島優子より佐藤浩市が面白い>即興芝居「鶴瓶のスジナシ」佐藤浩市の見事なギャグ

メディアゴン / 2015年3月6日 2時30分

高橋秀樹[放送作家]

* * *

3月2日、赤坂BLITZにて「ライブ・ビューイング『鶴瓶のスジナシ』」劇場版(3月2日〜4日)を観た。

「スジナシ」(TBS)とは、ホストの笑福亭鶴瓶さんが、ゲストと一つのセット内で即興ドラマ(2人芝居)を十数分間演じ、収録したドラマを見ながら反省会を行うという仕組みのバラエティ番組である。中部日本放送の制作で昨年2014年6月まで放送していた。

今回、筆者が観たのはそのオン・ステージ版である。番組と違うのは客入れがあることで、ドラマ部分はスタジオ収録と同じにしようということか、客は笑ったり拍手したりすることが禁止されている。

この日のゲストは俳優・佐藤浩市さん。今回は3日公演で、他のゲストは大島優子さんと、マツコ・デラックスさんであるが、どの回を観たいかは「性格占」になるくらいにはっきり分かれるだろう。筆者が観たいのは当然、佐藤浩市さん。他の二人は展開が予想できてしまうので観たい気持ちが起こらないからだ。

「鶴瓶のスジナシ」はバラエティ番組としては、斬新で、意欲的。バラエティの文法を守った優れた番組である。だから16年も続いたのだろう。繰り返すが、番組の前半部は.全く打ち合わせなし、出たところ勝負の「即興芝居」17〜8分。いささか長いがこの部分がいわゆる「ふり」。ここは極端な話インタレスティングを保つだけでよい。いわゆるダレ場と呼ぶれる部分だ。

以前TBSのワイドショーで「名古屋でやってるすごい番組」と言うことで、「スジナシ」を紹介したが、5分くらいのコーナー企画でこの番組のおもしろさを伝えるのは至難の業だ。ぼくは、ディレクターに「即興芝居の部分は短く刻んで編集しないでシークエンスでざっくりカットしてくれ」と、お願いした。

後半部は中井美穂アナが進行、カット割りされたVTRを再生しながらの反省会トーク。ここではバラエティに絶対必要な笑いを取るゾーンで「落ちとフォロー」がはいる。

では、実際の舞台はどう進んだのか。

まず、緊張感あふれて見守る「即興芝居」。提示された場所設定は「ショーパブの楽屋」である。タキシードを着ている鶴瓶さんとラフなジャンパーを着こなした浩市さんは、どんな人物設定で絡むのか。即興なのに手足の捌き方は見事。名優2人だけに大変綺麗だ。

ここで鶴瓶さんは、賭に出た。自分が先輩芸人で、浩市さんを「才能はあるがネタをパクられまくってショーパブにくすぶっている哀れな芸人」と言う設定に落とし込んだのである。残念ながら、筆者はこの時点で即興芝居の方にはあまり興味が持てなくなった。放送作家の職業病である。

このパターンで、芸人が芸人をいじるコントはもう何度も、見飽きるほど観ている。一縷の望みは相手が佐藤浩市さんであることだが、その一縷の望みは見事に花開いた。DVDも発売されるそうだから、それで確認していただきたいが、浩市さんは「笑いの人」ではできない見事なギャグを2つもはめたのである。佐藤浩市恐るべし。

反省会のトークは会場爆笑。このトークの中で僕は次のことを興味深く聞いた。これも職業病の類だろう。

鶴瓶さんはゲストが佐藤浩市さんであることを知って、宮藤官九郎さんと、中井貴一さんに、どう扱えばいいか聞いたそうである。2人とも口を揃えていったのは、

 「攻めても、大丈夫な人だから、とにかく攻めろ」

と言うことだったそうだ。ああ、それで鶴瓶さんはあの設定に突進していったのかと、得心がいった。浩市さんの方は鶴瓶さんに「宮藤官九郎、中井貴一」と3回ほど振られたが、それには一切答えずこんな興味深い話を聞かせてくれた。

 「スジナシに出たことのある三谷幸喜にどうしたらいいか聞いたんです。そしたら、できるだけフラットな役柄で出ろって」

さすが、三谷。間違っていない。そしてもうひとつ間違っていなかったのは、「スジナシ」番組版の姿勢である。

 「収録の日までゲストは誰だか教えない」

こういう感想を持ってしまうのはやっぱりひねくれた職業病だろう。

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