<TBSドラマ「まっしろ」>絶妙なキャスティングの木村多江とナースの階段を登る堀北真希の距離に注目
メディアゴン / 2015年3月6日 1時47分
水戸重之[弁護士/吉本興業(株)監査役/湘南ベルマーレ取締役]
* * *
堀北真希主演のTBSドラマ「まっしろ」は、病院を舞台に、上下関係や派閥争いに巻き込まれる看護師たちの姿を描いたコメディ。脚本は、ヒットメーカー井上由美子(最近では「昼顔」、「おやじの背中」など)。
今、おっとり系の役をやらせたら、堀北真希と綾瀬はるかが双璧だろう。堀北は「梅ちゃん先生」(NHK・2012)では、おっとりした中にも凛としたところのある女医役であったが、今回はおっとりしっぱなしのナース役である。
阿川佐和子のトーク番組TBS「サワコの朝」(2月19日の回)にゲストで出たときにも、おっとりパワー全開であった。
中学生の時、家の近所でスカウトされて、知らない人に声かけられたら逃げなさいと言われていたので逃げたら家まで着いてこられた、とか、友人の電話での長時間の相談に乗るのを最近やめた、それは問題を解決することが大事なのではなく、一緒の時間を作ってあげることが大事なんだということに気付いたから、とか。
あー、これは文字にすると、とてつもなくフツーな感じなのだが、彼女が微笑みながらおっとりと話すと、こちらも、うんうん、と聞いてしまうのである。
サワコさんもどこで突っ込んで良いやらわからぬご様子で、「Always 三丁目の夕日」での堀北の役さながらにおどけて青森訛りでパスを出してスルーされても、「聞く力」を駆使してあいまいな笑顔で番組は終了した。「堀北真希・最強伝説」という言葉が浮かんだ。
ドラマの舞台となる東王病院は、セレブ向けの病院で、高級ホテル並みの施設とサービスを提供し、「お金持ちの患者様は神様です」とばかりの徹底したサービスを行う。そんなセレブ病院に他院から転職した有村朱里(あかり)は、「拝啓 ナイチンゲール様」と心の中で呼びかけながら、看護師修行に励む。
男性患者が入院してくると、すばやく左手薬指をチェックして独身か否かを確認し、指輪をしていないと一層誠意を尽くして看護し、玉の輿の座を狙う。結局は、毎回、そのセレブ患者には奥さんがいたり他の人を好きだったりして野望はかなわないのだが、それでも患者に感謝されたり上司や仲間たちの心に触れて、ナース道の階段を登っていく。
もう一人、看護師長役で出演している木村多江の芝居にも、注目である。自身が主催する勉強会と称する集まりに誰がどの程度参加するかで、忠誠心を図っている。若いナースたちからすればいわば「大奥のお局(つぼね)様」だが、実際は、真の通ったリーダーシップとレベルの高い看護師魂を秘めている。
木村多江といえば、映画「東京島」(2010・篠崎誠監督)の主演が思い出される。無人島に流れ着いた1人の女性と23人の男の生き残りをかけた性と生を描いた作品だ。
島唯一の女性として男たちの性の対象となり、自然と女王のような役回りになるわけだが、木村は女王のイメージではない。それもそのはず、映画は、地味な女性が大勢の男の中に一人取り残されたら、というのがテーマだからだ。
映画の原作となった桐野夏生の同名の小説では、島で一番太った中年女性という設定である。さらに、この原作のモデルとなった「アナタハン島事件」(1945年~1950年)の女性も、残された映像を見る限り美女とか女王蜂とか言われるようなタイプには見えない。島を脱出した帰国後、生活のために出演した映画で見せたダンスシーンは「ジャングル・ブキー」を歌う笠置シズ子を思いだした。
地味な女性であれ、太った中年女性であれ、孤島で男多数の中に女1人という状況がその女性のそれまでの価値と心を変えていく、というのが「東京島」のポイントであった。
この場合の主役のキャスティングは難しい。いわゆる美人すぎる女優、華のある女優では単なる女ハーレムの物語になってしまうし、かといって、本当に地味すぎる女性や太った中年女性では、極限状態にいるわけでもない観客には感情移入が難しい。
そのギリギリのところでキャスティングされたのが木村多江という女優さんだったのではないか。
さて、中盤まで、朱里(堀北真希)と看護師長(木村多江)の距離は、それほど近くなかった。お局様に対してほかのナースが陰口を言ったり反対勢力の動きをする中、朱里は師長なのだからついて行かなくっちゃ、と単純に思う。
あたかもサワコのパスを堀北がスルーしまくったように、朱里は少しずれたところで師長に敬意を払う。師長も朱里を出来の悪いミーハーな新人看護師としか見ていないようだった。
ところが、後半に入り、東王病院の看護のホスピタリティ(おもてなし)という理念が誤解されて世に報道され、病院全体がピンチにおちいるあたりから、二人のベクトルが同じ方向を向き始める。ナース全体が1つのゴールを目指してパス交換を始めたのだ。
師長のパスをちゃんと受け止められるまでに朱里が成長するか、終盤に向けての堀北と木村の距離が見どころである。
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