<主人公は非モテ系男女>フジテレビ「デート〜恋とはどんなものかしら〜」は現代のトレンディ・ドラマだ
メディアゴン / 2015年3月8日 2時54分
水戸重之[弁護士/吉本興業(株)監査役/湘南ベルマーレ取締役]
* * *
杏である。長谷川博己である。なんたって、「フジテレビの月9」である。「デート〜恋とはどんなものかしら〜」は今季一番といってよいほどの面白さをみせている。
脚本は、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズや、テレビドラマ「相棒」シリーズ、「リーガルハイ」シリーズの古沢(こさわ)良太。面白くないはずがない。
ドラマの主人公は、二人の非モテ系男女。
理系出身で、女子力ゼロの眼鏡の30歳公務員、藪下依子(杏)。ロボットのようなセリフまわしで、何事も理屈とデータで正解を導こうとするタイプ。およそ自分を可愛く見せるという努力に縁のない人生だったが、父孝行とDNAを残すという大義名分のもと、結婚と出産を目指して婚活をする。
一方、引きこもり・オタク系男子の谷口巧(長谷川博己)は、「高等遊民」の生活をめざし、働かずに寄生させてくれる結婚相手を探す。
お互い、相手に恋心をもてないまま、それぞれの理由で結婚に向けて、ちぐはぐな交際をスタートする。依子は、インターネットで「女の子が可愛く見える方法」を研究し、「アヒル口」、「上目使い」というワザを巧に見せる。が、巧は、へんな顔で睨まれた、とおびえる始末。
オープニングは、ザ・ピーナッツの往年のヒット曲「ふりむかないで(1962)」。電飾のステージ上で、杏と長谷川が曲に合わせてダンスを見せる。1960年代の歌謡ポップス全盛期の「ザ・ヒットパレード」を再現しているようだ。
エンディングは、フジテレビ「テラスハウス」出身のchayが歌う「あなたに恋をしてみました」。軽快な曲に載せた高音の歌声が心地よい。これまた21世紀のポップス。
「フジテレビの月9」といえば、「東京ラブストーリー(1991)」、「ロング・バケーション(1996)」など「トレンディ・ドラマ」で一時代を築いた、今でもピカピカのブランドだ。そんな「月9」枠に非モテ系男女のドラマをぶちこんできた。これは一見、トレンディ・ドラマの自己否定のように見える。が、そうではない。
かつてはカッコ良かったトレンディ・ドラマの様式が、いつしかコントのネタとなり、あとで観かえすと気恥ずかしい思いをするとき、「かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう」という言葉を思い出す。不朽の名曲「サルビアの花」を世に送り出したシンガー・ソングライター早川義夫が、同曲を収録した1969年のアルバムの長いタイトルだ。
この言葉、裏を返せば、「かっこ悪いことはなんてかっこいいんだろう」ということに通じる。
「デート」におけるかっこ悪い(はずの)2人が、やがてかっこいい場面を迎えることになるのか-そんな期待を抱かせてドラマは進む。
杏の芝居はさすがの実力で、観ていて「上手いなぁ」とうなってしまう。一方、相手役の長谷川博己。NHK「セカンドバージン(2010)」で年上の女性編集者(鈴木京香)と不倫関係になるエリート官僚を演じたが、なんか違うなぁ、と思って観ていた。今なら、「ここは、齋藤工でしょう」と言いたくなるところだ。
日本テレビ「家政婦のミタ(2011)」では、父親の自覚を持てず不倫をする情けない男を演じたが、なんだ、こいつ!といらだちが募るばかりだった。ところがどうだ。「デート」での巧役は、まさにはまり役。「あ、やっぱり、本来、こっち系の方ですよね」、とご本人に声をかけたくなるくらい、上手い。カッコ悪さからスタートしているので、徐々に人間としてカッコよくなっていく。
年越しのキス・パーティーの場面、巧は、勇気を出して、自分の好きなアニメのコスプレをして会場に来てくれ、と依子のアパートの前に衣装を置いていく。ギリギリで留守電を聞いた依子は、興味のなかったアニメの衣装に急いで着替え、スクーターにのって、港のパーティー会場に向かう。そして、失意のうちに会場を去りかけた巧の前に現れる。
巧の恰好は、石ノ森章太郎の傑作漫画「サイボーグ009」の主人公・島村ジョーだ。依子の恰好は、唯一のヒロイン「サイボーグ003」ことフランソワーズ・アルヌール。
大晦日の夜の横浜港に、二人はともにサイボーグ戦士の赤い衣装に黄色のロングスカーフを風になびかせて対峙する。杏扮するフランソワーズが、長谷川扮するジョーに向かって言う。
「遅くなってすみません。ゼロゼロナイン」
-ああ、かっこ悪いということはなんてかっこいいんだろう。
非モテ系の依子と巧ではあるが、依子には中島裕翔が、巧には国仲涼子が想いを寄せる。このへんは古典的なトレンディ・ドラマの設定を踏襲しているのだが、その先にいる2人は恋愛不全症。それでも、少しずつ依子と巧の距離は縮まっていく。それは恋心ではなく、家族や友人を巡る人間としての心の接点からだった。
このドラマは、まぎれもなく、現代のトレンディ・ドラマである。
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